ウインブルドン・テニスも、残すところあと二日になりました。
テニスは、プレイしている選手を見なくても、観客席を見てれば何をしているのかが分かるスポーツです。(とくに、コートをサイドから見ている場合)観客の首が定期的に左右に動くからです。
ところが、テニスをしているのに、観客の首がほとんど左右に振れない選手がいました。
ゴラン・イバニセヴィッチ(クロアチア)です。
何しろ、この人のウリは193センチの長身から繰り出される強烈なサーブ(その名もサンダー・サーブ。マンガみたいですね)でしたから、ズドン一発でキマることが多かったのです。ほとんどの対戦相手がまともにレシーブできず、エースがキマるか、サーブミスでネットやフォールトになるか、さもなければ、何とかレシーブしても、ボレーの餌食になって、テニスに付き物であるはずのラリーが、極端に少なくなったのです。
ラリーのないテニス。
なんか、いかにもつまらなそうですね。
私も、テニスってこんなに単調な(だって、ズドン一発ですから)スポーツなのだろうかと始めの頃はこの人のプレイスタイルに甚だしい違和感を感じて、好きになれませんでした。人がせっかくテニスを見ようとしてるのに、テニスに似て非なる別のスポーツを見せられているような気がして。
例えば、スキーのスピードを競う種目に滑降という競技があることをご存知の人は多いと思います。でも、同じスキーのスピードを競う競技にも、もう一つスピードスキーというものがあります。こちらの方は、ある特定の一地点を通過するスピードを競うものなのですが、なんだか新幹線やリニアモーターカーの走行試験のような趣で、これがスポーツ?と感じてしまうところがあります。
イバニセヴィッチのテニスは、あたかも、滑降の会場でスピードスキーをしようとしているような印象がありました。
上手くいくはずがありません。
実際、この人はよくミスもしました。
ウリであるはずのサーブでさえ、キマったときこそ破壊的な威力を発揮しましたが、ネットやフォールトになることも多く、まして、その他のプレイでは簡単なミスが目立ちました。
例えば、この人のプレイスタイルに似たプレイスタイルとして、サーブ・アンド・ボレイということが言われますが、その名手と云われた人たちは皆共通して華麗なボレーの技術を持っていたものでした。ところが、イバニセヴィッチの場合はそれはほとんど感じられず(換言すれば、それほどサーブが凄かったということでもありますが)、珍しくレシーブされて返ってきたボールに驚くのか、つまらないボレーミスをよく犯しました。
ただ、その度にカッカするこの人の姿を見ていると、だんだんその様子が可笑しくなってきて、本人には気の毒なのですが、私はいつしかこの人がカッカする姿を心待ちにするようになってしまいました。うんうん、そうだよ、そうなんだよ、人間うまくいかない時には、自分に腹が立つものなんだよな、という感じで。
考えてみれば、テニスは自分のサービス・ゲームでブレークされない限り、負けることはないスポーツですから、イバニセヴィッチのプレイスタイルは、確かに典型的なテニスのそれではないとしても、滅多にレシーブできないほどのサーブを繰り出すことは、ある意味非常に理に適ったものといえます。
一度くらいはこんな人がグランドスラムのどれかを獲ってもいいじゃないか、と思いながら見ていたら、イバニセヴィッチは、本当に一度だけグランドスラムのタイトルを獲ってくれました。
2001年のウィンブルドンでのことでした。
対戦相手は、オーストラリアのパトリック・ラフター。
優勝を決めたゲームのクロアチア語の動画があったので、ご紹介します(8分弱)。
例によって、イバニセヴィッチはこのゲームでも度々ミスを犯し、ラリーらしいラリーもほとんど見られません。クロアチア語の実況も何を言っているのかはよく分かりません。
ですが、ミスにイラつきながらも懸命にプレイし、時には神に祈るイバニセヴィッチの姿をクロアチア語の実況の熱い息使いとともに見ていると、結果は分かっていても、優勝が決まった瞬間には、今でも「良かったね!」と祝福してあげたくなってしまいます。
https://www.youtube.com/watch?v=AcdVy_7ps_s
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