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2015年11月07日09:57

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〔小説〕 八大龍王伝説 【395 弱小フルーメスの意地(十二) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(前)〜】


 八大龍王伝説


【395 弱小フルーメスの意地(十二) 〜差し出すモノ、手に入るモノ(前)〜】


〔本編〕
「それでは、私の方からお話させていただきます」
 この言葉でネムの話が始まった。
「まず、私(わたくし)というよりナゾレク地方の地方領主であるシェーレ様の立場ですが、表向きはソルトルムンク聖皇国の一地方の領主ということになりますが、実体は多少異なってきます」
『……』
 皆が無言の中、ネムの話が続く。
「それには今のソルトルムンク聖皇国の状態について先ずお話いたしますが、端的に申し上げて聖皇国宰相ザッドの思うのままの状態でございます。そういう意味ではジュルリフォン聖皇も、ザッドの言いなりと申せましょう。或いはザッドの魔力により、既に傀儡となっている可能性は十分にあるとシェーレ様はおっしゃっております。
 そしてザッドは地下帝國の魔界の王とも繋がりを持ち、この人間の住む地上界から人間を追い出し、魔界の者が地上界に住もうと画策をしております。これもシェーレ様の見解です」
 この辺りの件(くだり)は、シェーレの憶測の域を出ず、いわゆる外交的に相手方に不安を与える手法の一つである。
 ジュルリフォン聖皇が傀儡というところは全くの虚言であるが、地下とザッドが繋がりを持っているという部分は、憶測ではあるが真実に近かった。
「そのようなわけで、今のソルトルムンク聖皇国は、フルーメス王国の方々敵国のみの敵ではなく、ヴェルト大陸に住む人類全ての敵なのであります。このザッド派といえる聖皇国に対抗する勢力として、シェーレ様は、反ザッド派、またの名をシャカラ軍――むろん第三龍王の沙伽羅龍王様の御名を借用させていただいておりますが――、それの構築に暗躍しておられます。
 既にカルガス國のフラル姫勢力、クルックス共和国の共和の四主勢力などが、そのシャカラ軍の在り方に合意されており、いざという場合は合力くださいます。聖皇国軍でも銀狼将軍ドンクや紫鳳将軍エアフェーベン、そしてここにいる黄狐将軍ノイヤールなどがそのシャカラ軍の構成メンバーです」
「それでは、林の麗姫殿は生きているということか? やはり、父ヅタトロ元王の見解は的を射ていたということだな。それで、カルガス國のフラル姫殿とはいかなる方なのか? そして彼女たちは今どこにおられるのだ?」
 ここで、ヘルマン王が問いを投げかけた。
 ネムが答える。
「フラル様とは、カルガス國最後の王であられたウィップレスト王の子であり、カルガスの正当なる後継者です。また、後の質問のどこにいるかに関しては、今はお答えできません。申し訳ございません」
「まあ、よかろう。ネム! 先を続けてくれ」
「はい」
 ネムが話を続ける。
「これらシャカラ軍は、近い将来、ザッド派のソルトルムンク聖皇国に対抗するために立ち上がります。しかし、今はその時期ではございません。マクロ的な視点では、ヴェルト大陸の民のため。そして今までに滅ぼされましたカルガス國、クルックス共和国の復活も目指します。このシャカラ軍にフルーメス王国の勢力にも加わっていただきたいと、我が主シェーレ様は考えておられます」
「……そのためにこの國には一回滅んでいただきたい!」
 急に男性の低い声が話に割り込んできた。黄狐将軍のノイヤールであった。
 さすがにこのノイヤールの無粋な言いぶりには、フルーメスの人々は色めき立った。しかし、ノイヤールはそのような場の空気に全く頓着せずに話を続ける。
「そして、いくつかのモノを俺に差し出して欲しい。むろん、それによってこのフルーメス王国はもっと大きなモノを手に入れることができる! 差し出すモノ、手に入れることができるモノ、どちらから聞きたい?! ヘルマン王!」
「面白き男だな。ノイヤールとやら! まずは私が差し出すモノから話していただこうか?」
「単刀直入に申し上げる。英邁な王に面倒な言い回しは不要と思われますので……」
 ノイヤールはヘルマン王の目を真っ直ぐ見据え、言葉を続ける。
 この不遜な男に、フルーメス側のシュトラテギーを除く皆が、怒りを覚えたが、当のヘルマン王がそれに対して一切、指摘をしないので黙っているしかなかった。
 さすがにノイヤールの無粋さは一緒に同道したネムに、同道させたことが間違いだったのではないかと思わせるほどであった。
「三つ差し出していただきたい!」
 ノイヤールは続ける。
「一つが、現在蒼鯨軍が攻略している八つの城。一つは既に落城しているので、実質的には残り七つの城全て。一つがここ、フルーメス王国の首都にして王城であるコリダロス・ソームロ。そして最後の一つがヘルマン王の首!」
『何だと! 無礼であろう!!』
 さすがにフルーメス側の重臣達は全員立ち上がり、ノイヤールを睨み付けた。
 立ち上がっていないのは、ノイヤール本人とネム、ヘルマン王、老臣シュトラテギーだけであった。
「……と申し上げたいところですが、最後の一つは『戦略』の異名を持つシュトラテギー殿の首で構いません!」
 ノイヤールは淡々とこのような言葉を吐いた。
「この二人を殺し、フルーメスとして最後の戦いをしましょう!!」
 へルマン王の家臣の一人がそう言うと剣を抜き払った。
「待て、ロイル! 他の者も一先ず座れ!!」
 へルマン王が一喝した。
 この優しそうで華奢(きゃしゃ)な王のどこに、これほどの声量があるかと思われるほどの、部屋が揺れようかという程の声であった。
「ノイヤール殿! 続けてくれ。差し出すモノに続いて、我がフルーメスが手に入れることができるモノを……」
「……それでは続けましょう」
 ネムの心配をよそに、ノイヤールは全く頓着なく話を続けた。
「こちらも三つあります。一つがフルーメスの民衆の命。一つが、フルーメスが復活するための新たな軍勢。そして最後の一つがフルーメス王国の復活でございます。それも龍王暦二百年代の六将大戦役でフルーメス王国が失ったヴェルト大陸の領土を含んだ上での復活です!」
「……」
 これには怒りをあらわにしていたフルーメスの家臣たちも一瞬、唖然としたが、すぐに別の怒りが湧き上がってきた。しかし、さすがに王に一喝されたばかりなので、誰も立ち上がりもせず、声も発しなかった。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 ウィップレスト(カルガス國の元王。故人)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖皇国の紫鳳将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖皇国の宰相)
 シェーレ(ナゾレク地方の地方長官)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 ジュルリフォン聖皇(ソルトルムンク聖皇国の初代聖皇)
 ヅタトロ(フルーメス王国の元王。四賢帝の一人)
 ドンク(ソルトルムンク聖皇国の銀狼将軍)
 ネム(シェーレの片腕的存在。シェーレウィヒトラインの元三精女の一人)
 ノイヤール(ソルトルムンク聖皇国の黄狐将軍)
 林の麗姫(共和の四主の一人)
 フラル姫(カルガス國の姫)
 ヘルマン王(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
(地名)
 コリダロス・ソームロ(フルーメス王国の首都であり王城)
 ナゾレク地方(元カルガス國の王城のある地方)

(その他)
 共和の四主(クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫(れいき)、炎の童子、山の導師の四人)
 蒼鯨軍(ソルトルムンク聖皇国七聖軍の一つ。スツールが将軍)

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