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2014年11月22日05:57

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〔小説〕八大龍王伝説 【341 アトン会談(中)】 


 八大龍王伝説


【341 アトン会談(中)】


〔本編〕
「昇位式とは、聖王国のジュルリフォン聖王の『エンペラー』への昇位(クラスアップ)の儀式のことです。『エンペラー』は皆様、ご存知のように支配階級である王や帝王の最終段階(トップランク)であり、これも皆様、ご存知と思いますが、天界の神々でなければ、与えることのできない階級の位(くらい)であります。
 ジュルリフォン聖王が、去る龍王暦一〇五〇年の一〇月三〇日に聖王国の聖王に即位した時には、まだ支配階級の第三段階(サードランク)の『キング』でありました。それから去年まで、聖王国の建国神であり守護神であられる八大龍王のお一人――第八龍王の優鉢羅(ウバツラ)龍王自身と直接の接触(コンタクト)がとれない聖王国としては、ジュルリフォン聖王を『エンペラー』に昇位(クラスアップ)する機会がなかったのです。
 噂によると、龍王暦一〇五一年に八大龍王のお一人――第三龍王の沙伽羅(シャカラ)龍王が聖王国に訪れた際に、ジュルリフォン聖王は沙伽羅(シャカラ)龍王に『エンペラー』への昇位を懇願して断られています。これらの情報は全て、ミケルクスド國のラムシェル王からの情報です」
 ベッルルスは一度ここで話を切り、ラムシェル王の方を視た。
「続けて構わない。ベッルルス殿」
 ラムシェル王からの言の葉である。
「とにかく昨年(龍王暦一〇五四年)一月一日。その昇位式により、ジュルリフォン聖王は晴れて『エンペラー』の階級になったのです。これはソルトルムンク聖王国内のみの儀式ということで、他国から招かれた者はいなかったのです」
「お待ちください。ベッルルス殿」
 話を遮る者が現れた。
「なんでしょう。マクダクルス殿」
 それはバルナート帝國宰相のマクダクルスであった。
「その昇位式を行うにあたって、その階級を授ける神の存在はどうなったのですか?」
「それは……」
 ベッルルスが口ごもりラムシェル王の方をチラリと見た。
「よかろう。バルナート宰相(マクダクルス)殿の質問には余が直接、答えよう」
 ラムシェルの形のよい紅い唇が動いた。
「今回のソルトルムンク聖王国での昇位式には、國内の内々の儀式ということで、各国から呼ばれた者は誰もいない。聖王国に駐在している外交担当官すらその場には列席できなかった。そのため、どのような儀式であったかは窺い知ることはできないが、唯一、余のみが知っている。
 我が國の諜報員である『草』が一名、その儀式に参列することができた。それによると数十名ほどで執り行われた簡素な儀式ではあったが、そこに神は確かに参列していた。そしてその神は、ウバツラと名乗っていた」
「それは本当ですか? ラムシェル王」
「本当のことだ。マクダクルス殿。ただ……」
「ただ?」
「参列した『草』――聖王国の大臣クラスの者であるが――その者によると、その神がウバツラかどうかは分からないが、その神からは、人にはない神の気というものを有していたとのことだ。……むろん、非常に優れた人物であれば、神の気を有することも可能であるし、百歩譲って神の気を有しているから神としても、それが八大龍王の優鉢羅(ウバツラ)龍王とは限らない」
「ウバツラ様でないのではないでしょうか?」
「うむ。マクダクルス殿のおっしゃるように余も九割九分、ウバツラ様で無いと思う。しかし……。ウバツラ様でない確証も何一つない。おそらく内々にことを進めたのも、ウバツラの偽者の確証を第三者に握られないようにするための用心からであろう」
「成る程」
「いずれにせよ、確証はないが、ウバツラ様が偽者という証拠を握ることができれば、ジュルリフォン聖王の権威は失墜し、宰相のザッドの執政も破綻をきかす。いずれにせよ、確証を握った後のことではあるが……」
「我が國が確保している聖王国の本物の三種の神器は証拠となり得ぬか。ラムシェル王」
 バルナート帝國のネグロハルト帝王であった。
 そのネグロハルト帝王の発言はそこにいた残りの八名の表情を一変させた。
 知らなかった者には衝撃の事実であり、知っている者には秘密を公にされたことへの驚きであった。
「三種の神器の話は、この十名のみの胸の内に収めていただきたい……」
 ラムシェル王はさすがに冷静であった。
「三種の神器は有名な話なので皆知っていると思うが……、ソルトルムンク聖王国が龍王暦二一〇年代からはじまったいわゆる『六将大戦役』によって、ヴェルト大陸が聖王国に制覇されかけた時、聖王国の建国神であるウバツラを除く七人の八大龍王達は、いろいろな形でその戦いに介入して、結局、聖王国以外の七つの國は滅びずにすんだ。
 その時、ウバツラを除く七人の八大龍王は、ウバツラと聖王国を懐柔する一つとして『三種の神器』をその当時の聖王に授け、実質的なヴェルト大陸の盟主と認めたのである。それ以降、ソルトルムンク聖王国では三種の神器を時代の聖王に引き継ぐことで、ソルトルムンク聖王国の聖王、イコール、ヴェルト大陸の盟主という地位も受け継いできた。形だけの話ではあるが、まあ大義名分の一つであろう。
 しかし、この三種の神器である『聖王の冠(ケーニヒ・クローネ)』、『聖王の杖(ケーニヒ・シュトック)』、『聖王の剣(ケーニヒ・シュヴェーアト)』は、龍王暦一〇五〇年三月九日にバルナート帝國ミケルクスド國連合軍によって聖王国の王城マルシャース・グールを陥落させた時に、バルナート帝國に接収されている。そして、今もバルナート帝國に密かに隠されている」
「そのことを公にすれば、聖王国の大義名分は根底から覆るのでは……」
 ネグロハルト帝王の言の葉であった。
「お待ちください。ネグロハルト帝王。今はその時期ではありません!」
 そう言ったラムシェル王は静かに続けた。
「確かに、今バルナート帝國がお持ちの『三種の神器』は、聖王国から接収した本物であることは、余は疑っておりませんが、なにぶんにも本物の証明ができません。
 実際に龍王暦一〇五〇年一〇月三〇日に聖王国の復活と、ジュルリフォン聖王の戴冠を行ったソルトルムンク聖王国側からすれば、王城マルシャース・グール奪還の折に、『三種の神器』を奪取して、本物は聖王国側が持っていると主張するでしょう。
 あえていいますが、偽の三種の神器と偽のウバツラの使者を用意してまで、聖王の戴冠と聖王国の復活を成し遂げたのです。それこそ、それらが偽ということに対して、聖王国側は必死になって否定するでしょう。今の状態では、真贋(しんがん)の水掛け論に終始することになります。
 しかし、偽のウバツラ及びウバツラの使者、それから偽物の三種の神器はソルトルムンク聖王国にとっては、アキレス腱のようなもの。最上の形で――いや聖王国側からすれば最悪の形で利用して、聖王国の根幹に大きな楔(くさび)を打ち込みましょう。
 ただ、帝王(ネグロハルト帝王)! それは今ではありません。しばし時をお待ちください。……ベッルルス殿。話が横に逸(そ)れたが続けてくれ」
「分かりました。ラムシェル王」
 ジュリス王国のベッルルスは再び話し始めた。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王)

(神名・人名等)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 ベッルルス(ジュリス王国の宰相)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南の超弱小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。現在はツイン地方のみが国土)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)
 第三段階(兵の習熟度の称号の一つ。下から三番目のランク。サードランクとも言う)
 最終段階(兵の習熟度の称号の一つ。一番上のランク。トップランクとも言う)
 キング(第三段階の支配階級の兵)
 エンペラー(最終段階の支配階級の兵)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 草(ミケルクスド國の他国に土着しているスパイ)
 三種の神器(ソルトルムンク聖王国の聖王の証。「聖王の冠(ケーニヒ・クローネ)」、「聖王の杖(ケーニヒ・シュトック)」、「聖王の剣(ケーニヒ・シュヴェーアト)」の三つの宝物)


〔参考二 大陸全図〕
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