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2015年05月02日06:54

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〔小説〕八大龍王伝説 【366 乗法】


 八大龍王伝説


【366 乗法】

〔本編〕
 さて、小型竜――いわゆるドラゴネットの全長は四メートルから六メートル程度が一般である。
 そのうち、頭部と尾っぽの長さを差し引けば、背のみの長さは二メートルから三メートル程度になる。
 ホースの背より三倍程度の長さを持つ小型竜の背には、多くて三人まで大人が乗ることが可能である。
 しかし、移動時ならいざ知らず、一般的に戦闘として小型竜を用いる場合は、一人乗りである。
 たまに特殊な扱い方として二人乗り――例えば、一人が小型竜を操り、もう一人が後ろから矢を放つなど――は、あるが基本は一人乗りである。
 一人乗りの場合に、二通りの鞍(くら)のつけ方がある。
 小型竜の背の真ん中部分。小型竜の前脚の付け根の部分に鞍をつける『中乗法』。
 そして小型竜の首から背の辺りに鞍をつける『前乗法』がそれである。
 前者の中乗法は、小型竜を二足で走行させ、敵と戦う時によくとられ、後者の前乗法は、小型竜を四足で走行させて敵と戦う時に使う乗法である。
 一般的に中乗法の方が、戦闘力が高い。騎乗者の戦闘力に小型竜の顎と前脚による戦闘力も見込めるからである。
 それに対して前乗法は、小型竜の四足のため、小型竜の戦闘力はあまり見込めないが、移動や長期の追撃戦に関しては、前乗法の方が、小型竜への負担が少なくなるため、よく用いられる。
 今、カリウスに取り付けられている鞍の位置は、このうちの中乗法の位置になる。
 通常のドラゴネットの背の長さから考えて、中乗法の鞍の位置でさらに後方に一人の人が座れるだけのスペースがある。ドラゴネットの乗法を前乗法と中乗法と表しているのは、このためである。
 つまり、一般的ではないが、ドラゴネットの腰の辺りに鞍をつけることも可能であり、それを言葉として表すとすればいわゆる『後乗法』と言えるであろう。
 しかし、この『後乗法』という言葉は一般的でなく、言葉自体が存在しないと考えられる。
 今、まさにシャカラがカリウスに乗っている位置が、そのいわゆる『後乗法』の位置にあたるであろう。

 当然といえば当然だが、ナンダはカリウスの突進を、炎馬を操り左にかわした。
 むろんナンダにしてみれば、カリウスに攻撃を加えるつもりはない。その経緯からここまではシャカラの読みどおりであった。
 そして、ナンダの三メートルの槍の射程距離にシャカラが入った瞬間、ナンダが動いた。シャカラ目がけてナンダが得物の紅い槍で突きを放ったのである。
 そのナンダのアクションに対して、シャカラも動いた。槍をかわし、ヴァイスドラゴネットであるカリウスの背の上を駆けたのである。
 シャカラによって大上段に振りかむられた長斧。走りながら振り下ろされた長斧のターゲットはナンダの頭であった。
 一旦はシャカラに向かって突かれた槍も、ナンダの引きですぐにナンダの懐に戻る。再び、シャカラを狙える状態に戻ったのである。
 ここでナンダは思念した。
 いきなりの大技を繰り出してきたシャカラ。本来であれば下策中の下策である。そこでナンダはこれをフェイクであると判断した。
 しかし、懸念されることが一つある。それは、ナンダの付帯能力(アドバンテージスキル)の『直感スキル』と『陣地作成スキル』であるが、この二つのスキルがシャカラのこの攻撃には全く反応していないという点である。
 ナンダの陣地作成スキルは半径百キロメートルの敵の悪意を熱として感知するもので、当然今もその結界は発動している。
 そしてその熱の動きから未来すら予知する直感スキルで敵の攻撃手段を導き出す。つまり、ナンダにはあらゆる小細工が効かないというわけである。
 ナンダはシャカラが両手で大上段から振り下ろす長斧の攻撃はフェイクと考えている。シャカラの性格からして当然の帰結である。
 長斧は途中で軌跡を変化させる。……或いは、例えば短斧といった別のシャカラの得物が、戦いに介入してくる。それ以外にあらゆる戦いのパターンが考えられるのである。
 しかし、今回のシャカラの攻撃に対して、ナンダの熱感知が反応しないのである。いや、正確には熱の流れは感知されている。しかし、それはナンダにとって考えられない流れなのである。
 その熱の流れは、ナンダの頭上にそのまま一つの流れとして落ちてくるように感知される。それ以外の熱の動きが全く感じられないのである。
 つまりナンダの陣地作成スキルは、シャカラの攻撃を見たとおりのまんまとナンダに伝えているのである。さらに、ナンダの近未来を予測する直感スキルも同様であった。
 ナンダが一瞬――ほんの一瞬であるがその二つの反応に疑念を持った。
 それは陣地作成スキルと直感スキルの正確性を疑ったというより、それらが反応しないような、卓越したシャカラの能力があるのかと思念したのであった。それはナンダにとって、生まれて初めての感情であった。
 しかし、さすがはナンダである。
 自身の能力に対する絶大な信頼は、他の追随を許さないほどナンダは実直である。
 そう思わせるのがシャカラのフェイク(嘘)であると瞬時に見破ったのである。
 しかしそのナンダの一瞬の迷いをシャカラは誘ったのである。一瞬とはいえ、それはナンダに第二撃を繰り出させる機会を奪ったのである。
 ナンダが強引に繰り出せば、突きの一撃は繰り出せていたかもしれない。しかし、ナンダはあえて第二撃が出遅れた分、槍を横にしてシャカラの一撃に対して防御の姿勢をとった。
 ナンダはシャカラの大振りの一撃を防御した後、攻撃に転じても十分に間に合う。焦ってカウンター的な一撃を放つ必要があるほど、切羽詰ってはいないナンダであった。
 安全策をとったわけであるが、その思考と行為自体がナンダらしくない。
 ナンダの信条は相手に攻撃の隙を与えない苛烈な攻撃である。むろん、ナンダとて防御はとるが、それは攻めの合間の一動作としての防御であって、あくまでもナンダの持ち味は『攻め』である。
 その信条とは対極の位置にある安全策の防御を取った時点でナンダの思考が若干硬直している。
 それは、ナンダがシャカラの攻撃に対して、先入観からとはいえ自身の能力を一瞬でも疑ったことに起因する。
 むろんそれをさせたのはシャカラの深慮遠謀であり、シャカラが導いた戦法なのであるから、それは驚愕に値する。
 紅い槍が、シャカラの長斧の一撃を防御した瞬間、ナンダはそれを悟ったのである。
 もう全てが遅かったが……。



〔参考 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王とその継承神の総称)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王とその継承神の総称)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王とその継承神の総称)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王とその継承神の総称)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王とその継承神の総称)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王とその継承神の総称)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王とその継承神の総称)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王とその継承神の総称)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えている白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)

(国名)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)
 付帯能力(その人物個人の特有の能力。『アドバンテージスキル』という。十六種類に体系化されている)
 直感スキル(十六の付帯能力の一つ。現在や近未来の状況を感覚的に読み取る能力。通常の直感と非常に近い能力である)
 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界内において、その能力を最大限に発揮する)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)

(武器名)
 紅き火の槍(ナンダの得物)
 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)

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