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2014年02月21日20:47

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〔小説〕八大龍王伝説 【300 マクダクルスの報告(前)】


 八大龍王伝説


【300 マクダクルスの報告(前)】


〔本編〕
 シャカラとバツナンダが天界に向かい、ワシュウキツとトクシャカがクルックス共和国の地下で闘いを始めた日からおよそ二ヵ月後の龍王暦一〇五二年一〇月一日。北の強国であるバルナート帝國の帝都であるドメルス・ラグーンの地に一人の長身の男が帰ってきた。
 バルナート帝國宰相のマクダクルスである。マクダクルスは今年の六月にカルガス國の討伐に遠征して以来であるから、帝都へ帰還するのはじつに四ヶ月ぶりである。
 カルガス國を滅亡させ、八月一九日にソルトルムンク聖王国の首都であり王城であるマルシャース・グールでカルガス國の王――ウィップレスト王の処刑に立合ったバルナート帝國ネグロハルト帝王とマクダクルス宰相の一行は、マクダクルスと一部の文官を除いて、三日後の八月二二日にはバルナート帝國に帰国した。
 残ったマクダクルス達は、聖王国のジュルリフォン聖王や宰相のザッドと今後についていろいろ打ち合わせ後に帰国したのである。
「宰相! ご苦労であった。疲れているところ悪いが早速、今後の対応について会議を催したい」これは、ネグロハルト帝王からマクダクルスへかけられた言の葉である。
「帝王、お気遣いはご無用です。國の建て直しは急務です。今回の戦いで北バクラとソームの二地方を失う今、一刻も猶予はありません」そう言うとマクダクルスはネグロハルト帝王と帝王の間を後にして、会議の間へと向かった。
 会議の間には、行政を司る全ての文官と軍人から一人――四神兵団の筆頭、白虎騎士団の軍団長のライアスが既にいた。
「今回、先の大戦で我が國の敗戦したことによる賠償が、いくつかマルシャース・グールで決定されました。それについてここで報告をします」この言葉でマクダクルス宰相の報告が始まった。
 この報告のうち、やはり最も大きな賠償は、現在、十三の地方で成り立っているバルナート帝國の二地方のソルトルムンク聖王国への割譲である。
「その二地方は、予測の上ではありましたが、その最悪のものと言わざるを得ません。ソルトルムンク聖王国との国境の地であるバクラの町の北側である『北バクラ地方』と、今は滅亡したカルガス國との国境の地方である『ソーム地方』であります」このマクダクルスの言葉に大臣一同は落胆の色を皆、一様に面に表した。
「バクラの町は南半分がソルトルムンク聖王国の領土とはいえ、その町の規模は、各国の首都に匹敵するほどの規模を要しています。さらに、バクラの町はどの國といえども、戦争目的での進入が許されていない町です。これを破れば、どの國といえども、他の七國から相当の非難を蒙るでしょう。
 そのため、多くの民が、この町へ集まり、一大都市を形成しています。この町からの収入としてあがる税は莫大もので、我がバルナート帝國の財政の一割をこの町で賄(まかな)っているといって過言でないでしょう。この町を含む北バクラ地方を失うのは、本当に大きな損失です」マクダクルスが言葉を続ける。
「そしてもう一つの割譲の地――ソーム地方は、北バクラ地方のように財政的な負担はそれほど大きくありませんが、今後の戦略的に重要な基盤をソルトルムンク聖王国に奪われたのが大きな痛手です」そう言うとマクダクルスは、目の前に大きな馬皮紙を広げた。
 それはヴェルト大陸全図であった。マクダクルスはカルガス國とバルナート帝國の東部部分を指し示しながら説明を続けた。
「このソーム地方は、ご覧のようにカルガス國との国境の地域であり、さらにソーム地方は南北に長く、その北部にあたる部分は、ヴェルト大陸の北の海洋まで繋がっています。このソーム地方をソルトルムンク聖王国に奪われることによって、我が帝國は東部のみならず、北の海岸線を沿って、海軍で北から聖王国に攻められるという可能性が出来てしまいます。
 今のところ聖王国は海軍にそれほど力を注いでいませんが、いずれ、我が帝國の西部を除く三方向からの大包囲網作戦で、攻略しようという意図は見え見えです。しかし、それが分かっていながら何の手も打てないのが現状です。
 そして由々(ゆゆ)しき問題がもう一つ。帝都であるドメルス・ラグーンが北バクラ地方とソーム地方の割譲によって、バルナート帝國の最前線的な場所になってしまったということです。帝都の遷都を考えに入れるべきとの意見が各方面から噴出していますが、帝王はいかがお考えですか?」
「宰相自身は、帝都の遷都を良しとするのか?」帝王ネグロハルトが宰相マクダクルスに尋ねた。
「私(わたくし)の意見を申し上げます。今の帝都遷都は下策といわざるを得ないでしょう。その一つは、遷都の財源をどこから捻出するかという点です」マクダクルスが髭のない顎をさすりながら続けた。
「帝都遷都には、多大な財源と時間を要します。先の大戦が終わり、今、我が帝國の財源は底をついている状態です。さらに、北バクラ地方を始めとする二地方をソルトルムンク聖王国に割譲する今、遷都にかかる財源はとても考えられない状態でしょう……。
 財源以外にも、問題があります。確かにドメルス・ラグーンの地は、聖王国に囲まれたような形にはなってしまいますが、ドメルス地方は、非常に温暖で、帝都として申し分のない土地です。それに代わる土地がないということもさることながら、遷都を計画すると、聖王国に戦争準備を画策していると言いがかりをつけられ、敵に攻め込む絶好の機会を与えることになってしまうでしょう……。
 ここでいう敵とはむろんソルトルムンク聖王国のことでありますが……。そしてその帝都の遷都より重要な要素があります」マクダクルスは一旦、言葉を切り、周りを見回しながら徐(おもむろ)に話始めた。
「軍備の再編です」
「軍備の再編か?」ネグロハルト帝王が宰相の言葉をなぞった。
「さようです帝王! 今次大戦で我が帝國の誇る軍隊である四神兵団のうち三つの兵団の軍団長を失いました。早急に新しい軍団長を任命する必要があるでしょう。幸い、四神兵団のうち、玄武兵団以外は、軍としてそれほどの損害は蒙っておりません。軍団長さえ任命できれば、期せずして軍備は整うでしょう」
「宰相にはその軍団長の選定はできているのか?」帝王が尋ねた。
「はっ! 私めの選定で宜しければ、ただ今ここで披露いたしますが……」
「許す。宰相の考えを述べてみよ」
「はっ! それでは……」マクダクルスはそう言うと、軍団長の名前を一人一人挙げていった。




〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。ウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ウィップレスト王(カルガス國の元王。故人)
 ザッド(ソルトルムンク聖王国の宰相)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ライアス(バルナート帝國四神兵団の一つ白虎騎士団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)
 北バクラ地方(バルナート帝國の一地方)
 ソーム地方(バルナート帝國の一地方)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)
 バクラ(ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の国境にある町)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 玄武兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ)
 四神兵団(バルナート帝國軍の軍団の総称。白虎騎士団、朱雀騎士団、青龍兵団、玄武兵団の四つに分かれる)


〔参考二 大陸全図〕
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