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2014年12月13日16:19

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〔小説〕八大龍王伝説 【344 狂い獅子】


 八大龍王伝説


【344 狂い獅子】


〔本編〕
「ご存知なのですが? グラフ将軍は新将軍の二人を……。グラフ将軍が六将候補に推薦した私――ノイヤールを外してまで、将軍についた者ですが、ここにいるドンクもエアフェーベンもスツールもボンド何がしかとかいう者を全く知りません。黒蛇将軍のグロイアスを含めれば三人の六将が国内にいる我々すら知らない者なのですが……」
「知らないのも無理はない。スツールはブルムス将軍に仕えて、その後マクスール将軍に仕えた者。ブルムス将軍の元で可愛がられていた優秀な人物だったが、マクスールには嫌われていた。何故なら、容姿が非常に不器量なのだ。見た目を気にするマクスールには受け入れられなかったようだ。そして……。ボンドロートンはあのベグッシュロスの息子だ」
「ベグッシュロス?! あの『狂い獅子』のベグッシュロスですか?!」
 スルモンが素っ頓狂な声をあげた。
「『狂い獅子』とは何ですか?」
 この五人の中で最年少のドンクがスルモンに尋ねた。
「ドンク将軍は今年いくつになられましたか?」
「二十三になりました」
 スルモンの問いにドンクはこう答えた。
「それではご存知ないのも無理はない。エアフェーベン将軍とノイヤール殿もお年からして知らないのでは……」
「私とノイヤールは今年共に三十七歳になりました。ベグッシュロスという名は聞いたことはありますが、詳しくは知りません」
 エアフェーベンが代表して答えた。
 この時代は、生まれた瞬間を〇歳として、翌年の一月一日に全員が一つ年をとる。つまり誕生日という概念がないのである。
「スルモン! お前の分かる範囲で三人(ドンク、エアフェーベン、ノイヤール)にベグッシュロスについて説明してやるがよい。足りない部分はわしが補おう」
「分かりましたグラフ大将軍。それでは説明いたします」
 この年――龍王暦一〇五五年。スルモンは五十四歳。グラフ大将軍は六十三歳であった。
「今から三十五年前の龍王暦一〇二〇年。グラフ大将軍、故ブルムス殿、そして故ムーズ殿の三人は天時、地利、人和の三将軍に当時の聖王であられるコリムーニ聖王から任命された。以来三十年間――龍王暦一〇五〇年にソルトルムンク聖王国がバルナート帝國率いる連合軍に滅ぼされるまで、不動の三将軍でありました。
 龍王暦一〇一九年に当時の天時将軍が病で倒れ、将軍職を担えなくなり、また翌年の一〇二〇年に当時の地利将軍が老齢を理由に将軍職の引退を願い出ました。そして、その当時人和将軍であった故ムーズ将軍が、天時将軍に就任しました。故ムーズ将軍の正確な年齢は、御仁の性格から明らかにされていませんが、おそらく四十五は過ぎていたと思います。
 そして、空席になった地利将軍に故ブルムス将軍が、人和将軍にグラフ将軍が就任されたのです。故ブルムス将軍が三十歳。グラフ将軍が二十八歳でありました。この時、年齢的にも能力的にも三将軍職に最も相応しい人物が他にいたのです。それが当時既に『狂い獅子』という異名を持っていたベグッシュロスだったのです。年齢は故ブルムス将軍より三つ上の三十三歳でした」
「能力的にも優れていたのでですか?」
 この場で最年少のドンク将軍がスルモンに尋ねました。
「左様!」
 ドンクの問いにグラフが答えた。
「戦略眼においてはブルムスより優れており、武術の中の槍術においてはわし(グラフ)より優れており、部下からの人望の高さはムーズ将軍と同じぐらいであったかもしれない!」
「そのような人材が何故、三将軍職に任命されなかったのですか?」
 ドンクのさらなる問いかけであった。
「一言でいえば性格に難があった」
 グラフが続けた。
「非常に怒りっぽく、暴力的で残忍な性格であった!」
「そのような者が何故、部下からは人望があったのですか?」
 ドンクが不思議そうに尋ねる。
「何故か部下には、一度も怒ったことがなかった。しかし、敵に対しては容赦が無かった。捕まえた敵の目をえぐる。鼻をそぐなどしてから、なぶり殺しにしたりした。それから……」
 グラフの言葉が続く。
「味方とはいえ、同僚さらに上役に対しては、気に入らないと食ってかかった。軍議の席で意見の合わない同僚や将軍といった上役に、殴りかかり、皆で止めに入らなければ、殴られた者が死にかけたことも度々であった。『狂い獅子』という異名と共に敵、味方共に恐れられる武将であったのだ」
「そういう性格だったので、さすがに仁徳の王と慕われたコリムーニ前聖王すらベグッシュロスを御すことの不可能さを悟り、軍事の最高位である三将軍位へ任じることを断念したと謂われています。或いは仁徳の王であられるコリムーニ前聖王だからこそ、その残忍さを嫌ったという説もあります。いずれにしても、龍王暦一〇二〇年からの三十年間。ムーズ、ブルムス、グラフの三将軍が不動であったため、ベグッシュロスは三将軍の次席である一般の将軍位以上にはなれなかったのです」
 スルモンがグラフの言の後を引き継いだ。さらにスルモンは続ける。
「そのような体制の中、龍王暦一〇四五年にベグッシュロスは五十八歳でこの世を去りました。病死と言われている一方で、ベグッシュロスを恨んでいた同僚の一人に毒を盛られたという説も出たぐらいです。そのベグッシュロスの三十人もいた息子の末子にあたるのが当時二十五歳のボンドロートンで、大隊長の一人に就任したのです。
 ボンドロートンは百九十センチメートルの長身で、体重も百キロを超える巨漢であります。しかし、恐るべきは父であるベグッシュロスの能力と性格を色濃く引き継いでいるという点でありましょう。とにかく、大隊長であったボンドロートンは僅か三年足らずで、ベグッシュロスの長男の……。名前は忘れてしまいましたが、その長男を押しのけて将軍位の座に就いたのであります。
 実はベグッシュロスの長男は戦いの中で戦死しました。これは噂ではありますが、ボンドロートンが戦いの最中にどさくさにまぎれて、この長男を殺したというものがこの当時、まことしやかに流布されました。この噂自体は根も葉もないものですが、一つその噂を裏付けるような事実があります。ベグッシュロスが亡くなって三年足らずの間――ボンドロートンが将軍位に就任するまでの間――に三十人いたベグッシュロスの息子のうち、ベグッシュロスを先立った二人を除き、二十三人もの息子が戦死或いは病死したのです。偶然というには、あまりにも出来すぎている事実と、私スルモンは思います」



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(神名・人名等)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖王国の紫鳳将軍)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍)
 グロイアス(ソルトルムンク聖王国の黒蛇将軍)
 コリムーニ聖王(ソルトルムンク聖王国の前王。四賢帝の一人。故人)
 スツール(ソルトルムンク聖王国の蒼鯨将軍)
 スルモン(グラフ将軍の副官)
 ドンク(ソルトルムンク聖王国の銀狼将軍)
 ノイヤール(エアフェーベンの友人)
 ブルムス(ソルトルムンク聖王国の元天時将軍。故人)
 ベグッシュロス(ソルトルムンク聖王国の将軍。狂い獅子の異名を持つ。故人)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖王国の碧牛将軍)
 マクスール(ソルトルムンク聖王国の金竜将軍)
 ムーズ(ソルトルムンク聖王国の元人和将軍。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)


〔参考二 大陸全図〕
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