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2014年03月02日08:25

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〔小説〕 八大龍王伝説 【301 マクダクルスの報告(中)】


 八大龍王伝説


【301 マクダクルスの報告(中)】


〔本編〕
「先ずは白虎騎士団と攻めの双璧といえる朱雀騎士団ですが、これは順当に副官のバーフェムを軍団長に据(す)えるのが、よろしいでしょう。難陀龍王が軍団長の時からそうですが、実質バーフェムが朱雀騎士団の運営をしていました。紅い兵――ロートゾルダートも大半は残っておりますので、期せずして元の騎士団の力を取り戻すでしょう。
 ……さすがにバーフェムに難陀(ナンダ)龍王個人と同じ力は臨むべくもありませんが、『個』ではなく『集』としての力であれば、遜色はないと思います。続いて、玄武兵団ですが、この兵団には副官であったガマラがよろしいと思います」
「馬鹿な! 宰相殿! ガマラは二度、敵(聖王国)に降った卑劣漢(ひれつかん)ですぞ! 一度目がマルドス城の折、もう一度がマルシャース・グールを奪還された折ですぞ! お忘れか!!」大臣の一人がマクダクルスに喰ってかかった。
「それは分かっております。大臣殿!」
「それでは……何故? 人材不足のせいですか……?」
「それもあります。先程玄武兵団以外は軍としてそれほど損害を蒙っていないといいましたが、玄武兵団は人数だけでなく、人材も失ったのです。四神兵団の中で一番、聖王国のグラフ将軍の軍勢や沙伽羅(シャカラ)龍王と戦ったためです。
 その中で唯一といっていい生き残った人材のガマラの幸運で玄武兵団を再生してもらいたいのです。それにガマラの二度の降伏により、壊滅するはずだった玄武兵団を救ったのは事実ですし、実際に軍の統制などは指揮官として期待できるものはあります。今の玄武兵団を再生するのに他の兵団から優秀な人材を引き抜いてきても、玄武兵団内部の不協和音にしかならないと私は考えます」
「うむ! 宰相がそこまで考えてのガマラの推薦であれば、余も宰相の推薦に賛同しよう! どうだ……大臣!」
「帝王が賛成であれば、私が言うことはありません! ガマラもこの帝王の恩は忘れないでもらいたいものですな……」こうして異を唱えた大臣も帝王の言の葉に引き下がった。
「ありがとうございます。ネグロハルト帝王!」マクダクルスは頭を下げ、話を続けた。
「実は軍団長の件で一番の問題が、青龍兵団の軍団長の選定でございます」
「バツナンダの後釜か!」
「さようです! 跋難陀(バツナンダ)龍王は、副官といった、いわゆるナンバー二を置かない性格の龍王でございました。跋難陀龍王が亡くなった今、その軍団長を決めるのは非常に悩ましいことなのです」
「……宰相にも人選が思いつかないか?」
「いや……帝王! 考えはあるのですが、それがベストかと申しますと、正直、私にも分かりません」
「構わぬ! この場で披歴せよ!」
「ハハッ! それでは帝王のお許しをいただき、私めの愚考をお聞きください」マクダクルスは言葉を続けた。
「青龍兵団の軍団長でありますが、青龍兵団は兵団の性格上、水兵と飛兵が中心の編成の兵団です。この水兵と飛兵を一人の軍団長に任せるのは、少なくとも今のバルナート帝國の人材ではそれにかなう者はありません。ですので、あえて軍団長を置かずに二人の副官に青龍兵団を運営させようと考えます。
 先ず、飛兵と陸上の兵で編成した青龍兵団のうち五割に相当する兵団を――仮に青龍第一兵団と呼びますが、それの副官を竜飛兵(ワイヴァーンナイト)のサベールにしたいと考えています」
「サベールとはいかなる人物だ!」ネグロハルト帝王の質問にマクダクルスが答える。
「軍団長のバツナンダからも信任の厚かった優秀な人物です」
「そうか! それで残りはどうするのだ!」ネグロハルトがさらに質問をした。
「はっ! 帝王。残りの兵団のうち四割の水兵と一割の飛兵を――仮に青龍第二兵団と呼びますが、こちらの副官には船長(キャプテン)の兵種であるブーンを当てたいと思っております」
「ブーンですと! あの海賊あがりのブーンですか!!」大臣の一人が声を荒げた。
「そうです。元海賊のブーンです」マクダクルスはその大臣の荒げた声にも、慌てず冷静に言葉を続けた。
「ブーンは確かに北の海を荒らしまわった海賊の首領でした。そして荒々しい性格が大臣の皆様のご心配の種と思います。……しかしながら、彼の器量と独特の戦略眼は、我が帝國でもトップクラスのレベルです。
 結局、龍王暦一〇四三年から五年間、一度も我が帝國の海軍はブーン率いる海賊達に戦術レベルでは勝利することは出来ませんでした。ブーンを屈服させたのは、物量による二年間に及ぶ長期の大包囲網作戦によって、彼の物量が尽きたためです。彼の実力は折り紙つきでしょう」
「しかし宰相……」別の大臣が言葉を挟んだ。
「能力はあるかもしれませんが、ブーンの忠誠心ははなはだ疑問ですが……」
「ブーンは非常に狡猾な男です。我が帝王と帝國に力があると思っているうちは、絶対に我々を裏切ることはありません。今は非常時……軍の再編成にはこのくらいの劇薬は必要でしょう!」
「マクダクルスよ!」
「はっ! 帝王陛下!」
「お前の言……最もである。四神兵団の人事の件……全てお前の裁量で進めて構わない」
「はっ! ありがとうございます。必ずや帝王のご期待にお答えいたします」マクダクルスは深々と頭を下げた。
“このネグロハルト帝王は、亡くなられたロードハルト前帝王ほどの覇気はない。しかし、十六歳という若さで、物事の道理はよく弁えておられる。これならば、バルナート帝國の行く末も希望の光が少なからず感じられる”マクダクルス宰相としては、この青年帝王と、共に歩んでいける自信を感じたのは、この時からであろう。
「宰相! 他には何かあるか?」帝王が宰相に尋ねる。
「はっ! 聖王国のマルシャース・グール滞在時に知り得た情報が二、三ございます。それをここでご報告します」マクダクルスは続けて言葉を発した。
「一つが、聖王国のマクスール将軍の地利将軍への正式の就任です。皆様、ご存知のようにマクスール将軍は、昨年(龍王暦一〇五一年)の三月のミケルクスド國との戦いで大敗を喫し、三将軍の天時将軍から一般の将軍に降格になりました。
 その後、前地利将軍であるコリード将軍が戦死したため、カルガス國攻略戦のため仮の地利将軍に就任しましたが、その戦いで、カルガス國の重臣であるデンガクを屠り、さらにカルガス國の王――ウィップレスト王を生け捕りにした功績により、正式に地利将軍になったということです。
 デンガクといえば、カルガス國の重臣の一人として文官の身分ではありましたが、元々は近隣諸国に武芸が響き渡るほどの、武官でした。それを、臆病将軍、無能将軍という不名誉な異名まで持つマクスールが、討ち取るとは、身内である聖王国の兵士たちもびっくりしたようです」
「余も、そのデンガクを討ち取った報告は受けていたが、俄かに信じられなかった。マクスールという将軍は、能力を隠していたとでもいうのだろうか?」
「いえ……帝王! これには何か裏があると考えられます。マクスールの身辺を引き続き調査します……」



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ウィップレスト王(カルガス國の元王。故人)
 ガマラ(玄武兵団の新軍団長。ヴォウガー軍団長の元副官)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 コリード(ソルトルムンク聖王国の地利将軍。故人)
 サベール(青龍兵団の新副官)
 デンガク(カルガス國五賢臣の一人。故人)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 バーフェム(朱雀騎士団の新軍団長。ナンダ軍団長の元副官)
 ブーン(青龍兵団の新副官)
 マクスール(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ロードハルト前帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人。故人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)
 マルドス城(ツイン城を守る城。通称『山の城』)

(兵種名)
 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
 キャプテン(最終段階の水兵であり剣兵。いわゆる『船長』)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 紅い兵(朱雀騎士団ナンダの戦法、ゴッドフラメを実現するために選ばれた朱雀騎士団の中でも精鋭中の精鋭。『ロートゾルダート』とも言う)
 玄武兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ)
 三将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部。天時将軍、地利将軍、人和将軍の三人)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ)
 四神兵団(バルナート帝國軍の軍団の総称。白虎騎士団、朱雀騎士団、青龍兵 団、玄武兵団の四つに分かれる)
 地利将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第二位の称号である)
 天時将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。筆頭の称号である)
 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ)


〔参考二 大陸全図〕
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