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2014年12月06日09:49

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〔小説〕八大龍王伝説 【343 六将出揃う】 


 八大龍王伝説


【343 六将出揃う】


〔本編〕
「確かにハリマ殿のおっしゃるとおり……、さらに決まっている四将のうち、マクスールとドンクは元々三将軍であったため、皆が知っておりますが、残りの二人――エアフェーベンとグロイアスについては名前さえ知られていない者。この制度編成は大失敗と言えるのではないでしょうか?」
 そう言ったのはバルナート帝國四神兵団の筆頭である白虎騎士団の軍団長ライアスであった。
「そうであれば良いのだが……」
 ラムシェル王の表情が若干曇った。
「何かご懸念がございますか?」
 そう聞いたのはバルナート帝國の宰相マクダクルスであった。
「ああ。我がミケルクスド國の『草』による諜報によると、紫鳳(しほう)将軍に任命されたエアフェーベンという人物。若いながらになかなか優秀な人物と報告を受けている。黒蛇(こくじゃ)将軍のグロイアスについては全く不明ではあるが……。何やらただ者ではないと感じる。これから至急、『草』の力で調査させるが……。いずれにせよ六将制度は、龍王暦二百年代に果たせなかった聖王国による大陸統一を目指して設立させたので間違いないと余は考えるが……」
 このラムシェル王の言の葉で、会議の皆が黙り込んだ。
「むろん我らも座してそれを待つつもりはない!」
 ラムシェル王が続ける。
「元ゴンク帝國領の駐留軍は昨年の八月に到着した。さらに昨年の九月には、三年前(龍王暦一〇五二年)我がミケルクスド國とバルナート帝國が戦敗国として割譲を予定されていた地域の撤回を願い出た。当然、ソルトルムンク聖王国のゴンク帝國への対応の不服の表明としての、力による強力懇願(ごうりきこんがん)ではあるが……。
 仲介役としてジュリス王国にお願いしたが、要するに先にザッドが元ゴンク帝國領割譲に使った引き伸ばし外交に徹することになるだろう。まだ聖王国が、武力行動が出来ないと考えた末の手だ」
 龍王暦一〇五二年の領土割譲とは、その前年の龍王暦一〇五一年の一〇月にバルナート帝國がソルトルムンク聖王国に無条件降伏したことによる、敗戦国であるバルナート帝國とミケルクスド國の領土の聖王国への割譲のことである。
 バルナート帝國は、十三地方のうち北バクラ地方とノーム地方の二地方。ミケルクスド國は先の大戦で奪ったセルマー地方の返還と、それ以外にミケルクスド國の六地方のうちのナグモス地方の割譲であったが、この年(龍王暦一〇五二年)の一二月に勃発したカルガス國残党の反乱により先延ばしになっていた事柄である。
 ラムシェル王はこの領土割譲をゴンク帝國の件に絡めて御破算(ごはさん)にしようとしたのである。
 ラムシェルがここまで話した時に、室外からやってきた一人の家臣がラムシェル王に耳打ちをした。
「おぉ〜! お待ちかねの方が到着したようだ。……この方の存在は、ヴェルト大陸に大きな動きをもたらすことになろう。この場で皆に紹介しよう」
 そう言うとラムシェルは直接、その者の迎えに行った。
 五分後。ラムシェルは皆のいる部屋に四人の人々を連れて戻ってきた。そのうち一人は十歳にも満たない子供で、一人の女性の手に引かれていた。
「こちらから順にステイリーフォン聖王子陛下、グラフ将軍の副官スルモン殿、カリム殿、そしてシャカラ様のお子様であられるハクビ様です」
 このラムシェル王の紹介にそこにいる一同は驚きを隠せなかった。
「これで余が、我らに、切り札があるといった意味がお分かりになったとは思われるが……」
 ラムシェル王はそう言うと、ニコリと笑った。

「どうやら六将のうち、空席の二将の席も埋まったようだな!」
 グラフ将軍は、円座を見回しながらそう呟いた。
 そこはソルトルムンク聖王国の首都であり王城であるマルシャース・グールにあるグラフ将軍の私邸の一室であった。
 円座の中央には酒の樽や肴があり、それを囲むように五人の男たちが座っていた。
「スルモン! ジュリス王国まで聖王子を送り届けた件、ご苦労であった。これでわしの肩の荷も下りるというものだ」
「いえ。お気遣いには及びません。とりあえず、ステイリーフォン聖王子陛下とハクビ様は、ミケルクスドのラムシェル王の庇護の下に置かれることになりました。ラムシェル王にとっては対ソルトルムンク聖王国の大きな切り札になる方々。ラムシェル王は聖王子陛下とハクビ様を無碍(むげ)に扱われないと思います」
「ラムシェル王は稀代の名王に加えて、人徳の王。そのような心配は無用だ」
 スルモンの言葉に答えたグラフ将軍の言葉であった。
 今は龍王暦一〇五五年二月二〇日。ジュリス王国のアトン城で行われた、いわゆる『アトン会談』或いは『五五会議』と後に呼ばれる集まりから一月ほど経過していた。
「ところで六将のうち、残り二つの蒼鯨(そうげい)将軍と碧牛(へきぎゅう)将軍は誰に決まったのだ?」
 グラフ将軍が今は銀狼(ぎんろう)将軍に就任しているドンクに尋ねた。
「はい」
 そう言ったドンクが続けた。
「蒼鯨将軍がスツールという者。碧牛将軍がボンドロートンという者です。大将軍はこの二人をご存知ですか?」
「その呼び方は止めてくれドンク!」
 グラフが鼻白んだ。
「六将それぞれの兵が一万。六将合わせて六万の軍勢。それを倍する十万以上の兵を有しているという実質の第七軍――近衛大将軍のグラフといえば聞こえが良いが、結局は十六人の近衛副将軍が近衛軍を十六分割しており、その副将軍はスルモンを除く十五人は全て黒宰相ザッドの息がかかっている。実権はザッドが持っているといって何ら支障はない。
 わしは、形だけの名誉職のようなものにされてしまったのだ。ザッドの口を借りれば、『グラフ殿ほどの名将を六将如きにしてしまうのは申し訳ない。グラフ殿にはそれを上回る位(くらい)を用意します』と言っていたが、結局はわしの力は完全に削ぎ落とされた!」
「大丈夫です! 銀狼(ぎんろう)将軍の私と紫鳳(しほう)将軍のエアフェーベン殿は、いつでもグラフ将軍のお味方です」
 ドンクのこの言葉に隣にいたエアフェーベン新将軍は大きく頷いた。
 グラフ将軍はドンクのこの言葉に少し相好を崩したが、また厳しい顔つきになった。
「しかし、スツールと、よりによってボンドロートンが、六将にか……」



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王)

(神名・人名等)
 エアフェーベン(ソルトルムンク聖王国の紫鳳将軍)
 カリム(元ハクビ小隊の魔兵。ステイリーフォン聖王子の妻)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の近衛大将軍)
 グロイアス(ソルトルムンク聖王国の黒蛇将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 スツール(ソルトルムンク聖王国の蒼鯨将軍)
 ステイリーフォン聖王子
 スルモン(グラフ将軍の副官)
 ドンク(ソルトルムンク聖王国の銀狼将軍)
 ハクビ(シャカラとレナの子)
 ハリマ(ラムシェル王の家臣。ラムシェルの右脳と呼ばれる人物)
 ボンドロートン(ソルトルムンク聖王国の碧牛将軍)
 マクスール(ソルトルムンク聖王国の金竜将軍)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 アトン城(ジュリス王国の北の海岸沿いの小城)
 北バクラ地方(バルナート帝國の一地方)
 セルマー地方(ソルトルムンク聖王国とミケルクスド國の国境付近の地域。今はミケルクスド國領)
 ナグモス地方(ミケルクスド國の一地方)
 ノーム地方(バルナート帝國の一地方)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 草(ミケルクスド國の他国に土着しているスパイ)


〔参考二 大陸全図〕
フォト


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