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2015年05月31日06:10

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〔小説〕八大龍王伝説 【370 第三試合開始】 


 八大龍王伝説


【370 第三試合開始】

〔本編〕
「マナシ殿。打ち合わせは終わった。それでどのような形式の試合になる?」
 シャカラがカリウスとの打ち合わせを終了して、空に向かって話しかけた。
 マナシはまだ実体を現していないのである。
 結局、シャカラとカリウスの打ち合わせは、ナンダとの戦いの話でほぼ終わった。
 マナシがどのような戦いをするか……、マナシがどのような能力をもっているかを詳しく知らないシャカラとカリウスにとって、具体的な戦術面での打ち合わせをすることは意味がなかった。
 従来通りカリウスの背にシャカラが跨(またが)り、接近戦を仕掛ける。これでシャカラとカリウスの打ち合わせは全て終わった。
 終わった以上、マナシに話しかけて、マナシからどのようなリアクションが来るかを待つのが、シャカラとカリウスが現在行うことであった。
「終わりましたか。もっとかかると思っていましたが……」
 澄んだ声が空に響き渡り、マナシの実体が空中にフワリと浮かび上がった。銀一色の高貴な姿であった。
「貴方(シャカラ)とわらわ(マナシ)の戦い――つまり試合の第三戦に特別なルールも会場もありません。どちらかが戦闘不能に陥るか、敗北を認めた時点で終わります。引き分けという概念もありません。もし貴方がわらわに勝てるのであれば、その時はどのような条件でも聞きましょう。
 それでは今から――光獅子一〇四九〇ノ日の午後七時ちょうど(地上世界での龍王暦一〇五五年七月二十三日午後六時ごろ)からということで……。後五分後ですね」
「分かった」
 マナシの言の葉にシャカラが短く応じた。
「カリウス!」
「ん?! どうしたマスター」
 シャカラは次にカリウスに話しかけていた。
「ここの足場はどんな感じだ!」
「不思議だが、地上界の地面と変わらない。空中にいるのに不思議な感じだ」
「おそらくマナシの魔力の一つだろう。地上界の地面と同じなようで、その当事者のイメージでその足場の位置が変わる。実際にカリウス。右足の位置を今の位置から十センチメートル下にイメージして、右足を踏みしめてみろ」
 カリウスが言った通りにすると右足の見えない足場は十センチ下に位置を変えたのである。
「何だこれは?!」
「僕も知識としてしか知らないが……。それがマナシの能力の一つらしい。これをうまく利用できた者が勝利に近づけるということだな。それでカリウス……」
「……」
「マナシの位置まで上がるのに、階段をイメージしてくれ。何段ぐらいでイメージできる?」
「五十段といったところか!」
「それでカリウス。そこに至るまでの時間は……? 僕が騎乗しての時間になるが……」
「五秒で到達できる」
「そうか。分かった後は僕が合図をする。そうしたらマナシ目がけて駆け上がってくれ!」
「分かった。マスター!」
 ついにここに第七龍王マナシと第三龍王シャカラの対決が火蓋を切られようとしていた。

「今だ! カリウス!!」
 シャカラがカリウスに合図の一声をかけた。
 それを耳にしたカリウスは、シャカラを乗せたまま、マナシ目がけて階段でも登るように迫った。
 それは、第三試合であるマナシとシャカラの対決を始めると確認した時間である光獅子一〇四九〇ノ日の午後七時ちょうどの三秒前の午後六時五十九分五十七秒であった。
 その三秒間の間にカリウスはシャカラとマナシの距離をわずか十メートルに縮めたのである。
 それに対してマナシは微動だにしなかった。
 神と神の戦いは厳密にルールを重んじる。たとえ罰則のような制約がなくても、試合としてその時間から始めるのであれば、その時間ぴったりまで戦闘行為は行わない。
 それを自発的に破るということは、それがそのまま神としての位置を自らで貶めるということになる。
 先程も言ったようにそれは制約云々ではなく、神としての矜持であった。
 むろん、神は体内時計を有しているため、今の時代の時計というモノは必要ない。そして、それは寸分の狂いもなく正確無比である。
 つまり、この場合シャカラもマナシもお互いに正確に光獅子ノ一〇四九〇ノ日の午後七時を知ることはできるのである。
 その上でシャカラは三秒前に、カリウスにマナシへの突進を命じた。これは神々の矜持からいえば、規則(ルール)違反のように思えるが、実は違う。
 シャカラは、『今だ! カリウス!!』と言ったわけで、マナシへの突進を正確に命じたわけではない。
 実質的にはマナシへの突進であるが、この三秒間に限って言えば、ただの移動行為である。
 シャカラは当然、それを全て熟知したわけの行動で、マナシもそれを全て理解している。
 それでいてマナシは微動だにしていないのである。仮にマナシがシャカラの移動(のみと思わせている)行為に対して、何かリアクションを起こせば、それは攻撃にしても防御にしても戦闘行為となり、先に動いたシャカラでなくてマナシが試合前に戦闘行為を起こしたということで、神のプライドが傷つけられるのである。
“時間だ!”
 シャカラが心の中で呟く。
 二人の戦闘開始の刻限であるその時間(午後七時)には、シャカラの長斧がマナシに向かって振り下ろされていた。
 長斧は、シャカラが最初から肩に担いでいたので、振り下ろしで初めて戦闘行為となるのである。
 そして、その時間――午後七時がその時間であったのである。
 長斧がマナシの頭上に迫る。
 その時、マナシは少しだけ唇を動かした。
 何か一言唱えたようであった。
「カキィィィン!」
 長斧が何かに当たって共鳴したのである。
 マナシの頭ではなかった。
 マナシの頭から数ミリの箇所で見えない何かに長斧が当たったのである。
 つまり、シャカラの長斧の一撃はまんまと防がれたわけである。
「いつの間に……、防御膜が……」
 シャカラの呟きである。
 シャカラのこの一撃に対して、マナシは微動だにしていない。
 マナシは常に右手に銀の大判の書物、そして左手に銀の大粒の宝石が埋め込まれた杖を持っている。
 それらも一切動かしていない。
 少なくとも例えば、左手の杖で自らの頭を防御しようとした動きは皆無であった。
 ……いや、少し違う部分があった。右手に持っていた銀の大判の書物が開いていた。
 どこのページかは分からないが、今まで閉じていた書物が開いているのである。そしてそのうちの一枚が風に戯れているように、ユラユラと揺れている。
 風にたなびいているわけではない。
 これこそ術が行使されている確たる証拠であろう。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王とその継承神の総称)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)

(武器名)
 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)
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