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2015年10月17日09:09

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〔小説〕八大龍王伝説 【392 弱小フルーメスの意地(九) 〜大官、中官、小官〜】


 八大龍王伝説


【392 弱小フルーメスの意地(九) 〜大官、中官、小官〜】


〔本編〕
「うむ。スツールという将。性格は悪魔のように残忍だが、決っして愚かな男ではないようだ。自分の軍勢を二十に分けることによって、自分がどこの部隊に所属しているのかを、不明にしてしまった。いわゆる二十のどれが本陣かは、全く分からなくなってしまいました。ヘルマン王! とりあえずはお覚悟をなさってください!」
 老将シュトラテギーは、こう呟いた。
 ここはフルーメス王国の首都であり王城であるコリダロス・ソームロ。
 この玉座にあたる部屋で現王へルマン、フルーメス三傑の一人『戦略』のシュトラテギー、『暗殺』のアッテンタート、そして数名の家臣たちが一堂に会していた。
「ああ、最初から覚悟はしている。それにこの戦いに関して降伏は考えられない。将(スツール)の性格からいって、降伏しても皆殺しだろう。さらに我が國の国民感情が降伏という選択肢を許さないだろう。
 前王(トェゥカチンチラ)の毒殺と、一般人民への非道な残虐行為。我が国民はたとえ幼児といえども、敵に一矢報いるか、一太刀あびせないと、収まらない状況に来ている。ここは徹底抗戦だ!」
「さすがはヘルマン王。若いとはいえ英邁でいらっしゃいます。それであれば、この老骨に鞭をうってでも、全力をこの戦いにささげましょう。おい!」
「「「ははっ」」」
「フルーメス島の全図をこの場に広げよ! そして敵軍の場所を、石を用いて表せ!」
 シュトラテギーは三人の家臣に命じた。
 三人の家臣は、二メートル四方の巨大な竜皮紙を広げ、様々な大きさの石を――あらかじめシュトラテギーに言われていたのであろう――所定の場所へ次々と置いていった。
「この地図で一際大きな黒い石が、ここコリダロス・ソームロ――いわゆる首都にあたります。そしてそれより小振りな拳大(こぶしだい)の黒い石が、我が國の八つの城塞都市。そして、白い小さな石が二十個ありますが、二日前の敵軍の配置になります」
 ここまでのシュトラテギーの説明に誰も口は差し挟まなかった。
「さて……」
 シュトラテギーが続ける。
「問題の敵軍の本陣ですが、この配置等から鑑みて、この三つの陣が限りなく怪しいです」
 そう言うとシュトラテギーは、八つの城塞都市を攻めている二軍と、海上に待機している四軍のうちの一軍を指し示した。
「アッテンタート!」
「おう!!」
 『戦略』のシュトラテギーの呼びかけに、『暗殺』のアッテンタートが応じた。
「お前! 手勢を率いて今示した三軍の青い被り者(二十の部隊の青い布をまいた者たち)とその周辺の十名程度を狩れ! 手勢は何人いる?!」
「二百!!」
「用意する。すぐに発て!」
「まかせろ!!」
 シュトラテギーとアッテンタートの会話であった。
「二百で本当にいいのか?!」
 ヘルマンは驚いてアッテンタートに尋ねた。
「王! 俺は別に何千の軍と相対するわけではないぜ。こっそり本陣に忍び込むのだから、二百でも多いぐらいだ!」
 アッテンタートは得意げにそう言うと鼻を毛むくじゃらな指でほじった。
「ヘルマン王。アッテンタートも心配いらないですが、八つの城塞都市とこのコリダロス・ソームロは、全て堅城でございます。守りに関しては、フルーメス王国は他国より優れております。弱小国の宿命ともいえましょうが……、スツール軍を反対に追い落としてみせましょう」
 老将とはいえ、まだまだ血気盛んなシュトラテギーの言葉でこの場は締めくくられた。

 龍王暦一〇五七年並びに皇王暦元年五月に始まったソルトルムンク聖皇国とフルーメス王国の戦いは、戦力差からは到底考えられない程の長期戦に突入していった。
 その理由はフルーメス王国の三傑の二人――『戦略』のシュトラテギーと『暗殺』のアッテンタートによる活躍によるところが大きい。
 シュトラテギーが指示した蒼鯨の分隊の長をアッテンタートが暗殺していくのである。
 残念ながらシュトラテギーが最初に目をつけた三部隊には、蒼鯨将軍のスツールはいなかった。
 或いはいたのかもしれないが、最初の部隊の蒼い頭巾の将(スツールの影武者)が倒れたときに、別の部隊にスツール自身が移動したのかもしれない。
 とにかくアッテンタートは、シュトラテギーの指示どおり三部隊の蒼い頭巾の将と、その周囲の参謀らしき者を数名暗殺することに成功した。
 先ほど述べたように、その中に蒼鯨将軍スツールはいなかったが、それでも隊長クラスより上位クラスの『官(かん)』を数名倒した。
 それにより、三つの分隊は一時、隊としての機能の半分以上を停止したぐらいである。

 さて、隊長と官という地位(クラス)について少し説明する。
 今までにこの小説には、小隊長、中隊長、大隊長と副官、将軍の五つのクラスが出てきた。
 シャカラであったハクビが、最初にグラフ将軍率いる当時(龍王暦一〇五〇年)のソルトルムンク聖王国の残党軍の時、九人を率いる小隊長に任命された。
 つまり、自分を含めて十人規模を率いる隊長が小隊長である。
 そしてその五倍の五十人規模が中隊長、さらに五倍の二百五十人規模を率いるのが大隊長である。
 そして大概の國はその上に将軍の補佐である副官を置き、軍が成り立っているのである。
 しかし、ソルトルムンク聖皇国レベルの国家ともなると将軍が万単位の規模の軍を操る。
 ちなみにソルトルムンク聖皇国とバルナート帝國を除く六國の将軍はせいぜい千単位の軍しか指揮しない。
 それに対し、万単位の軍であれば、将軍の補佐である副官と大隊長との間に、指揮する兵の規模が開きすぎるという問題点が出てくる。
 そのため、隊長と副官をつなぐ地位として小官、中官、大官の三つの地位が必要となる。
 小官が千人規模を指揮する地位。中官が三千規模。そして大官が五千から六千規模である。
 これらの三つの官は必ずいるわけではなく、その軍の規模に応じて設置される。
 そして、官の地位は固定的な地位ではなく、大隊長クラスの者が小官を務め、副官やソルトルムンク聖皇国のような三将軍や六大将軍のような特別な将軍ではない普通の将軍位の者が、中官や大官を務めるなど流動的である。
 そして、今回の蒼鯨軍の場合は、一万の正規軍と五万の親衛隊の六万で構成されているため、六十人の小官、二十人の中官、そして十人の大官がいる計算になる。
 実際の史書によると、この時の戦いで、蒼鯨軍には三人の大官と、三人の副官が存在していたと記されている。
 アッテンタートが最初の三つの分隊を襲撃した際、そのうちの一人の大官を暗殺することに成功した。
 三人の大官と三人の副官の配置では、おそらくそれぞれが一万ずつ担当していたと考えられるが、それであれば、一万規模を担当していた一人を殺害したことになるであろう。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 アッテンタート(フルーメス王国三傑の一人。暗殺の傑人)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
 シュトラテギー(フルーメス王国三傑の一人。戦略の傑人。三傑の筆頭)
 スツール(ソルトルムンク聖皇国の蒼鯨将軍)
 トェゥカチンチラ(フルーメス王国の前王。ヅタトロ元王の長子)
 ハクビ(記憶を失っていた頃のシャカラ)
 ヘルマン王子(フルーメス王国の王。ヅタトロ元王の子)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖皇国(龍王暦一〇五七年にソルトルムンク聖王国から改名した國。大陸中央部から南西に広がる超大国)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 コリダロス・ソームロ(フルーメス王国の首都であり王城)
 フルーメス島(ヴェルト大陸の南に位置する小さな島。フルーメス王国の全土)
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