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2015年05月16日09:37

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〔小説〕八大龍王伝説 【368 決着】


 八大龍王伝説


【368 決着】


〔本編〕
 勝利を確信していたシャカラにとって、次の瞬間に起こったことは全く信じ難いことであった。
 シャカラの右手の短い刃物(クルツシュナイデ)は、ナンダの左側の脇腹に深く突き刺さっていた。これは想定内であった。ナンダの紅い槍を握った左手はこれを防ぐ術が全くなかったのである。
 しかし、シャカラの左手の短斧は、ナンダの頭上に振り下ろされていなかった。
 シャカラの短斧はナンダの右手によって防がれていたのである。むろん、シャカラの短斧を直に受けたナンダの右手はただではすまなかった。
 ナンダはシャカラの短斧の一撃を人の体で最も硬いと言われる肘で受けたのである。ちょうどシャカラに向けて肘を出す形で受け止めたのである。
 しかし、いくら硬い部分である肘とはいっても、シャカラの短斧を受け止めた肘は粉々に砕けた。
 しかし、これだけではシャカラを驚かす要因にはなり得ない。驚愕すべきは、ナンダはその体勢から砕けた肘から上腕の部分をシャカラに向けて伸ばしたのである。
 そのナンダの上腕部にはいつの間にか一本の巨大な針が握られていた。それが、シャカラの左の胸を貫通していたのである。
 シャカラはナンダに敗れたのであった。その左胸を貫通した巨大な針がそれを如実に物語っていた。
 シャカラには想像外のことであったので、体の中に結界を発動して、心臓を移動させるという芸当は行う暇がなかった。
 シャカラがその時悟ったのは、何故、最後の短斧の攻撃のみ全力で行わなかったのかということである。
 むろん、最後の短斧の攻撃もシャカラは全力で行った。しかし、それは右腕一本での全力であった。
 何故、最後の短斧のナンダの頭上への振り下ろしも、両腕で行わなかったのか?
“最後の最後で僕の地が出てしまったか! 確実さを優先させてしまった!”
 シャカラの自嘲通り、最後の短斧の一撃を両腕で、全力で行えば、たとえナンダが肘で受けても、それを砕き、さらにナンダの頭を砕いていたはずであった。
 しかし、シャカラはナンダの頭を砕くと共に、腹の一撃も見舞わせるという効率を重視してしまったのである。
 それがシャカラの本性或いは信条であった。
 『実(じつ)』のみの攻撃でナンダを圧倒しながら、最後の最後で素が出てしまったのである。
 しかし、シャカラにとって意外なのは、ナンダの最後(と言っていいだろう)攻撃の巨大な針の一撃が、全く痛感を刺激しないことであった。
 神は人より痛感に対して強い。精神力の強さであろう。それでも神も痛いという感覚は持ち合わせている。痛感が感じないことに不思議さを感じたシャカラは、ナンダの巨大な針による一撃を見て、そのわけを悟ったのである。
 針は目には見えているが、実体に干渉できるモノではなかったのである。
 巨大な針が『実体に干渉できない霊体』であるということは、シャカラは致命傷を負ったわけではないことを意味していた。
 何故、巨大な針のみ実体に干渉できないのであろうか?
 ナンダは既に死んでいる。従ってナンダそのものは霊体である。しかし、霊体であるナンダを実体に干渉化させたのは第七龍王のマナシである。
 実際に今まで戦っていたナンダは実体を持っているのと同じ状態であった。
 しかし、その話を進める前に巨大な針が何かという疑問がある。しかし、それは容易に解決できる。
「ナンダ! まさかこの巨大な針は……? お前の兜についている角が変化したモノか?!」
「そうだ! お前流に言えば、俺様の隠し武器ということになるかな!」
 シャカラの問いにそうナンダは応じた。見ると、ナンダの兜の正面についていた二本の角が今はない。
 厳密に言えば、その角はU(ユウ)字型をしている一本の両先端の尖った針であった。
 角の長さが八十センチメートル程度なので、U(ユウ)字を変化させてI(アイ)字にした長さは百七十センチメートル程度であった。
 正に巨大な針はその兜に装着されていたナンダの隠し武器だったのである。巨大な針は、ナンダの隠し武器ということで合点がいった。しかし、合点行かない点がもう一つある。
 その巨大な針のみが何故実体に干渉できない霊体なのかである。
 普通に考えれば、マナシがナンダを実体への干渉化した際に全てそうするはずである。実際に巨大な針以外は全て実体のような霊体として存在していた。角の部分だけ干渉できない霊体とした理由はないし、する必要もない。
 そこから導き出される答えは、ナンダの角も実は他と同様に、実体に干渉できるモノであったということである。
 では、その角が何故非干渉化して、シャカラの心臓を貫いているのか? 何故、角のみが実体に干渉しないのか?
 それについてもシャカラとナンダの会話から読み取っていこう。
「ナンダ! 何故お前は最後の一撃であるこの隠し武器のみお前の意思で無力な霊体にしたのだ? それも僕に突き刺す直前に……?」
「シャカラ! お前には理解できないかもしれないだろう……。この勝負は俺の勝ちだ! 俺にとって俺がお前に勝ったことのみ証明できればそれでいい! お前に勝ったことにより、俺(ナンダ)が生き返るのであれば、あるいは俺はお前の命を奪うかも知れないが、一度死んだ者はたとえ神であろうとも蘇ることは絶対に有り得ない!
 ……であれば、俺とお前。二人が勝敗の有無を理解できればそれでいい。……いや! お前がどう思おうが、俺自身が自分の勝利を確信できればそれで俺は満足だ! 俺の生前最後の戦いは、成行きとはいえ、お前(シャカラ)はお前の神としての存在を隠した上での戦いだった。俺にとってはあの戦いの勝敗は納得していない!
 しかし今、神としてのお前(シャカラ)と戦い、納得した。お前より俺の方が強い!! そして俺はお前に勝った!! それさえ証明できれば、マナシに召喚された意味もあったということだ!!」
 その言の葉を最後に高らかに叫んだナンダは、自らを完全に消滅させた。
 ナンダの消滅した後には、シャカラとシャカラの武器と、そしてカリウスのみが残されていた。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王とその継承神の総称)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)

(国名)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)
 クルツシュナイデ(シャカラの隠し武器。『短い刃物』という意味)
 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)

(その他)

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