「娯楽戦争映画」
最大の印象はそれだった。
ISの台頭で、不安定化する中東情勢。人類永遠の命題でもある闘争や反戦。
戦争が翻弄したクリス・カイル本人と家族の生活。
中東の無辜(むこ)の人々の現状。
『アメリカン・スナイパー』が、これほど支持と人気を得た理由は、
一部では時代との一致があるはずだ。*1
映画は戦争の悲劇を映し出し、単純な娯楽作品にはない命題をつめ込んでいる。*2
だが、本作が人気と支持を得た最大の理由は、
“戦争映画としておもしろい”からであろう。
娯楽作品には通俗要素が必要だ。本作には、その通俗部分がそこかしこに見られる。
最大のものはブラッドリー・クーパーがつとめたクリス・カイルの狙撃場面が、
格好いいこと。この映画を見て職業軍人にあこがれてもおかしくない。
物語の頂点はクリス・カイルのライバルで、シリアの元射撃オリンピック選手、
ムスタファとの対決だ。これも娯楽作品の選択だろう。*3
しかもクリス・カイルの最後の弾道をカメラはゲームのキルカム *4 のように追う。
鎖で吊り下げられて拷問された兵士と、兵士の生首。激怒の発露。
イーストウッドの作品にしては、いかにもあけっぴろげな通俗要素。
監督も“わかって“やっているわけだが、
その娯楽部分を無視し、やたらと高尚な作品だと納得する姿勢は危険であろう。
「バランスよく戦争の命題を取り込む娯楽作品ゆえヒットした」
本作の正体はそれだ。
※1 日本も公開前後に遠い話でなくなってしまった。
※2 とはいえ、その命題を一塩でもいれない戦争作品など、どれだけ描写がすぐれていようがクソであろう。戦争は双方・大小の犠牲をしいるうえでは最悪の選択だからだ。
※3 この対決の場面と物語は、あくまで映画のフィクションであって事実ではない。
※4 いわゆる殺人の瞬間を止め絵やスローモーションで印象的に映し出す映像手法。格好いい場面を作り出すため娯楽作品が多用している。
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