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2015年06月24日02:48

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004 おじや☆ダンス 8/

ちろ 東山三十六方、静かに眠る丑三つ時、四条河原ににわかに起こる剣劇のしびき――!

つろ、にわかに口からブオーと煙を吐く。ミューゼルたち慌てると、そこいらじゅうから十数人のつろとてろが現れ、一斉に囀(サエズ)りながらつつき回す!

つろたち チュッチュッ、チチチ、ジョッジョジョジョ、チークチーク、ウィーチッチッチ、ピョークピョーク、キョキョッキョキョッキョキョッ、ジャジャジャ、チキチキチキチ、チュルルルルルル、…(など)
レーヴェル くっそう、分身の術か。ギャーピィピィピィピィ、駄目だあ!(落ちる)
ミューゼル まーーっ!(落ちてゆく)
谷蟆 オノレ、下界で勝負だ、下りてこい! バサバサバサ。(飛び降りる)
せんせ 逃がすカア、カアアア!
ぱっこたち チュチュチュチュ、行っくぞォ――! チチチチチチチ!

皆、すっかり鳥になって、飛び下りてゆく。舞台、静寂――。ロクが残った。ムシロをちょっとめくって。

ロク …ふふ、よく寝てらあ。

歌う。「バーナムの妖精」。

♪おぼえていれば
 あかしはいらぬ、と
 ことばをすて呪われたは
 おろかなふたり

 森をぬければ
 ちかいはきえる、と
 母も叔父もなかまたちも
 あやぶんだもの

  ジンゴン 鐘なれ
  そのうつろな空に

  ディンドン 鐘なれ
  愛はとどくのか

 りんご あつめて
 さみしくうたう日々

  ディンドン 鐘なれ
  愛のおわるとき

 おぼえていれば
 おぼえていれば、と
 肩にふれてささやくのは
 たれのいたずら

ロク ――世の中は、何もかもおかしくなっちまった。さきさん、俺は幽霊らしいよ。おかしなことさ。だけどあいつらは、もっとへんてこりんな幽霊だ。チーチクチーチク、やかましいったらありゃしない。おはなしの、木登りの少女は鳥のねぐらを見つけたか? そんなことは分からない。その子だけが知っている。鳥はたぶん、青い鷺だったろうか。あのぽつねんとひとりで立っている、祈るような青い鷺…。いや、それも俺にゃぁ分かりやしない。ただ、静かにそいつを見守りながら自分も静かにこの木のてっぺんで溶けていこうとした女の子を、俺はそっとしておいてやりたい。たとえ一発の隕石がふり撒いたウィルスが世界中の人間をおかしくして、あらゆることばが見失われても、いま俺だけはここで君の眠りを見守りたい。――ああ、流星が落ち、月が移ろいゆくように、太陽もいつか燃え尽きるだろう。変わらぬものは何もない。そうして俺たちはぽつねんと、ぽつねんと…、この虚空に立っている。――

かすかに流星の落下音…。それも消え、風、静かに葉を鳴らして、
暗転





第二場 その年の春

落下音、ギュウーン…と高まり、ついで烈しい衝突音。ズズズズ…、と余波。

── はりゃりゃあ…!

かもいの裸電球がチラチラして、点く。
縁側の将棋盤の上で今しも、駒の山が崩れたところ。それを、あ然と囲む三人の娘――ぷーこぽんこ、そしてさき。中学校の制服。腹はふくれておらず金髪でもなく、すべてにおいて当たり前。〔なお彼女たちには本名があるが、便利のために第一場の呼称をそのまま使う。以下同じ〕
宵の口。かつて農家だったいなかの一軒家──。

ぽんこ ──すっげェ、揺れだねぇ…!
ぷーこ なんか、普通の地震と違うんじゃん。音、したろ。
さき 隕石かなー? 今さっき、流れ星、見えたしー。
ぽんこ え、ホント?
さき うん。シュバーッて、緑とオレンジの、ごっついの。
ぽんこ あー見はぐった。つーかウチ、見たことないんよねー流れ星。散漫なのかなー。
ぷーこ あー崩れちったし。しゃあない、仕切りなおしだ。(駒、かき集める)
── んにゃー、むむむむ…ぷふう。ZZZ。

座敷のコタツで、ぱっこが眠っていた。コタツの上にはヌシのように巨大なすり鉢とすりこぎ。

ぷーこ (見やり)──寝てるよアイツ。まあったく神経、図太いんだから。
さき (ぱっこに)たみちゃん、メシやで!
ぱっこ (すぐ起きて)そう?
さき 嘘(うっそ)ぴー。
ぱっこ なんだ、ぐー。(すぐ寝る)
ぽんこ あはは、アホでぇ。
ぱっこ (寝つつ)むにゃら、うにゃら、くンにゃら…(とか何とか)。
さき なんやって?
ぷーこ 「遊んだあとは、食って寝る。そのための十代じゃ」だって。
さき 何、それ。
ぷーこ あいつの口グセ。
さき まだ食うてもおれへんやん。
ぷーこ できっことからやろうってんでしょ。(奥に)ね。
ぱっこ (寝つつ)むーふー。(肯定らしい)
ぷーこ ほら。
さき アッハ。
ぽんこ ──あー、せんせたち、遅いなー。藷(イモ)がなくちゃ、ハナシ進まん。
ぷーこ (箱のフタに駒、詰めつつ)よ。もっぺんやっか?
ぽんこ やンべやンべ。次、振らしてよ。――さ、どちらさんも、よござんすか、よござんすね。入ります。いよっ。

と、盤に箱、カポーンと伏せる。除(ノ)ける。カラカラと、ちょっと崩れる。三人立ち上がり、超スピードでじゃんけん。

三人 ちーれった、った、った、った、った!
さき (勝って)よしゃ、今度は負けへん。
ぷーこ 無駄、無駄。
さき あのな、ゆうたらな、血祭りに上げたるわ。
ぽんこ アニ? ほんなら返り討ちじゃ。カッカッカ。

しばし、静寂と大騒ぎのヤマクズシ。やがて表で、木戸の開く音に続いて…、

── こっちだこっち。さぁ入ってくれたまえ。
── ちわー。もう誰か来てンの?
── うー。

と、せんせが、男子生徒レーヴェルとミューゼルを連れて帰ってきた。

ぷーこ もーお、遅いッスよ、せんせぇ。
さき お帰んなさーい。あ、みんな着いたんやぁ。
ぽんこ せんせったら、お腹ぺこぺこだヨー!
せんせ いやあ済まん済まん。下駄の鼻緒が切れたんだ。
ぽんこ 嘘ばっか。
レーヴェル おー、集まってんじゃん。よっ。
ぷーこ うっす。
ミューゼル うー。
さき おイモ、見つかりましたー?
せんせ 何とかね、あったあった、大量に。(ふり向き)あれ? おい、芋と小林は?
レーヴェル おかしいな。(表に)おーい、小林ィー!
── (表で)いま、行く!

両手に荷物、どっちゃり持って、谷蟆。

谷蟆 (ふらふらして)おメェーら、ちったぁ運べよ、重いんだぞコレ。
レーヴェル わりわり。
せんせ やあご苦労さん。君は力があるな。
谷蟆 イヤそれほどでも…よっしょお! はあ!(と、荷物どさっと縁側に置いて腰かけ、女の子たちに)もう準備、できてんの?
ぷーこ モチ、とーぜん。あとはこの芋だけ、待ってたンよ。
せんせ だそうだ。じゃあ、あさ子君、頼むよ。もう泥ぁ落としてあっから。
ぷーこ あ、そうなんです? オッケー。さきちゃん手伝って。
さき うん。

ふたり、料理の用意に立つ。

レーヴェル (腰かけて、ぽんこに)いやー、三軒も回っちったよ。
ぽんこ あ、そーか、買い占めだもんねー。
レーヴェル でさあ、結局三軒目の、(ミューゼルに)何ていったっけ、あの店…?
ミューゼル ま。

間。

ミューゼル ま…、ま…、(どもっている。身ぶりも大きく)──真桑(マグワ)屋ッ。
レーヴェル そうだ。真桑屋のバァちゃんが、ちっと待ってれやっつって、裏から探してきてくれてさあ。
ぽんこ 裏って?
レーヴェル 納屋か何かだへ。タダでくれた。
ぽんこ え。うそ!
レーヴェル マジマジ。
ぽんこ (せんせに)まじですかァ?
せんせ ははは、自分とこのおかずのつもりだったみたいだ。
ぷーこ (奥で)ナニよそれって、悪かったンじゃん。
せんせ こんど何かお礼しとくさ。
ぷーこ 独身貴族がぁ、ナポレオンでも持ってくの?
せんせ ばかいえ。バァちゃんだぞ。
さき (奥から出てきて)でもお芋より美味しいものってゆうたら、むつかしなあ?
せんせ うむ、もうすぐあれだ、そこらにミョーガ生(へ)えてくっから、摘んで持ってこう。
レーヴェル まだ先じゃねえの。
せんせ いいんだ。年寄りの時間ってのは、短いようで長ーあいもんさ。
さき ──さぁさぁ、手はヒマやろ。すりながら喋ってね。

ト、おろし金と山芋が配られる。

谷蟆 おれ、手ぇかぶれんだよなぁ。
ぷーこ そんなン誰も一緒です。男だからって料理くらい手伝いなよ、食いてぇんだろ?
谷蟆 ちぇ、人づかい荒えんだから…いーま買いもの行ってきたのによ…(ブツブツ)
ぷーこ なんかいった?
谷蟆 いーえ!

おのおの、しゃりしゃりと、おろす。そよ風。しばらく──、

レーヴェル ──なんか、話題ねえの?
せんせ 話題ねえ…。
ミューゼル う、あ、や、や野球でも…、
ぷーこ オヤジくせー。
ミューゼル な、そ、そんなことは…、
レーヴェル 野球は四月からだろ。
ミューゼル うん。こ、今年は、き、き、き、
レーヴェル いいよ、清原の話はもうするな。気が滅入る。
ミューゼル うー。(不満そう)
ぷーこ こいつら、オヤジくせー!
レーヴェル 野球の話するとナンでオヤジだよ。
ぷーこ ほかにあんでしょーよ、バスケとかサッカーとか。
レーヴェル バスケなんておメエ、あんなのは…
ぱっこ (急に、コタツで伸びする)うひょー、むうーん…!
レーヴェル わっ吃驚した! いたのか。
ぷーこ いるよ、いつものごとくでろーんと。
レーヴェル ふてえヤローだなぁ。
ぷーこ 心臓にあれ、ウチワサボテン、生えてッから。
ぱっこ うーっくくく、(起きだし)おー諸君、よう来たよう来た。
レーヴェル 何が諸君だ、はよ手伝え。
ぱっこ うっす。んじゃ、いっこ貸して。ふわああ!(アクビ)
ぽんこ (ふと、さきに)──どーしたのん?
さき (ボーっとしていたが)──え? ううん、いや、春やなーと。
ぽんこ そらぁ、ほんとに春ですモノ。
さき ロクちゃんも、ここにおればなあ──。

間。

ぷーこ あ、お鍋。(立ち上がる)
せんせ (コホンと咳ばらいし)──じゃあ、みんなの卒業パーティと、青木六郎くんの四十九日の法要を兼ねてだ、お寺の倅(セガレ)のワシが一曲、歌おう。
みんな おおー!
せんせ ワシがガキだった頃の歌だ。
ぱっこ あー、あれね。
せんせ あれです。
谷蟆 (ひそひそと)せんせ、お寺さんだったのか?
レーヴェル 知らん。小坊主ソングだな。
ぱっこ 夏はまだだよセンセ。
せんせ 芸術は季節なんか超越する。知ってる者は一緒に歌ってくれ。あーあー、おほん、「ざりがに盛衰記」。ワン、トゥー、

歌う。みんな、芋おろしながら適当に参加する。ウクレレ弾いて元気にいこう。

♪今年は日照り プールは中止と
 せんせいいった どうしよう
 川に行ったら 水がないので
 ざりがにごっそり 万万歳

  (へーほんまかいな、ええなー)

 でかいバケツに ひょいひょいつまんで
 どんなもんだい ざっくざく
 ぬれたズボンの 乾くもまたず
 裏道こっそり 学校へ

  (じぶん、なにする気ですか)

 知らんふりして センセにあいさつ
 学校友達 みな帰りゃ
 夕日のプールに えものを放す
 ざりがに牧場 つくるのさ

  (ha! ha! ha!)

   …冬のある日に 見にゆけば
    ひっそり落ち葉が しずむだけ…

 つぎの年なら 日照りじゃないので
 プールをやります どうしよう
 水を抜いてた 用務員さん
 うわっと叫んで 駆けてきた

  (そらそうやがな)

 一年のあいだに 増えたわ増えたわ
 子孫繁栄 大滅亡
 冬を越せない ざりがにたちは
 あわれはかなく 水のあわ

  (あんた、それバチあたるで)

 つぎの朝には 臨時の朝礼
 いきもの殺しちゃ いけません
 だれがやったか 名乗りでなけりゃ
 今年もプールは 中止です

  (あーあ、あて、もう見てられへん)

 (…口笛…)
 知らんふりして センセとわかれ
 三十六計 そら逃げろ

   …せんせいたちは 長靴で
    死骸をシャベルで 片づけた…

 ほっと安心 したのもつかのま
 やっぱりでてきた 目撃者
 あの日どろどろで さくのりこえた
 夕日のプールで みられてた

  (さあ大変な事になってきましたなー)

 職員室で センセと対面
 おまえあの日は なにしてた
 夕日の校庭 カラスも帰る
 だけどこいつは いえないな

  (うんわかるわかる、男の子やなー)

 センセが煙草で でていったあいだに
 用務員さんが あらわれて
 あやまってやるから はやくお帰り
 雲をかすみよ ありがとう

 (…口笛…)
 十五年たって 町に帰って
 センセと笑って 手をふった。

喝采、「いよっ、ちんどん屋!」「やんややんや、ひゅーひゅー!」…など。

レーヴェル しかし…どうも法事っぽくはないやね。
ミューゼル うー。
谷蟆 芸術ッつーのもあやしい感じですなあ。
ミューゼル うー。 
せんせ コレ、何をいうか。ワレながら、なかなかの喉だ。彼も涅槃で歌うであろう。
ぽんこ つまり面白かったら、いんでしょ?
せんせ まあそういうことだ。

一同、しばし、死者を思う…。

さき 賛成々々。いつまでしんみりしててもしゃあないからなあ。どれみんな、お芋、こっちへあつめて。(と、すり鉢もってくる)
レーヴェル もうちょいで卒業だったのにな。
さき (泣きそうになり)…だから、もうええて。(奥に)あさちゃん! お汁は?
ぷーこ (奥で)できたよー。
さき え、もうできた? 早いわちょっと…困ったなー。
 
と、奥へ。間。

せんせ さき子って、もしや…?
ぱっこぽんこ ぶんぶんぶん。(はげしく頷く)
せんせ そりゃあ、悪かった。
レーヴェル 何のハナシ。
ぱっこ …デリカシーの欠如!
レーヴェル 何が。俺が? 何で。
ぱっこ ねー。
ぽんこ ねー。
レーヴェル オイ、どうゆうことよ、その口裏。
ぱっこ 分かんないのはあんただけ。ねー。
ぽんこ ねー。
谷蟆 (ついでに)ねー。
レーヴェル かー、ムカツク。
ミューゼル だ、だ、だ…、
レーヴェル おメエもかっ。(ミューゼル、首ふる)…あ、だれが芋、するかって?
ミューゼル うー。
谷蟆 えへー、まだすんの?(ウンザリ)
ぱっこ ちゃうちゃう、すりこぎの方っしょ。
ミューゼル う、うん。
ぽんこ ハイハイハイハイ! あたい、やる。
レーヴェル 子どもだなァおまえ。何でもやりたがって。
ぽんこ いいじゃんさー。
レーヴェル ま、交代でやンべ。
ぽんこ ひとりでやるもんね。
レーヴェル 子ども。
ぽんこ ブーだ。

ゴリゴリ、始める。







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