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2014年04月05日09:21

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〔小説〕八大龍王伝説 【306 傷】


 八大龍王伝説


【306 傷】


〔本編〕
「トクシャカよ! 一つ尋ねたいことがある!!」ワシュウキツは戦いながらも、ありったけの声でワシュウキツに話しかけた。
 その声は、地下の空洞を大きく震わせ、声を反響させた。
「……」トクシャカはそれに対し全く応答しなかった。
 ワシュウキツは構わず続けた。
「シャカラを気絶させた時に、対の呪いで受けた傷はどうなったのだ?」
「……」トクシャカは相変わらず返答をしない。
「別に答えたくなければ構わない! しかしかなりの深手と、わしは考えているのだが……」ワシュウキツは、恐らく回答はないだろうと思っての問いかけではあった。
「……やっと、気付いたか。ワシュウキツよ!」思いもよらないトクシャカの答えであった。
 答えたこと自体が思いもよらなかったが……。それを肯定するとは、さらに想定外であった。
「何を訝(いぶか)る。負傷を認めたことがそんなに意外か?」
「意外だ!!」ワシュウキツの即答であった。
「『最強の龍王』の異名を持つお主が、そんなに簡単に弱点をひけらかすなど思いもよらぬこと。最後までしらを切ると思っていたので……非常に意外だ!」
 トクシャカはワシュウキツのこの言の葉に、大きく後ろに跳躍して距離をとった。ワシュウキツもそれに対し、トクシャカに詰めることをせず、トクシャカの作った距離をそのまま許した。
 その距離は十メートル程度の距離であった。ここに至り激しい剣戟の応酬は一先ず治まった。
「確かに本来であれば、最後まで弱点は晒さないもの……」トクシャカが口を開いた。
「しかし、それは小者に対する戦法だ! お前のように自分(トクシャカ)に実力が肉薄している者に関しては、それは逆効果だ! むしろさらけ出したほうが戦術的には有効だ! それも自身(ワシュウキツ)の力で、自分(トクシャカ)の弱点に気付いた者にはな……」
「……」ワシュウキツはあえて何も語らなかった。ここはトクシャカの言を待つのが得策と考えた。
「お前の言ったとおりだ!」トクシャカは言の葉を続けた。
「自分はシャカラを気絶させる際に、あいつの腹に一撃を喰らわせた。ウバツラとマナシの件をお前とシャカラに伝えた者を切り捨てたときの一撃の余波でな……。それによりシャカラを気絶させ封じ込めることには成功したが、先程お前が言った龍王の対の呪いにより、自分の腹部にも大きな傷が現れた。治癒不可能な傷が……」
「その傷は深いのか?」
「気になるか?」ワシュウキツの思わずの問いかけに、トクシャカは、一旦ははぐらかすような答えをした。
「ああ〜気になる。仮にかすり傷程度であれば、わし(ワシュウキツ)がそれ(トクシャカの負傷)を戦術に組み込んだ場合、致命的なミスとなる!」
「かすり傷と考えているのか?」
「いや……」ワシュウキツはここでニヤリと笑い続けた。
「致命傷とまではいかないまでも、かなりの深手とわしは考えている。そうでなければ……わしがおぬしの不調に気付くことはありえないからな。そうだろう……トクシャカよ!」
「ほぼ……正解だ! 一部を除けば……。自分の腹の傷は人の域でいえば致命傷に当たる傷だ! さすがに神である自分なら、治癒はできないまでも、死に至るまではいかない。しかし、この傷で確実に命は削られている。戦うという行為はなおさらそれが加速される!」
「そこまで語るのかトクシャカ!」さすがにワシュウキツは驚きを隠せなかった。
「そうだ、それが自分(トクシャカ)の戦略だ! 今まではお前は自分に比べて格下だと考えていた。そのため百二十パーセントの能力でお前(ワシュウキツ)は自分(トクシャカ)と相対してきた。お前(ワシュウキツ)が格下という認識が良い意味で、お前(ワシュウキツ)にプレッシャーを与え、互角の闘いがここまで展開できた。
 しかし、自分(トクシャカ)の腹部の負傷を知った以上、お前に完全勝利の可能性の芽が大いに出てきた。その考えは意識下では抑えられるかもしれないが、無意識下では抑えることは、自分達という神を持ってしても不可能だ。つまりここからワシュウキツ――お前は『勝利』という悪い意味でのプレッシャーを背負い込むことになる。これが自分(トクシャカ)の戦略だ!!」
「……」ワシュウキツは無言であった。
 このワシュウキツの無言はトクシャカの言葉に対する肯定の意であった。
「ところでトクシャカよ。せっかくなので一つ聞きたいことがある!」
「何だ。時間稼ぎのつもりか」
「それも当然あるが……わしにウバツラの危機を伝え、お前に胴切りにされた紅い者のことだ。『紅き者』とあえて表現するが、――シャカラはその者が神の気を有していたので難陀(ナンダ)龍王と考えているようだが――お前は何者だと考えている?」
「……難陀(ナンダ)とは考えられないな。ウバツラを軟禁後、ナンダはマナシの命に従っている。それに自分に胴切りにされた者が無事で済むわけがない。シャカラやお前がどう考えるかは勝手だが、それではナンダが二人いなければ説明がつかない」トクシャカの言は尤(もっと)もであった。
「ではトクシャカ! お前は……」ワシュウキツが続ける。
「あの紅き者は何者だと考える!!」
「……」さすがのトクシャカもしばし言葉がでなかった。
「……あの紅き者は、お前(トクシャカ)も分かったと思うが、神の気を有していた。……はっきり言おう。わしらと同じ『闘神』の気であった。ウバツラは、わしらと同位の『闘神』を僕(しもべ)として有しているというのか! そんなことが有り得ると考えられるか? トクシャカよ! シャカラはその紅き者をナンダと言ったが、ナンダでなければ誰なのだ! 『闘神』など、そう数がいるものではない。わしらの知らない闘神とはそもそも存在する者なのか?」
「……」このワシュウキツの問いかけにトクシャカは無言であった。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)

(国名)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 龍王の対の呪い(上位の神によって、八大龍王につけられた対の呪い。トクシャカの対はシャカラで、相手に傷つければ、自分にも治癒不可能の傷ができ、相手を殺せば、自分も滅ぶという呪い)


〔参考二 大陸全図〕
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