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2014年12月22日21:33

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借金取りのテーマ

http://www.nicovideo.jp/watch/sm3945998


 ベートーヴェンの音楽の中で、好んでパロディの対象にされるのは、例の第五交響曲である。
 日本で《運命》という名で知られるこの曲は、外国ではだれもそうは呼ばない。日本では、その最初の四つの音が「運命が戸を叩く」音として喧伝されたために《運命》の名で通ってきたが、この戸を叩く音については、ベートーヴェンのもとに通ってくる借金取りが戸を叩く音だ、という説もあるのである。この曲の内容は、常に闘争的で、最後は勝利に終るが、闘争と勝利ということになると、この曲には《運命》よりは《借金取り》のニックネームのほうが、ふさわしいだろう。なぜなら、運命などというものを相手にして勝てるはずがないのは、にがい真実であるのに対して、ことによったら《あれほどの闘争心で向かっていけば》チビのベートーヴェンといえども、借金取りぐらいには勝てたであろうからである。だから、曲が勝利に終る限り、そのニックネームは《運命》ではなく、《借金取り》でなければなるまい(その点マーラーは正しかった。彼の第六交響曲は、運命の打撃を三度受けて倒れる自分の姿を描いたものである。彼は運命を相手にして戦うなどという大それたことを考えたこともなければ、ましてそんな強大な相手に勝てるとも思っていなかった)。にも拘らずベートーヴェンの第五交響曲は、ロマンティックな解説者が好んで口にする“運命と戦う”ベートーヴェン像として信じられてきており、髪を振り乱し、口を一文字に結び、拳を振り上げて、運命に立ち向かう姿がそこにある。そうなると、これはもう“笑”の対象でなくてなんであろう。
                  (石井宏著「帝王から音楽マフィアまで」より)

 いきなり引用文からご紹介しましたが、ベートーヴェンの第五交響曲の第一楽章が、実は借金取りのテーマであることがよくお分かりいただけたことと思います。
 この借金取りのテーマ、じゃなかった第五交響曲は、206年前の今日、ウィーンで初演されたそうです。
 上述の引用文や、ベートーヴェン自身の一般的イメージからすると、この人は貧困に苦しんで借金することも度々あったように思われがちですが、現実にはそれほど貧乏ではなかったようです。
 パトロンからたくさんの年金を生涯受け続けていましたし、数々の名曲を出版して、お金が次々と入ってきていた上、音楽会やピアノのレッスンからも臨時に高額の収入がありました。
 病気や引っ越し、甥の養育費や裁判費用など、たくさんの出費があったのに、人にお金を貸したり、甥に遺産を残すだけの余裕があったのです。ときには借金もしたものの、全部返してまだ余ったといいます。決して大金持ちではありませんでしたが、反対に、貧乏で生活が困ったというほどでもなかったのです。
 にもかかわらず、ベートーヴェンという人は、まるで物乞いのように、「自分は貧乏だ、お金がない、何とかして欲しい」といった趣旨の手紙を頻繁に書き、そのうちの何通かは今日も遺っています。
 その程度の収入があるのなら、お金が必要なときには、人に頼らないで、自分の預金を下ろして使えばよさそうなものです。事実、彼の内情を知る友人の中には、そのように助言した人もいたそうですが、ベートーヴェンは耳を貸しませんでした(なにしろ、ベートーヴェンの耳が遠かったことは有名な事実ですからね)。この人は、人の同情を得て、お金を手に入れるすべを心得ていたわけです。ちょっと、というか、かなり意地汚いですね。ですから、お金に関しては、ベートーヴェンは決して「聖人」ではありません。むしろ、小賢しいまでにお金にガメツかったといえるでしょう。
 おそらくそのためではないかと思われるのですが、この人は若い頃には、「なくした小銭への怒り」という作品まで遺しています。
http://www.youtube.com/watch?v=gJPARDxd7qg

 このどこか脳天気な感じがする曲に、どうしてこんな曲名が付いているのかは分かりませんが、もしかしたら、失くしたのは借金取りへの返済に充てるための小銭で、借金取りに「勝利」した(なくしてしまったと言って借金を踏み倒した)後に書かれた曲だったのかもしれません。つまり、怒っているのは、小銭を失くしたベートーヴェンではなく、借金取りの方で、ベートーヴェンはそれを内心面白がって見てたものだから、こんなメロディになったと想像するのですが、どうでしょうか。

 昔から年末は借金取りの皆さんも忙しくなる季節のようですが、できれば借金取りには追われることがないように無事年を越したいものです。

 良いお年を!
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