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2014年10月04日04:52

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〔小説〕八大龍王伝説 【334 黒い密約】


 八大龍王伝説


【334 黒い密約】


〔本編〕
 さて、バルナート、ミケルクスド、ジュリスの三國の連合軍十万が、それぞれの地へ帰還を始めた際、ザッドとその取り巻きの者数名は、その連合軍に付き従ってバルナート帝國の帝都であり王城であるドメルス・ラグーンに到着した。
 バルナート帝國帝王ネグロハルトに直接、ゴンク帝國について弁明するのが表向きの目的であった。むろん本当の目的は、ネグロハルト帝王の周りに隙があれば、ネグロハルト帝王を除いてしまおうというものであった。
 ラムシェル王より連合軍本陣での顛末を聞き、ザッドの真の目的を聴聞したネグロハルト帝王と宰相のマクダクルスは、病と称してザッドには直接会わなかった。
 ザッドの相手をしたのは中間職の外交官の一人であった。
 ザッドは、真の目的を達することはできなかったが、それでも弁明をするためにバルナート帝國の帝王に謁見を求めたという事実ができただけで、一応目的は達した。
 龍王暦一〇五三年三月中旬にバルナート帝國を去ったザッドは、その足で西に向かいジュリス王国の首都であり王城である『ヤ・ムゥ』に同年四月下旬に到着。ジュリス王国の王ユンルグッホ王へも謁見を願い出た。
 当然、ミケルクスド國のラムシェル王から情報を得ていたユンルグッホ王も病と称し、二級品の外交官で対応。
 続いて、ザッドは同年五月中旬にミケルクスド國の首都であり王城でもあるイーゲル・ファンタムに到着し、再びラムシェル王への謁見を請うた。
 その時、ザッドの相手役として対応したのがミケルクスド國の将軍の一人であるガイエルであった。
 ガイエルは白髪頭に白い髭を蓄え、浅黒い肌と黒く鋭い目つきをしている初老の男であった。一〇五三年に六十二歳になっていた。
「おぉ! ガイエル殿のような名将にお目にかかることができるとは……。小生としても嬉しい限りです」
「フン!」ガイエルはザッドに聞こえるように鼻をならして続けた。
「おぬしのような腹黒き者。このわしのようなうす汚れた裏切り者が、ちょうどお似合いとの若王の仰せなのであろうが……。わしならば、お前に除かれても若王からすれば痛くも痒くもない。むしろ聖王国の非をヴェルト大陸全土に知らしめた上、わしのようなお荷物も始末できて一挙両得と考えておられるのであろうな。我が若王は……。」
「ご冗談を……」ザッドは全く動揺せず、ニヤニヤと笑っていた。
 ガイエルのいう若王とはミケルクスド國のラムシェル王のことである。今年二十九歳のラムシェル王を若王と呼ぶのもおかしいが、ガイエルはラムシェル王を侮り、王やその側近のいないところではこのような陰口をたたいているのである。
「しかし、三國(バルナート帝國、ジュリス王国、ミケルクスド國)の王が揃いも揃って病気とは……。大陸の北方には悪しき疫病でも流行っているのでしょうかな。ガイエル殿」
「フフッ! 相変わらず腹黒い物言いだな。ザッド殿は……」ガイエルがニヤリと薄ら笑いを浮かべた。
「貴殿に害されるのを王達は恐れているのよ。ザッド殿! 貴殿は相当嫌われ、かつ恐れられているな」ザッドは、このガイエルの皮肉に首をすくめて呟いた。
「なんの。なんの。小生などただの一介の文官に過ぎませぬ。ガイエル殿の名将にそう言われるのは面映(おもはゆ)いですな!」
「……」ガイエルはザッドのその言葉にフンと鼻をまたならし、横を向いた。
「いやいや、世辞ではございません。ガイエル殿といえば、我が聖王国では今、天時将軍に就任されておられるグラフ将軍に匹敵する実力の持ち主。是非、我が國にお迎えしたい人材です。そのような人物を将軍職の末席に置かれるとは……。いやはやラムシェル王は類まれな賢き王とお聞きしておりますが、人を見る目はあまり優れていないようですな。ハッハッ。失礼いたしました。貴殿の国王陛下の悪口を申してしまうとは……。これは口を滑らせたようですな! 長居をいたしました。小生はこれで失礼いたします」
「待たれよ。ザッド殿!」ザッドが立ち上がろうとするのをガイエルが呼び止めた。
 ガイエルの顔は相変わらず、いやらしい笑いを浮かべたままであった。
「聖王国は、本気でわしを迎える気があるのか?」
「無論です。将軍(ガイエル)に、その気があれば、グラフ将軍の次の席はご用意しておきます。但し……」ここでザッドがニヤリと笑った。
「今すぐはいけません。将軍は力を蓄えて、しかるべき時に我が聖王国にお越しください。その時期は小生の方で、お伝えいたします」
「よかろう。貴殿の言を信じようぞ!」ガイエルが声を落とした。
 ここにザッドとガイエルの黒い密約が成立したのである。

 龍王暦一〇五三年六月九日。ソルトルムンク聖王国宰相ザッドは、聖王国の王城マルシャース・グールに帰還した。
 究極の瞬間移動の術――自分が訪れたことのない地域でも、天眼スキルで見るだけでその場所に瞬間移動できる神のレベルの術のことであるが、――それを行使できるザッドであれば、ミケルクスド國でガイエルと別れた後、すぐに王城へ戻れるようなものであるが、あえてザッドは南方を東に回りマルシャース・グールに帰還したのである。
 ザッド帰還した際、ソルトルムンク聖王国聖王ジュルリフォンも王城マルシャース・グールに戻っており、ゴンク帝國の帝都であり王城であるヘルテン・シュロスには地利将軍のマクスールが五千人の聖王国兵と共に駐留していた。
 ザッドが帰還してからの龍王暦一〇五三年の後半半年間は、いろいろな事が決定された。
 第一が、元ゴンク帝國の帝王の王弟であるバルディアーサーとその一派の処刑とゴンク帝國の復活である。
 処刑者の数は数千を数え、移送先のマルシャース・グールにて執行された。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(神名・人名等)
 ガイエル(ラムシェル王の家臣)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 バルディアーサー(ゴンク帝國の王弟であり将軍)
 マクスール(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ユンルグッホ王(ジュリス王国の王)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)
 ヘルテン・シュロス(ゴンク帝國の帝都であり王城。別名『堅き城』)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
 ヤ・ムゥ(ジュリス王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)
 天眼・千里眼スキル(十六の付帯能力の一つ。超長距離にある物体、超極小の物体、超高速の動きをする物体、他の物体に遮断されて直接見ることのできない物体等を見ることができる能力)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 天時将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。筆頭の称号である)


〔参考二 大陸全図〕
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