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2015年06月24日02:28

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004 おじや☆ダンス 7/

さき (歌、途切れ、ふと夢のように)ロクちゃん。
ロク へえ。
さき さいきん夢って、みる?
ロク さあ、みたかも知れませんが忘れッちまいました。
さき 私も。ふふ。
ロク へへ。
さき でも私、ゲンジツもすぐ忘れちゃうの。夢もゲンジツもおんなじようにすぐ忘れちゃうんなら、どっちが夢だか分かりゃしないわね。
ロク 今はゲンジツでさ。
さき そうだといいんだけど。ね、いつかの木登りの女の子のはなし。
ロク …。
さき あれ、ロクちゃんが話してくれたんだったかしら。それとも私が自分で読んだのかな。あれ? それとも、あれって私のはなしだったっけ…。
ロク 木登りの女の子ですか。
さき そう。森に住んでて、旅人に頼まれて、鳥の寝床を探しに大木に登るの。でも旅人は、その鳥を撃つつもりなんだわ。だから彼女は教えないの。好きだったのにね。
ロク …さあて、あっしあ覚えがありませんが。
さき そう。ありがと。
ロク いいえ、とんでも。
さき さがってよろし。
ロク へえ。
さき あ、ロクちゃん。
ロク はえ。
さき ――今夜は、明るいのね。
ロク ええ、月が出ていまさあ。

思い入れあって、ロク、去る。やがて、バサバサと羽音。連中、飛んでくる。

谷蟆 ここです、ここです。
せんせ ひー、やっぱり重いわい。ガアー、カ、カ、カ。
さき どなた?
谷蟆 お姫さん!
さき その声は、タワシさん?
谷蟆 (あわてて)その先はいわないで。長くなりますから。私です、助っ人を連れて参りました。
さき (だが、素振り)パコーンパコーン。
谷蟆 (しかたなく)それはラケット。
さき …助っ人?
谷蟆 おんでもないこと。ごらん下さい。
さき ごめんなさい、目、わるくて。
谷蟆 じゃ、名乗ります。順番にどうぞ。
ぱっこ うし。助っ人その一、元気印のぱっこちゃん!(ポーズ。以下、各自ポーズ)
せんせ 同じくその二、くらやみのガンジロー。
つろ さんら、つんつろれんのふにゃふにゃらー。
てろ 四番、ミスター・テロ。
谷蟆 五人そろって――

間。

谷蟆 別に何でもありません。(四人、ひっくり返る)
ぱっこ あーもう、しまりがないなあ。
さき ――ぷ。
谷蟆 あ。
さき くくく、フフフ…。(くつくつ笑いだす)
てろ 笑われてますよ。
つろ 場違いらったららー?
せんせ オイかえる君。ワシら、来る場所、間違えたんじゃないのかね。
さき ホホホ、ホホ、ホホホ…。(こらえ切れない笑い)
ぱっこ (眺めて)…でも、なんて楽しそうなんだ。
せんせ 期せずして芸になってたようだ。
てろ ははあ、分かった…。「笑わぬ姫」だ。メルヒェンによくでてくるやつだ。
さき (やがて)ふふふ、はあ、面白かった。――ようこそみなさん。こんな塔の上で何もありませんけれど、ゆっくりしていってね。
ぱっこ 塔? いや、ここは木の上…
谷蟆 (とどめて)シッ、ちょっと待って。…つきあってやって下さい。
さき どうぞ、お掛けになって。
みんな ??(何となく、そこらに座る)
さき お茶にビスケットくらいなら、お出しできますわ。ロクちゃあん。(呼ぶ)
ロク (現れ)へえ。うえ?(驚く。きょろきょろして)お、お姫さん、これはいったい…。
せんせ (ひそひそと)あいつがロクか。
谷蟆 (ひそひそと)さいでがす。
さき お客様にお茶をお持ちしてね。
ロク で、ですが…、
さき ね?
ロク …へえ。(引っ込む)
てろ (ひそひそと)何か、弱っちそうな奴ですね。
谷蟆 (ひそひそと)はあ、さいです。
ロク (すぐ戻ってきて)どうぞ。
てろ谷蟆 わっ、はやい。(ひっくり返る)
さき ありがと。

だが、茶器はない。それでもさき、平然と受けとる。

さき ロクちゃん。
ロク へ。
さき さがってよし。
ロク へ。(引っ込む)
さき (架空のお茶をついでまわりながら)無口でしょう? でも、気はいい人なんですよ。こんな所にいると話し相手もなくて、あんな人でも私には大切なお友達なんです。よくしゃべる人よりかえっていいくらい。ううん、ほとんど理想的といえるくらいですわ。じゃすと・ふぃっとですの。
てろ (ひそひそと)大変なほめ方ですよ。
谷蟆 (ひそひそと)ククー。心配です。
つろ てろー、お茶、ないろー。
てろ (ひそひそと)いいんです兄さん。嘘っこです。
せんせ しかし、無口というより、むしろムッとされていたようでしたが…。
さき ヒトミシリがはげしいんです。滅多にお客様なんていらっしゃらないから、照れてるんでしょう。どうぞ。

一同、しかたなく、飲む。

さき よろしければ、お菓子も食べて。

一同、何となく食べた感じ。

さき 飲んで。
みんな はあ。(飲む)
さき 食べて。
みんな (食べる)
さき 飲んで。
みんな はい。(飲む)
さき 食べて。
みんな (食べる)
さき いいお茶会だわ。
ぱっこ …何だか、悲しくなってきちった。
せんせ カアアー…。(かすれ声)
てろ (気を取りなおして)コホン。あの、お姫様。
さき は?
てろ つかぬ事をうかがいますが、すこし前に誰かここへ来ませんでしたか?
さき は? いいえ、どなたも。
てろ それはおかしいなあ。
さき どうかなさいまして?
てろ いえ、実は私どもの仲間がひとり、二時間ほど前ですが、下からこちらへうかがうといって塔に登りましてね、いっこう戻らないものですから待ちきれずにこうして窓からおじゃまいたした次第。
さき さあ、私、外のことはとんと存じませんので、訊いてみますわ。ロクちゃーん。
ロク へ。(すぐ出る)
さき さっき、どなたかみえた?
ロク ! …。
てろ 来たんですね。
ロク …。(見る)
てろ 「来た」とほっぺたに書いてありますよ。
ロク (あわててゴシゴシ)
てろ 嘘です。しかし焦りましたね、今。
みんな おお!
てろ どこにいます?
ロク …。
てろ ね、どこにいるんです。
ロク (大声で)知らねっ!
つろ わーひったまがったー…。
てろ しかし、確かに上がっていった者が、下りてもこないしここにもいない。妙ですね。
つろ れふねー。
ロク …。
てろ ここに来る廊下は一本ですか?
つろ れふか?
ロク ああ。
てろ そしてあなたはいつも、途中のどこかにいる。
つろ あーた、おる。(と、じたばた動く)
ロク ああ。
てろ じゃ、真相を知ってるのはあなただけだ。
つろ あーただけらよー。(ぎっこんばったんと暴れる)
てろ 兄さん、ちょっと黙っててください。
ロク 知らねえもなァ、知らね。
てろ それは嘘です。
ロク …。
てろ どうして真実をおっしゃらないんです?
ロク 帰(ケエ)ってくれ。
てろ はい?
ロク 騒がせねえでさっさと帰(ケエ)れ。
てろ そんなぁ…。
さき ロクちゃん! お客様に失礼よ。お詫びなさい。
ロク …。
さき いうこときけないの?
ロク …お姫様。窓から入って来るようなやつに、ろくな者ァいません。いってえどうやって上ってきたんだか知らねえが。
せんせ うん、つまり飛んできたんだ。
ぱっこ 乗っかってきたのよ。
谷蟆 ペトッと貼りついてきましたです。
ロク ああ、そうだろうよ。ね、お分かりでしょうが。こいつらァ魔物でさあ。そら飛んで、あんたァたぶらかしに来たんでさ。
せんせ いやいや、ワシらはあやしいものじゃない。よく見てくれ。

ポーズ。山伏と股旅とかえると腹話術人形と忍者。全員、あやしい。

ロク やっぱりあやしいです。お姫様、きっといいことにァならねえ。わっしのカンさあ信じて、どうぞ帰しちまってくだせえ。
谷蟆 おい君、口の利き方に気をつけろよ。五だか六だか知らねえが、たぶらかしてんのはどっちだい。
ロク 何だと。おメエぁ何だ。
谷蟆 (つい尻文字を始めるが、やめて)誰でもいいやい、けえるだ。
ロク けえる。
谷蟆 おうよ、けえるの王子さっ。

――間。谷蟆、口おさえるが、

みんな …王子?!
谷蟆 あ。あらーららー…。
さき …あなただったのね。
谷蟆 いやその、実はそうでして…。
さき 素敵…どれだけ待ったと思う? ああ、マイディア!(抱きつく)
谷蟆 (照れて)むぎゅ。えへへ。いやその。ちょっと待ってくださいよ…。苦しい苦しいったら。
ぱっこ げげー、ごちそうさま。
さき 魔法にかけられてたのよね。しゃく年たって呪いが解けたのよね。ああん、あもーれ、ええ、ええ、一緒に行くわ。アストンマーチンでトンズラこくんでしょ。
谷蟆 (ヤケクソで)…そうですとも!
さき うわあホント! 世界の果てまで。
谷蟆 はい!
さき 逃げて逃げて逃げて。
谷蟆 ええ。
さき 警官隊にハチの巣にされて。
谷蟆 え?
さき ニースでバカンス。
谷蟆 ええ。
さき 私、ヌードでもいいわ。(ポーズ)
谷蟆 …ぜひ!
さき 子どもは十人ほしいな。
谷蟆 ハア。
さき おばあちゃんになったら、盆栽。
谷蟆 いいですね。
さき きっと株にも手を出すわ。
谷蟆 それはちょっと。
さき 心配しないで、お金持ちだもの。
谷蟆 そうなんですか?
さき お城にざっくざくあるじゃない。
谷蟆 あ、そうか。
さき 子どもたちも稼いでくれるし。
谷蟆 そうかな。
さき そうよ! 冬の朝の牛乳配達でしょ、地下食堂の皿洗いでしょ、タクシーの運ちゃんでしょ、建築現場の溶接作業員でしょ。
谷蟆 …そういう方面ね。
さき 大丈夫、フォークと玉掛けの免許さえ取っとけば。
谷蟆 なるほど。
さき ニッカボッカが似合うわぁきっと。
谷蟆 そうかもね。
さき 私はおうちでカケハギの内職。
谷蟆 シブイですね。
さき そいで、お給料日には、ジャーン、お刺身よ!
谷蟆 豪勢だなあ!
さき アジとイワシ。
谷蟆 …美味しいよね。
さき みそ汁にはシジミを入れるわ。
谷蟆 最高。
さき 次の朝には残りのお汁で、おじやするの。
谷蟆 いいねえ。
ぱっこ (ひそひそと)何でこんなハナシ、聞いてなきゃならないんだ?
せんせ (ひそひそと)いやみろ、様子が変だ。
さき (次第に、淋しく、ひとりで)私、小さいころね、朝のおじやが大好きだったの。お汁にごはんとおネギを入れてクツクツ煮てるにおいが台所からプーンって流れてくると、居ても立ってもいられなくて、母さんがお鍋を運んできたらまわりを踊り回ったもんだったわ。毎日なのに、しょっちゅう舌をやけどするの。だって早く食べないと美味しくないもんね。ああ、素敵な時代だったなあ…! お膳やお箸や、たんすの上のダルマさん、古い掛け時計や、玄関で光ってるあやしい靴べらや、表に出るとアサガオの鉢と、古いかめで飼ってたキンギョ。(だんだん、眠そうにくずおれつつ…)木のどぶ板を渡って、小さな路地へ、毎日冒険に出かけたものだったなあ。田んぼと雑木林と広い川原と。みそっかすだった私はいっつもお兄ちゃんたちについていって、泥に落っこったりハチに刺されたり、藪で野犬に囲まれたときにはホント、お兄ちゃんたちが頼もしかったなあ。日も暮れて、コウモリの飛ぶ薄闇の中、蚊ばしらのうなりを聞きながら帰る。草や枯れ草のにおいがからだじゅうに沁みて。遠くのお寺で静かに鐘が鳴る。道は青白く光って…、長い長い長い、子どもの時代…、長い長い、過ぎ去った、子どもの…、

――眠った。ロク、寄りそう。せんせとぱっこ、ムシロを掛けてやる。

谷蟆 (残されて、ふと)――おヒメさま…?

夜風がひゅうと鳴っている。

てろ …お姫様じゃないさ。
谷蟆 え?
てろ ロクさん。この子の名前は?
ロク …さき。
てろ そう。近所の子だよ、聞いてたろう? ただの子だよ。
谷蟆 しかし、私は姫を連れに…。
てろ もういい加減、だましっこは終わりにしようじゃないか。目的は何だい。
谷蟆 目的。
つろ おうこくなんて、もお、ないろー。
てろ そうです兄さん。(谷蟆に)かえる君、君は王子じゃないね。そして恐らくは、かえるですらない。
谷蟆 ぎくっ。
せんせぱっこ …やっぱりそうか!
谷蟆 なな、何を証拠に…。
つろ なれならほほあ…
てろ 何故ならここは、木の上で!

ゴオッと風吹きつけ、景色、ガラリと木の上に変わった。繁った枝がザアザアと唸る。

てろ あんたがもしもかえるなら、幹をペタペタ這いあがってくるしかない。だが途中にいたロクさんには見られてない。そんなら、ここに通えるのは――、
声 その通りさ!

ちろの声だ。ザザザと風が荒れて葉叢が分かれ、大枝に磔(ハリツケ)になったちろと、その脇に武装したレーヴェル、ミューゼルが現れる。

ぱっこ ちろちゃん!
ちろ 鳥だよ! こいつらは、ギャングみたいな鳥の一族なんだ。このでかい木を見張り塔にして、野原をぜんたい餌食にしようッてンだ。みんな、気をつけろ!
レーヴェル おや、見つかった。バレたとあっちゃあ仕方ねえ。ゆけ、ミューゼル。
ミューゼル ま!(刀、提げている)
せんせ 新手が出たか。うぬ、臨・兵・闘・者・皆・陣…
ミューゼル ひゅ! チン!(と、抜いたのも見えないが…)
せんせ ううッ。(がっくりと肩押さえ)――離れろみんな、居合い抜きだ。
レーヴェル ハハハ、そいつは殺し屋、一名を血のゼリーといって名うての猛禽、モズの妖異さ。
みんな モズ?!
せんせ いよいよ化けの皮がはがれたな。
レーヴェル ちなみに私はカケスの妖異。綿貫カンタローは仮の姿だッ。
谷蟆 ククク、ククー、そして、私こそは…デッデポッポー、デッデポッポー、
みんな ハトだぁ!
谷蟆 ハトではなあい、正確にはドバトである。上野公園にいっぱいいる、あれだ。ご苦労だったな、手下のレーヴェルにミューゼル。
ふたり ジャッジャッ、キキキ、ジュジュジュジュ。(と、囀(サエズ)る)
ぱっこ ロクちゃん、こいつらからさきちゃんを守ってたのね。
ちろ そうだ、その人は敵じゃない。
せんせ あのガイコツは?
ちろ やっぱりロクさんのです。彼は食い尽くされた、近所の中学校の木登り少年だ。野鳥観察に来て襲われたんです。この手帳に記録が残ってます!
ロク わっしぁ知らねえ。ただの塔守だ。
谷蟆 いいや、あいつらのいう通りさ。君の魂が、肉を食い尽くしてもまぁだこの木に取り憑いていやがったのは、チトこちらの計算違い。貴様がいなけぁその娘も、とうに私らの腹の中だったさ。だがもう面倒だ、みんなまとめてエジキになれやい。
せんせ そう都合よくいくものか。ゆけ、ぱっこ!
ぱっこ え、あたしか…。しょうがねえなあ。(マサカリ構える)
ミューゼル チン。
ぱっこ バコッ。(と、マサカリまっぷたつ)――あああ、だめだこりゃ。チュチュチュ、チュイチュイピィピィピィ、チチチチチ。(と、あわててさえずり出す)
せんせ うぬ、いよいよワシの出番か、コカアーコカアー。(と、困って鳴き出す)
てろ ここは僕らに任せてください。
つろ くらはい。ピピーピーチュピーチュ。
せんせ よし、任せた! カアーコカアーコカアー。(やや安心)
谷蟆 誰が来ようと肉食文化にゃかなうまい。デデッポー、やっちまえミューゼル。
ミューゼル ま!

にらみ合い。風が止む。月光と尺八。







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