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2014年11月01日04:07

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〔小説〕八大龍王伝説 【338 新ナゾレク地方長官】


 八大龍王伝説


【338 新ナゾレク地方長官】


〔本編〕
 とにかく、このような数々の企てが同時並行されながら、龍王暦一〇五四年の正月を迎えるわけだが、この年の初めにそれまで検討された事項に比べたらほんの些細な事柄も決まったのである。
 人和将軍ドンクの副官であったシェーレの元カルガス國のナゾレク地方の地方長官の就任である。
 シェーレのこのナゾレク地方長官就任の前には、多少のいざこざがあった。
 シェーレから人和将軍ドンクに対して、絶縁宣言をしたことがそれである。
 つまり離婚宣言であるが、この当時、結婚は今ほど大々的なことではなかった。
 好きになったら一緒に暮らし、嫌いになったら別居するのが普通であり、それも今の日本国のように一夫一婦制が法律で規定されているわけでないので、複数のパートナーがいるのが普通であった。
 特に力のある者が多くのパートナーを常時有しているのはこの時代の感覚でいくとなんら不思議でもなかった。
 シェーレの夫はわざわざ言うまでもないがドンクである。
 ドンクは人和将軍――ソルトルムンク聖王国軍事部門の最高幹部三将軍の一人である。これほどの職であれば、パートナーが十数人いてもなんら不思議ではない。しかし、ドンクはシェーレとしか関係を持っていなかった。
 ドンクには人気がなかったのであろうか? それは有り得ない。
 ドンクは切れ長の涼しげな眼差しに、高い鼻に小さな口という優男を印象させる美男子である。
年齢は一〇五三年に二十一歳。性格も明るく誰にも優しい、上司にも部下にも好かれる性格であった。容姿、若さ、地位、性格のどれをとっても申し分ない。
 聖王国の若い女性でドンクの妻になりたいと考えている者は履いて捨てるほどたくさんいたのである。
 そのようなドンクが、シェーレ以外のパートナーを持っていなかった。これは、ドンクというよりもシェーレが、ドンクに他の女性と関係を持たせないようにしているというのが、もっぱらの噂であった。
 そんなドンクに新しい恋人ができたらしい。
 その新しい恋人がシェーレの組織した特殊部隊――シェーレウィヒトライン一人、ユークスリュースらしい。
 ドンクを独占していたシェーレにとって、それは許されざる行為であったのであろう。
 シェーレは直ちに、人和将軍副官の職の辞任を願い出、それが叶うと地方長官職の希望を、グラフ将軍を通じて、中央のマルシャース・グールに願い出たのである。
 それと同時にドンクに対して先に話した絶縁宣言をしたのである。
「これは良い兆候ですな」ザッドが嬉しそうにジュルリフォン聖王に説明した。
「人の不幸を喜びに感じるおぬしらしい発想だな」聖王は嫌味たっぷりザッドに履き捨てるように言った。
「いやいや。聖王陛下。ドンクの人徳とシェーレの知略――この組み合わせは味方としては頼もしいですが、敵に回すと非常に厄介なものです。少なくとも小生の息がかかっていないこのドンク・シェーレ勢力は、その力が弱まるのが、我々にとっては最も好ましいこと」
「我々? 聖王国の勢力が削がれるのは朕にとって好ましからざる事態。宰相の言っている意味がよく分からぬ」
「今の三将軍の制度であれば、軍事勢力の三分の一にその影響が出ます。しかし、六将と中央軍を含む七勢力の制度であれば、その影響は七分の一であります。全体から見るとその影響は極めて微細となります」
「そのようなものか」ジュルリフォン聖王はやれやれといった表情であった。
「しかし、問題が一つあります」ザッドは、聖王の表情など全く意にかえさず言葉を紡いだ。
「シェーレの希望している地方ですが……、マスラー地方、ミロイムス地方、モリアキ地方の三地方のいずれかを希望しています。いずれの地方も聖王国の南西部にあたる肥沃な地方です。ここにシェーレを就任させるのはいかがかと小生は思います」
「シェーレとやらの実力であれば、何ら問題がないのではないか? 何を懸念している宰相は……」
「いえ。シェーレの実力では、地方の運営に全く問題がありません。しかし、それが問題なのです。陛下! シェーレがこれらの地方のどこかで謀反を起こした場合。我が聖王国は南西部に敵を――それも強大な敵を作ることになります。それがバルナート帝國やミケルクスド國と手を結べば、聖王国は北と南に兵を二分しなければいけなくなります。小生としては、それは避けたいと考えております」
「シェーレとやらが、何故、バルナート帝國などと手を結ぶ?」
「ご存知ありませんでしたか? 聖王陛下! シェーレは元々帝國の民ですぞ」
「それは知っているが……。だからと言って聖王国を裏切って、帝國と手を結ぶなどと……」
「陛下! 何事も最悪の事態を想定しなければいけないのが宰相としての小生の役目です。できれば北の地域であれば……。そうだ!」ザッドの細い眼が一瞬見開いた。
「ナゾレク・エクサーズ! そうだ!! ナゾレク地方だ!」
「元カルガス國の首都のある地域か?」
「はい! あの地域は、昨年の龍王暦一〇五二年一二月のカルガス國残党の反乱により、その当時のナゾレク地方の長官ウリバンは戦死しました。その後、三人の長官が就任しましたが二人は二月(ふたつき)と持たず逃げ出し、一人は行方不明になりました。おそらく生きているとは考えられませんが……。
 それが、一月(ひとつき)前の話で、今は長官の席が空席の状態で、元カルガスの民により統治されている状態です。なんとか一週間後の来年の一月には、我が國の地方長官を任命する必要があります。そうでないと実質的な我が聖王国の領土とはなり得ず、むしろカルガス残党軍の温床となってしまいます。このような難しい土地はシェーレの才覚が生きるでしょう。また、シェーレが失敗すれば、それを理由にシェーレを除くことも可能です。どちらに転んでも陛下の利益と成り得ます」……。
 こうして、シェーレのナゾレク地方の長官就任が年明け(龍王暦一〇五四年)の一月五日に決まった。
 もともとナゾレク地方の長官を望んでいたシェーレの深慮遠謀の前に、さすがのザッドも手玉に取られた形になってしまったのである。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(神名・人名等)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 シェーレ(ナゾレク地方の地方長官)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 ドンク(ソルトルムンク聖王国の人和将軍)
 ユークスリュース(シェーレウィヒトラインの一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 ナゾレク・エクサーズ(元カルガス國の首都であり王城)
 ナゾレク地方(元カルガス國の王城のある地方)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 シェーレウィヒトライン(シェーレの率いる特殊部隊。『シェーレの妖精たち』ともいう)
 人和将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第三位の称号である)


〔参考二 大陸全図〕
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