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2014年12月20日08:56

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〔小説〕八大龍王伝説 【345 新たな火種】


 八大龍王伝説


【345 新たな火種】


〔本編〕
「敵に対して残忍な点は父親譲り……。いや父親――ベグッシュロス以上であろう。しかし、猛将としての能力は折り紙つきだ」
 グラフが続ける。
「実際に龍王暦一〇五〇年のソルトルムンク聖王国が滅びた後の、大陸南部でのボンドロートン軍の存在が、我(グラフ)ら当時の残党軍が、聖王国の首都であり王城であったマルシャース・グール奪還成功の結果に大いに起因する。
 ボンドロートンの絶え間のないゲリラ戦が、バルナート帝國の白虎騎士団のマルシャース・グール援軍への足止めになっていたのは疑いようもない。ボンドロートンがいなければ、白虎騎士団のライアスは実際のマルシャース・グール到着より二週間は早かったし、その兵数も四倍になっていたと思われる」
「それでは、聖王国の王城奪回は不首尾に終わったということになりますか?! グラフ大将軍!!」
「そうだ! ドンク!! そして聖王国の復活はならず、今も少数の聖王国の残党がゲリラ戦を粛々と行っているか……。或いは聖王国関係の全てがヴェルト大陸から完全に消滅しているかだ!」
 グラフはここで、酒を一気にあおり話を続けた。
「話の流れで前後したようだが、蒼鯨将軍に就任したスツールについても少しお前たちの耳に入れておこう」
 グラフは空になった杯に酒をなみなみといれ、それを一気に飲み干し話しはじめた。
「スツールは今年五十一歳の初老の男だ。頭が大きく、顔半分が黒く爛(ただ)れている、一目見て気分が悪くなるような顔をしている。普段は蒼い布で顔を覆っているので、顔そのものを見ることはできないが、布の隙間から見える目は、ぎょろりと突き出ていて人の温かみを全く感じることの出来ぬ眼だ。
 実際に性格はボンドロートン以上に破綻している。残忍なのはいうに及ばず、敵をなぶる時にあげる奇声はまさに鬼畜そのものといっていい。ただ、その鬼畜のような男に、神は何故か人智を超える戦略眼を与えたのだ。
 実際にブルムスはその才を非常に愛し、――むろん才のみじゃが、軍師の一人としてそばに置いていた。しかし、ブルムスが死にマクスールが後を継いでからは、その容姿と性格が気に入らなかったのであろう。スツールは、日陰者としてもっぱら食料調達などの雑用にこき使われたらしい。
 容姿はともかくとして、性格はマクスールと似たようなところがあるので、同族嫌悪といったところか。とにかく、ブルムス将軍の時代は、軍師として顎でこき使っていた部下たちから、マクスール将軍の時代には雑用係として降格したので、散々苛められたようだ。
 今回の人事では、スツールを苛めていた者たちは彼(スツール)の配下に組み込まれることになることに戦々恐々としているらしい。スツールの捻じ曲がった性格から、必ず苛めていた彼らに報復を加えることは間違いないからな」
「とんでもない者たちが六将に就任されるのですね」
「あぁ〜。大方、黒宰相(ザッド)の考えであろう。能力さえあれば、性格などの要素は度外視というところか。敵にとっては当然最悪だが、聖王国にとっても大きな汚点となりかねない人事だな!」
 ドンクの感想にグラフも自分の気持ちを率直に答えた。
 その時である。
「大変です!!」
 大声で、そう叫びながら一人の兵士がグラフ大将軍のこの私邸の一室に飛び込んできた。
「何事だ!!」
 グラフがその兵に大声で問いかける。
「はっ!」
 その兵士は全力で駆けてきたのか、息があがってなかなか次の言葉がでない。
 本来であれば、グラフのような大将軍の私邸に、それも自室に勝手に配下の兵が入ることは許されていないが、グラフは持ち前の気安さから、緊急の時には、誰であれ自室に入ることを許していたのである。
「六日前の二月一五日に……」
 兵士はやっとしゃべり始めた。
「……クルックス共和国で大規模な軍事クーデターが起こりました! クルックス共和国の首相であったソンバスが共和四主の軍隊に襲われて殺されました!!」
 その報告は、歴史の大きなうねりの始まりを告げるものであった。

 クルックス共和国で首相であったソンバスが殺害されたという報が、ソルトルムンク聖王国の王城マルシャース・グールに届いた翌日の龍王暦一〇五五年二月二一日。
 マルシャース・グールの謁見の間に、新たに任命された六将が集結した。
 金竜(こんりゅう)将軍マクスール、銀狼(ぎんろう)将軍ドンク、紫鳳(しほう)将軍エアフェーベン、蒼鯨(そうげい)将軍スツール、碧牛(へきぎゅう)将軍ボンドロートン、黒蛇(こくじゃ)将軍グロイアスの六人である。
 さらにジュルリフォン聖王に宰相ザッド、近衛大将軍グラフと軍務担当の大臣他、数人の大臣が謁見の間に列席していたのである。
「話は他でもない。昨日、マルシャース・グールにもたらされたクルックス共和国の軍事クーデターの件である!」
 ザッドはこう口火をきった。
「皆はもう知っていると思うが、同月の一五日にクルックス共和国の影の支配者であった『共和の四主』の軍事クーデターにより、我が聖王国がクルックス共和国の復活に推した首相であるソンバス殿が殺害された。
 我が國としては、クルックス共和国の復活を願い、ソンバス殿という優秀な人材を推すことにより、両国の恒久的平和を願った。その思いは、クルックス共和国を影で操る共和の四主により、無残にも打ち砕かれた。我が國が擁立したソンバス殿を害するということは、我が國に対して弓を向けることと同義であると小生は考える。小生は聖王の名を持ってクルックス共和国の残党である共和の四主に宣戦を布告する!!」
 ザッドの力強い宣言であった。
 これに異を唱える者は聖王国には表向きには誰もいなかった。否、聖王国国民として異を唱えることは出来なかった。聖王国の擁立したソンバスが殺害された以上、どのような理由であれ、殺害をした対象物――共和の四主は聖王国としては討伐するより選択肢はない。
 そのように持っていったのはむろん黒宰相のザッドであったが……。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(神名・人名等)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖王国の紫鳳将軍)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍)
 グロイアス(ソルトルムンク聖王国の黒蛇将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 スツール(ソルトルムンク聖王国の蒼鯨将軍)
 ソンバス(クルックス共和国の首相。ユスィソンクルの末裔)
 ドンク(ソルトルムンク聖王国の銀狼将軍)
 ブルムス(ソルトルムンク聖王国の元天時将軍。故人)
 ベグッシュロス(ソルトルムンク聖王国の将軍。狂い獅子の異名を持つ。故人)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖王国の碧牛将軍)
 マクスール(ソルトルムンク聖王国の金竜将軍)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 共和の四主(クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫(れいき)、炎の童子、山の導師の四人)


〔参考二 大陸全図〕
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