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2014年06月21日08:06

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〔小説〕八大龍王伝説 【318 摩那斯龍王現る】


 八大龍王伝説


【318 摩那斯龍王現る】


〔本編〕
 話は遡る。
 龍王暦一〇五二年十月日午前五時(約十月六日)。天界をシャカラは、ワイヴァーンに騎乗し一人滑空していた。
 バツナンダとの天山への二正面攻撃の裏にあたる正面側にもう一歩まで近づいた距離である。
 バツナンダと別れて二月日(天界時間で二日間)が経過していた。
 アナバタツタの霧の陣の影響や、マナシによる干渉の結界などで、シャカラとバツナンダは『天耳・天声』といった連絡手段は一切使えない。お互いの約束した刻限に、それぞれの直感をたどり、二正面作戦を展開するしかなかった。
 しかし、そこはシャカラもバツナンダも人の域を凌駕した神である。多少のタイムラグを考慮しつつも、どちらかの攻撃――この場合、シャカラの方がアナバタツタに先に仕掛ける形になると思うが、そのシャカラの攻撃が始まれば、おのずとバツナンダの方にもその戦いの雰囲気が伝わるはずである。
 アナバタツタへの二正面作戦は刻一刻と、その実現に向けて近づいていったのである。
 思いもかけぬ障害に阻まれなければ……。

 同月日午前七時(約十月九日)、それは突然、シャカラの目の前に現れた。
 銀色の眩い光が輝いたかと思うと、その中心から一人のローブ姿の人物が現れたのであった。
 その人物は、銀色のローブで全身を纏っており、フードから顔の部分と、両手首から先の部分のみを覗かせていた。
 フードからのぞかせている銀色の肌を持つその顔は人でいう三十代後半から四十代前半の美しい大人の女性の顔であった。そして、右手に銀色の大判の書物を、左手に巨大な銀色の宝石を頭につけている銀色の杖を握っていた。
「摩那斯(マナシ)龍王!!」シャカラの驚きの声である。
 その声にマナシと呼ばれた銀色の女神は、口元に少し笑みを浮かべながら、それでも言葉はなにも発しなかった。
「何故、この場に貴女が現れた?」シャカラが続けて、マナシに語る。
 そのマナシの後ろに巨大ななにかが姿を現した。全長十メートルにも及ぶ銀色の龍であった。
「シャカラよ! 久しいな」その銀色の龍は、シャカラに話しかけた。
「ブュロスか。マナシを守護する白銀の神龍(ロン)ブュロスか」
「シャカラ! お前は我がマスター――マナシ様を多少なりとも見損なっておられるぞ。マナシ様の魔法を始めとする膨大な能力値を持ってすれば、ウバツラを監禁し続けて、なお、この場(戦場)に姿を現すことなど、なんら造作もないこと。シャカラよ! 策に溺れたようだな」
「そうでもないがな」シャカラは続けた。
「とにかく、この場にマナシ――貴女を引っ張り出し、真相を語ってもらうのが目的であった。形はどうであれ、今、僕は貴女を目の前にすることができた」
「シャカラ。貴殿はわらわから真相が聞きたいと……」マナシの一人称はどうやら『わらわ』であった。
「御意。下級龍王の分際でお許しいただきたい。しかし、どうしてもウバツラ監禁の真相は、貴女の口から聞きたいのです」
「わらわの口から聞いてどうする? わらわは今のウバツラが親である先代のウバツラを騙まし討ちにし、あまつさえ、わらわを始めとする残りの龍王すら、殺そうとしていた故、先手をとって監禁をしたのだ。それに対して貴殿(シャカラ)は異を唱えるのか?」
「それを証明できる者は……つまり証人ですが、おりますか?」
「先代ウバツラは殺された故、証人にはならない。トクシャカとアナバタツタが現場にいたが、シャカラよ……貴殿からすれば、この二人はわらわの陣営故、証人にはならないと言うのであろう。シャカラお前が、わらわの言葉を信じてもらうしかない。どうだ、シャカラよ」このマナシの言の葉に、シャカラはしばし眼を閉じて考えた。
「それでは、ウバツラに会わせていただきますか?」
「それは無理だ。何とか三人がかり(マナシ、トクシャカ、アナバタツタ)でウバツラを監禁したのだ。その呪縛を緩めると、シャカラ――ウバツラはお前を殺して逃亡するであろう。トクシャカとアナバタツタは、その危機を回避するために、二人してウバツラを除こうと画策をしている。それを今、わらわが抑えている状態なのだ。シャカラ……わらわの言葉が信じられぬのか?」
「……マナシ様。残念ながら、僕はマナシ、ウバツラの両者の言い分を聞いた上で判断したいのです。お許しください」
「うむ。シャカラならそう言うと思っていた。良きにつけ悪しきにつけ、何者にも偏らない平等な発想だ。――しかし、次期ウバツラの本性を知ったわらわからすれば、ウバツラ解放は、断じて考えられない。今、ここでウバツラを解放すれば、それこそ取り巻きの悪鬼らを集め、地上界のみならず天界すら自らの支配とするであろう。そのウバツラの支配地域では、我ら八大龍王が生きていける場所はない。ここまで言っても貴殿は、ウバツラを解放させろと……」
「それは……恐れながら申し上げますが、マナシ様。貴女側からの理屈です。これも失礼にあたりますが、マナシ様が、トクシャカとアナバタツタを使って、地上界及び天界を手中に入れようとしているという考え方も成り立ちます。マナシとウバツラ――両者の意見が聞けない以上、この議論はどこまでも堂々巡りです」マナシの形の良い口元が少し緩んだ。
「その通りじゃ。シャカラ。おまえの言ったことは正しい。それであれば、シャカラ。おまえはわらわを突破しない限り、ウバツラの元には辿り着けなくなるが……」
「やはり、そういうことになりますか。マナシ様!」
 シャカラはそう言うや否や、ワイヴァーンを駆り、長斧を振りかむってマナシに切りかかった。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ブュロス(摩那斯龍王に仕えている銀の神龍)

(国名)

(地名)
 天山(天界唯一の山)

(兵種名)

(付帯能力名)
 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)

(竜名)
 ロン(十六竜の一種。神に近い竜の一種。『神竜』とも言う)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(武器名)

(その他)
 下級龍王(八大龍王のうち、第一から第四までの龍王。具体的には難陀、跋難陀、沙伽羅、和修吉の四龍王。上級龍王に対する蔑称でもある)

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