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2014年08月23日00:59

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〔小説〕八大龍王伝説 【328 次戦の相手】


 八大龍王伝説


【328 次戦の相手】


〔本編〕
「ご安心なさい。シャカラ殿。次はもっと楽しめると思いますよ」マナシの声が闘技場に響いた。
 その言の葉が終わる前に、白銀の神龍(ロン)であるブュロスの頭部だけが、闘技場の中央部の空間にポンと現れた。
 ブュロスはマナシの守護龍である。次の相手がブュロスとは、シャカラも考えてはいなかった。
 そしてその考えは当たっていた。
 ブュロスは大きな顎(あぎと)を開き、そこから紅い炎を吐き出した。
 ――いや、炎に似た澱んだ息(ブレス)であった。
 むろん、シャカラに向かって吐きかけたもの(息)でもなかったようで、その霧にも似た紅い澱みは、空中を漂っていた。しかしシャカラにとって、その澱みは、気持ちを緊張させるのに十分な何かを含んでいた。
 まるで、その場を支配するような大きな気(オーラ)のようなものを発していたのである。
「わらわは死を司る龍王である」
 マナシの声だけが、また闘技場に響いた。
 その声が聞こえてきたのとほぼ同時に、神龍のブュロスの頭部が闘技場からかき消すように消えたのである。
「既に死したものを、現世に呼び寄せることがわらわには出来る。さすがに実体の肉体を蘇らせることは、わらわにも不可能だ。しかし、神や人に限らず、死してなお魂は存在する。
 むろん、死すれば当然、肉体は消滅し、魂も次の行くべきところがむろん存在しているので、わらわとしても勝手にどんな魂であろうと、現世――今回の場合は天界だが――に連れ戻すことは不可能だ。
 その魂本人の、現世に未練を残しそれを果たしたいという強い妄執ともいえる想い。
 神龍(ブュロス)の生前の姿と同じ形を作る霊体の霧のような澱み――ブュロスの息(ブレス)になるが……。
 それとわらわ(マナシ)の魂を現世に連れ戻す魔の法。
 この三つがそろえば、霊体の形ではあるが、その死者をここに呼び寄せることができるのだ。それが神であっても……」
 ここまで言われずともシャカラにはその呼び寄せられたものが何かを察するのに充分すぎた。
 紅い澱み。闘神の域――それもかなりレベルの高い気を有している霊。そして現世への強い執着――それもシャカラに対するその執念。
 これだけそろえば、その者が何かは読者諸君も容易く気付くであろう。
 その紅い澱みは見る間に、長身の紅い鎧で身をまとった人物と真っ赤な身体をした馬を形作ったのであった。
 むろんそれはシャカラ敗れて消滅した難陀(ナンダ)龍王と炎馬であった。
 当然、その右腕には三メートルの長さを誇る紅い槍が握られていた。
「久しいな。シャカラ!」紅い鎧を全身に身に纏っているナンダがシャカラに話しかけた。
「……」シャカラはそれに対して無言であった。
「どうした。懐かしさのあまり声も出ないか?」ナンダは悪戯者のように片目を瞑り、ニヤリと笑った。
「……」やはりシャカラは黙したままであった。
「しかし、まさか聖王国の将軍がシャカラであったとは……。最初から分かっていれば相対し方も違っていたのだが……」
「僕の正体を最初から分かっていれば勝てたような口ぶりだな。ナンダ!」やっとシャカラがナンダに対して口を開いた。その声はいつものシャカラの声色より若干低く響いた。
「当然だ!!」ナンダの声が大きくなった。
「俺はお前が人間だと思ったから手を抜いたのだ! お前が八大龍王の一人であれば、本当の俺様の力を見せたものの……」ナンダは悔しそうに顔を歪めたが、すぐに意地悪い笑顔に戻り続けた。
「しかし、マナシが俺に機会(チャンス)を与えてくれた。さあ。シャカラ! 存分に果たしあおうぞ!!」ナンダの声は心底喜びに溢(あふ)れかえっていた。
「しかし……」シャカラも負けてはいなかった。
「あの時のお前の突きが本気の突きではないとは、とても考えにくいが……」
「当たり前だ。俺が本気でない突きなど放つと思うか? シャカラ! この俺様を安く見るな!!」 ナンダが本気で怒った時の声色であった。
 マナシの作った闘技場が、ナンダの怒りの空気に震えた。
「ナンダ! お前の言(げん)は矛盾しているぞ」シャカラはナンダの怒りにも冷静に対応した。
 どうやらナンダを怒らすことがシャカラの目的であったような口ぶりである。
「あの戦いの突きは、当然俺様の本気の突きだ! だが、俺様の槍術は突きだけではない! 斬撃、打撃をはじめとして、叩く。薙ぎ払う。掠める。叩切る。絡める。引っかける等々……百を数える技がある。当然、あの時の戦いではそれら九十九の技を全て封印して突きのみで戦った。
 しかし今回はそうはいかない。お前がシャカラである以上、極技を持ってお前に応じよう。極芸の龍王――シャカラに対する……これは俺様の最大の礼儀と思え!」ナンダの声は大きかったが、全く怒りで我を忘れているようではなかった。
“これは拙い”シャカラにとってはマナシと直接闘うより相性が悪い相手であった。
“僕の全能力を駆使して、勝てるかどうか……。下手すると僕はここで命を奪われるかも……”
 多分、このナンダの霊は実体に対して何の支障もなく干渉できるのであろう。マナシの魔力を持ってすればそれは容易く実現できるはずである。
 それに対して、シャカラはもともと八大龍王で唯一、霊に対して普通に干渉できるので、何ら問題なく、このナンダの霊と普通に闘うことができる――つまり、何ら制約のない龍王同士の戦いが展開されるはずである。
「摩那斯(マナシ)龍王!」
「どうしました。沙伽羅(シャカラ)龍王」シャカラの呼びかけに、マナシの声が応じた。
「まさかこの状態で僕をナンダと闘わせるつもりなのか?!」
「不服なのですか?!貴方(シャカラ)は?……」
「当然です。これほどの不利な状態で、僕を倒しても難陀(ナンダ)龍王は満足しないと思います。むろん僕もこの状態では勝ち目が全くない!」
「正直な方ですね。貴方は……。それが貴方の良さでもあるのでしょう。やせ我慢は命取りですからね。それでわらわに何を望んでいるのですか?」
「もちろん。僕の相棒をこの場に召喚していただきたい。僕の相棒――ヴァイスドラゴネットを……」
 白き小型龍――別名、ヴァイスドラゴネットとも呼ばれる白い龍。それはカリウスというシャカラの良き相棒であり、シャカラが全力を発揮する際に乗用する小型龍(ドラゴネット)であった。
「それは俺からも要望する。マナシ……。このシャカラは存外、卑怯な奴でな。何だかんだ言い訳して、自分の敗因を正当化しようとする。白いのを呼び寄せて、言い訳ができない条件にして、完膚なきまでにこいつ(シャカラ)を叩きのめしたい!」ナンダという神はどこまでも真っ直ぐな性格の神であった。
「よろしいでしょう。両龍王(ナンダとシャカラ)が要望するのであれば、早速にヴァイスドラゴネットをこの場(闘技場)に呼び寄せましょう。一分も待って頂ければ充分です」
 シャカラとしては、勝率を上げるこれが全てであった。
 それでも気持ちは晴れない。
“これで、勝率一割といったところか……”



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。阿那婆達多と対決)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。摩那斯と対決)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。徳叉迦と対決)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。和修吉と対決)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。跋難陀と対決)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。沙伽羅と対決)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。摩那斯に監禁される)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 ブュロス(摩那斯龍王に仕えている銀の神龍)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)
 ロン(十六竜の一種。神に近い竜の一種。『神竜』とも言う)

(武器名)
 紅い槍(ナンダの得物)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)

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