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2014年03月09日22:57

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〔小説〕八大龍王伝説 【302 マクダクルスの報告(後)】


 八大龍王伝説


【302 マクダクルスの報告(後)】


〔本編〕
 マクダクルスの報告は続く。
「二つ目が、滅亡したカルガス國の件でございます。カルガス國の王であったウィップレスト王とその息子たちである王子は全て、この度の戦いにおいて討ち取られるか、捕まって処刑されたりして全員が殺されています。しかし、ウィップレスト王には一人姫君がおります。
 その方は、どうやらカルガス國の首都であるナゾレク・エクサーズより逃れ、行方不明となっております。姫君、お一人の行方不明であれば、それほどの問題はありませんが、さらに五賢臣の一人――唯一の五賢臣の生き残りであるソジラールセン、そしてカルガス國の神将と呼ばれた故ヲーサイトルの副将にあたる十将のうち生き残っているガガヲー、クムルヲー、ウヲーの三将がやはりまだ捕まっていません。
 カルガス國の残党狩りは、南の弱小国であるフルーメス王国の王――ヅタトロ王が自ら志願して行っていますが、先程申し上げた代表格の人物は、まだその網にかかっていないというわけです」
「あの王が残党狩りの陣頭指揮をしているのであれば、時間の問題のような気がするがな」
「帝王! どうやらその件についてあまりよろしくない噂もマルシャース・グールでは囁かれていました」
「どのような噂だ!」ネグロハルト帝王は首をかしげながら尋ねた。
「フルーメス王国のヅタトロ王は、わざと元カルガス國の主要人物を見逃しているという噂です」
「そのような噂があるのか?」
「はい! 大方、噂の出所(でどころ)は、ソルトルムンク聖王国の宰相ザッドあたりだとは思われますが、一概に根も葉もない噂とは言い難いようです」
「マクダクルス! お前もそう考えるのか?」ネグロハルト帝王が訝(いぶか)しげな眼差しで、宰相マクダクルスに問いかけていた。
「御意! ヅタトロ王のカルガス兵残党狩りは、非常に苛烈を極めていますが、聖王国の首都に送られてくる大隊長――二百五十人規模の兵を指揮する司令官ですが、それらの首級が、残党狩りの苛烈さで、ほとんど顔が確認できないほど損傷しているのです。つまり、誰を討ち取ったかは全てヅタトロ王からの報告のみでしか確認できません。
 さらに先程申し上げたウィップレスト王の姫君とソジラールセン、ガガヲー、クムルヲー、ウヲーといった主要な首級は全くあがってきません。ヅタトロ王がカルガス國の主要人物をあえて見逃しているという噂もあながち虚報といえないこともない所以です」
「何故、ヅタトロ王はそんなことをしているのだ? そのような事がフルーメス王国の益になるのか?」
「はっ! 帝王。おそらくヅタトロ王は、今後の聖王国の出方に危惧を抱いているのかと、私(わたくし)は思います」
「危惧?!」
「聖王国がフルーメス王国を併呑するという危惧です」
「まさか? 今回の七ヵ國会談で全ての戦いが終わったのではないのか?」
「それであればいいのですが……」マクダクルスは奥歯にモノの挟まった言い方をした。
「……」それに対しネグロハルト帝王も言の葉が返せなかった。
 そこに出席していた大臣たちも皆一様に不安な顔をお互いに囁き始めた。武官で唯一出席している白虎騎士団の軍団長ライアスは、マクダクルスの言葉に思うところがあったように頷いていた。
「龍王暦一〇五〇年から勃発した戦いの末、ソルトルムンク聖王国側の勝利で終わりましたが、実質的に勝利したのはソルトルムンク聖王国唯一です」マクダクルスが滔々(とうとう)と話を始めた。
「皆様ご存知のように、敵国であった我が國――バルナート帝國とその同盟国であったミケルクスド國は、一部地域を割譲させられました。その割譲地域も、我が國は北バクラ地方とソーム地方という経略的にも戦略的にも重要な地域。
 そしてミケルクスド國にしても、聖王国から領土して奪ったセルマー地方の返還及びナグモス地方の割譲という賠償を背負わされました。ミケルクスド國は元々六地方から成り立っているので、そのうちの一地方はかなりの損傷ということになります。特にナグモス地方は、ミケルクスド國の首都であるイーゲル・ファンタムからも五十キロメートルしか離れていない距離。
 さらにナグモス地方は『ミケルクスド飛龍三産地』の一つ。つまりミケルクスド國の飛竜の生産量の三分の一をソルトルムンク聖王国に奪われたことになります。そういう意味では我がバルナート帝國は十三地方のうちの二地方の割譲ですからまだましと言わざるを得ません。とにかく、聖王国の同盟国であったジュリス王国、クルックス共和国、ゴンク帝國も一度は我が陣営によって滅ぼされました。
 したがって、ジュリス王国等、三國の聖王国の同盟国は自国の領土の復活以上のものは望めないと思います。つまり、ソルトルムンク聖王国のみが、主要ともいえる三地方――バルナート帝國の北バクラ地方とソーム地方及びミケルクスド國のナグモス地方の三地方のことですが、それを加えさらに国力をつけたということになります。もともと、ヴェルト大陸の半分の人口を有する超大国であるソルトルムンク聖王国。その國がさらに力をつけたということは、聖王国の思いのままにヴェルト大陸を切り取れるということです。
 元々、遡ること龍王暦元年に八大龍王によってヴェルト大陸が八等分されたとき、ジュリス王国とフルーメス王国を除き、残り六國は国力的にそんなに大差はありませんでした。むしろ東西南北全てに国境があるソルトルムンク聖王国は、他国に比べて不利な状況であったと思います。そんな聖王国は龍王暦二百年の奇跡的な人材の集中といわれている『六大将軍』の登場によって、現在の国土に広げたのです。
 勢いでいけば、ヴェルト大陸統一も可能だったかもしれませんが、八大龍王の干渉が入り、『龍王の建国した國は、いかなることがあろうとも滅ぼしてはいけない』という協定がなかば強引に決まり、聖王国の大陸統一はなりませんでした。当然、この歴史を熟知している聖王国の民にとっては、今回の八大龍王の内輪もめともいえる状況は絶好の大陸統一の機会かもしれません」
「八大龍王は内輪もめを起こしているのか?」
「摩那斯(マナシ)龍王は、故ロードハルト帝王にははっきりとは申しませんでしたが、私はそうだとにらんでいます」
「では、どうすればよいのだ! 宰相!!」
「とにかく、聖王国に我が帝國を攻める口実を与えないこと。そして、他国――特に隣国のジュリス王国とラムシェル王のミケルクスド國と連携を図ることが大切でありましょう」
「そうか! マクダクルス……ご苦労であった。少し休憩を入れよう」ネグロハルト帝王はそう言うと、窓から見える空を眺めた。
 どんよりとした灰色の雲が覆うその空は、先行きの困難さを予感させる空であった。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ウィップレスト王(カルガス國の元王。故人)
 ウヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 ガガヲー(ヲーサイトル十将の一人)
 クルムヲー(ヲーサイトル十将の一人。十将で最年少)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 ソジラールセン(カルガス國五賢臣の一人。戦略担当)
 ヅダトロ王(フルーメス王国の王。四賢帝の一人)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)
 ラムシェル王(ミケルクスド國の王。四賢帝の一人)
 ロードハルト前帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人。故人)
 ヲーサイトル(カルガス國の老将。『生きる武神』の異名をもつ。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)
 北バクラ地方(バルナート帝國の一地方)
 セルマー地方(ソルトルムンク聖王国とミケルクスド國の国境付近の地域。今はミケルクスド國領)
 ソーム地方(バルナート帝國の一地方)
 ナグモス地方(ミケルクスド國の一地方)
 ナゾレク・エクサーズ(カルガス國の首都であり王城)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(武器名)

(その他)
 七カ國会談(龍王暦一〇五二年三月に、ソルトルムンク聖王国の声かけで実施された会談。結局、カルガス國の欠席で八カ國会談ではなく、七カ國会談となる)
 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ)
 六大将軍(龍王暦二百年頃のソルトルムンク聖王国の将軍制度。奇跡の人材集結時とも言われる時代の制度)


〔参考二 大陸全図〕
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