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2014年06月29日03:00

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〔小説〕八大龍王伝説 【319 咒と印】


 八大龍王伝説


【319 咒と印】


〔本編〕
 一瞬のことであった。
 しかし、シャカラの長斧の一撃は空(くう)を泳いだ。
 マナシの実体が消え失せたのである。
「瞬間移動か!」シャカラの呟き。
「そうじゃ」背後から声が聞こえ、先程と一切同じいでたち――銀のローブと、左手に杖と右手に魔道書を持ったマナシが立っていた。
 しかし、シャカラが振り返る間もなく、シャカラは銀色の闘技場と思しき巨大なドームの真ん中に立っていたのである。
「ぐっ。結界か! こんなに一瞬で『陣地作成スキル』が行使されるとは……」
 さすがの神であるシャカラにも驚きであった。
 例えば、シャカラが自慢の霧の結界を作成するにも、一分近くの呪文ともいえる言の葉の詠唱と、三十近い、両手での特殊な印を組まなければ、作ることができない。
 それに対し、第七龍王のマナシは、口での一詠唱以下の一語の呟きと、印に関していえば、全く組むことなく数秒という短時間で瞬間移動や結界敷設といった大魔術を行使したのである。
 これは十六の付帯能力のうちの『高速神言・高速神行スキル』の最たるものであろう。
 さて、魔術全般――黒魔術も白魔術の一切がそうだが、それを行使するには、その魔力に対する知識、魔力量、そしてその魔術を行使するに値する能力を持っているかによって、行使できるかの有無が決まってくるが、それ以外に、その魔術を行使するためには、言の葉による呪文の詠唱(咒)と、精神統一のために体を使った儀式――とりわけ両手を使って組む数々の『印』が必要である。
 当然、難解な魔術や大掛かりな魔術ほど、咒は数十詠唱から場合によっては数百詠唱必要となり、印も数十種類のものを連続で繰り返し、行わなければいけない。知識やその間の精神統一は言うに及ばないが、むろん数分の時間を要する。長いものでは五分以上を有する場合もある。
しかしである。レベルの上がった優秀な術者になると、その咒と印の一部を省略、あるいはより簡単で短いものに置き換えることができる。例えば、五分かかる咒や印を、一分に短縮することも可能なのである。
 これは、魔術的にも可能であるが、付帯能力(アドバンテージスキル)としても存在する。それが『高速神言・高速神行スキル』である。
 短縮化或いは省略化によって高速化された、神言(咒)と神行(印)である。高速化された咒と印によって、行使される魔術の力は計り知れない。
 本来であれば、一分以上の神言と神行を要する瞬間移動の術――当然、その術を行使できること自体、かなりのレベルの高さの術者であると言えるが――一秒足らずで行使できるとしたらどうであろうか?
 一分の時間が必要な瞬間移動の術では、一瞬の近接攻撃の回避にはなり得ないが、一秒足らずであれば、全くそれが可能になる。
 シャカラの初動も感知させないような素早い攻撃に、瞬間移動で回避したマナシが正にそれである。
 同じく結界の作成もそうである。こちらはさらに咒と印が複雑になり、一般術者では五分以上、シャカラが霧の結界を発動させるまでにも一分近くの時間が必要である。
 そもそも瞬間移動もそうだが、結界作成も咒や印が長すぎて、瞬時の事態に対処したり、威力を発揮したりする類の魔術ではない。
 瞬間移動は誰もいない場所で行い、結界作成も戦闘前の守りの拠点として構築するものである。それをマナシは、シャカラの目の前で展開した。
 瞬間移動でシャカラの攻撃を回避し、次の瞬間、シャカラを中心にマナシの結界を瞬時に作り上げたのである。
 それも、一詠唱どころか一語唱えたかどうかの高速神言の咒と、手の指の第一関節部分を少々曲げた程度の高速神行の印によってである。神の中でも魔術の頂点に君臨すると称されているマナシの恐るべき能力であろう。
 さらに、マナシの魔力によりシャカラの騎乗していたワイヴァーンは、消え去っていた。これによりシャカラは、空中を長期間持続して滑空できるモノから引き離されたことになる。
「安心してよい」シャカラの立っているマナシの作った結界である闘技場全体に響き渡るように、マナシの声がする。
「その結界内で、シャカラ――貴殿の力が殺がれる心配は全くない。闘技場の破壊或いは脱出を試みない限り、全く貴殿の能力に支障はない。その点は既に分かっていると思えるが……」
「そのようだな」シャカラもマナシの言の葉に自身の身体を省みてそのように確信していた。
「それで、僕をこれからどうするというのだ。ここに閉じ込めて時間を稼ぐという算段か。それであれば僕も容赦はしない。今すぐにでもこの結界を打ち破り、貴女を屈服させ、ウバツラを解放させる」
「ハッハッハッ」シャカラのこの言の葉にマナシの声が響き渡った。
「わらわはそのような無粋なことはしない。……これから、わらわと遊戯(ゲーム)をしないか?」
「ゲーム?」
「むろん、闘神である我々のゲームだから。闘い以外にはない。そのための闘技場(結界)だ!」
「……」
「さすがのシャカラも理解できないようだな」
「……」
「三本勝負を行う。先に二本先取したほうの勝ちだ」
「……」
「勝った方が、相手の要望を全面的に受け入れる。どうだ……シャカラ!」
「三本勝負。そして二本先取……」無言で聞いていたシャカラがようやくそう呟いた。
「貴女はどうするのだ? そのゲームに参加するのか?」
「無論だ。三本勝負の三番手として登場させてもらう」
「僕はその三本勝負のゲーム全てに参加していいのか?」
「それも構わない。全てに参加が大変なら、なんら代理を呼び寄せてでも構わない」
「それは無用な心配だ。闘神であれば、そのぐらいの苦難は、なんら問題ではない。それはそうと一つ確認しておきたい」
「二本先取の件か?」
「そうだ。僕が三本勝負の二本を先取すれば、マナシ――貴女と闘うことなく、僕の勝利になるが、当然構わないと判断していいのだな」
「当然だ。それがわらわの敷いたルールだからな」相変わらずマナシの姿は闘技場にはなく、声だけが響いていた。
「よし。そのゲーム。第三龍王シャカラが受けよう」シャカラの声が闘技場に響き渡った。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)

(国名)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)
 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界内において、その能力を最大限に発揮する)
 高速神言・高速神行スキル(十六の付帯能力の一つ。魔法の呪文を唱える際、通常かかる時間を半分以下の短時間で省略して唱えることができる能力。同じく魔法の術式を行う際、短縮して行うことができる能力。スキルが高いほど、短い詠唱で長い呪文を唱えることや、簡素な術式で高度な魔法を唱えることが可能)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(武器名)

(その他)

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