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2014年02月15日08:16

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〔小説〕八大龍王伝説 【299 天と地】


 八大龍王伝説


【299 天と地】


〔本編〕
「急ぐぞ! シャカラ! 私たちの飛行スピードでは、天界との入り口まで九時間は要する。とにかく一刻も早く!」
 シャカラとバツナンダは、ワシュウキツの地下基地から出発して、空を上方へ一直線に飛んでいた。
 神が全力を移動に注ぐと、空中であっては音速に匹敵する速度が出せるのである。音速とは時速約千二百キロメートルである。
 天界との移動に瞬間移動を使えば良さそうなものであるが、天界の入り口に至るまで結界が敷かれており、瞬間移動が一切通じないのである。
 本来であれば、神ともなると地上界である人間界と天界の行き来など、瞬間移動の術を使えば、一分もかからずに移動できる。しかし、この時にはマナシによって、八大龍王が住む天上界全体に結界が敷かれたのである。
 むろん、それはウバツラ陣営に属していると考えられているワシュウキツ、シャカラ、そしてバツナンダの天界への進入を防ぐためである。そのような大掛かりな結界を敷けるのは、八大龍王の中でもマナシぐらいであろう。
 マナシは第七龍王で上級龍王と呼ばれている『最良の四龍王』の一人で『最優の龍王』と呼ばれている。『最も優れている』という意味である。
 マナシは人間界及び天界における全ての魔術――白魔術と黒魔術の全てに熟知しており、付帯能力の『陣地作成スキル』は得意中の得意で、そのスキルは究極のレベルに達する。
 そのため、マナシには八大龍王が住む天界全体に進入を防ぐ結界を敷くことが可能なのである。しかし、さすがにマナシも天界の入り口から直接入ってこようとする進入を防ぐことは無理である。
 まさに、シャカラとバツナンダはその天界の入り口から直接、天界に乗り込もうとしているのであった。
 この時代は、空、そしてその延長上の宇宙に対しての知識は、まだほとんどないが、現代の知識で言えば、天界の入り口は高度一万キロメートルの高さに存在する。
 高度一万キロメートルと言えば、ちょうど地球の大気圏の宇宙空間との境のギリギリの部分にあたる。
 大気の層と言われる大気圏は五つの部分に分けることができる。地上から高度十一キロメートルまでが対流圏。高度十一キロメートルから五十キロメートルまでが成層圏。五十キロメートルから八十キロメートルまでが中間圏。八十キロメートルから八百キロメートルまでが熱圏。そして八百キロメートルから一万キロメートルまでを外気圏という。
 シャカラとバツナンダはその外気圏の最も高い宇宙空間に近い部分を目指した。そこに天界の入り口があるのである。
「天界の入り口から、天界へは時空を超える。天界では十日以内でマナシと決着をつけるぞ! シャカラ……、それでも天界での時間軸でいうと一日が人間界の一月(ひとつき)に相当するから……地上界では十ヶ月はかかるという換算になる。とにかく急ごう!」
「ああ! 分かった! バツナンダ!」シャカラとバツナンダの飛行している姿は、まるで宇宙に向かって飛んでいく二つの流星のように、見えたのであった。

「さて……そろそろ始めようか! ……という前にやはりわしはお前に一つ聞いておきたいことがあるのだが……」
 ここはシャカラとバツナンダが、ついさっき脱出した地下のワシュウキツの城の前である。
 既に、そこにいたレナもワシュウキツの城の中に退避し、ここには漆黒の龍王であるトクシャカと深緑(しんりょく)の龍王であるワシュウキツの二人しかいない。
「ワシュウキツ! まだ時間稼ぎをするつもりか?!」
「まあ……そう手間はとらせん。そうは言ってもお前がこれ以上時間を割けぬとあらば、致し方ないがのぉ〜」
「構わん! そんなに時間的に差が出るとも思えぬしな……」
「……ほぉ〜なかなか物分りがいいのぉ〜。それでは問うが…… 何故お主は、レナの申し入れに応じたのだ? レナの申し入れに応じて、シャカラとバツナンダの足止めを回避すれば、あいつらが天界に向かうということが分かっていたのではないかと推察するが……」
「ああ〜その通りだ。自分にはレナとやらの企みは分かっていた。だからどうしたというのだ。シャカラとバツナンダの二人は結果的に天界に向かったが、それは結果であって、可能性としては、シャカラ一人で天界に向かうという可能性もあった。現に先程もそれで揉めていたようであったのでな。どのような結果になろうとも、自分そしてあえてマナシ陣営と呼ぼうか。自分とアナバタツタとマナシの勝利にはなんら揺るぐものがないと判断したからだ」
「随分な自信だなトクシャカ! しかし、アナバタツタがシャカラとバツナンダの二人に撃破されれば、マナシへ辿り着くのは容易だと思うがな!」
「その認識が大甘だ! アナバタツタほどの龍王が、たかだか下級龍王二人に突破されるとは考え難いし、たとえ万が一、アナバタツタが逃したとしても、マナシの元に辿り着ければ、全てが終わりではない。マナシも八大龍王の一人――『闘神』の一人だ。それも『最優の龍王』と呼ばれている。いずれにせよ、ウバツラ陣営と呼ばれているお前たちに勝ち目はないということだ」
「ほほぉ〜! しかし一つ分からぬ トクシャカ。お前であればわしら三龍王を揃って相手するのはそれほどの難事ではないはず。あえて、シャカラとバツナンダをここから脱出させる必要性も見い出せぬが……」
「理由は二つある。一つはレナとやらの人間の懇願を無下にするほど、自分の神としての格が低くないということと。もう一つは、レナとやらの手で、お前たちが分裂するような事態――例えば、バツナンダがここに残る場合に陥った場合は、お前たち三人を倒すのは苦もないと考えた。
 結果は、シャカラとバツナンダが天界に向かうという今のところ最良の選択をした。そのような三人ならば、自分が相手にするにあたって、少しは障りになると考えたからだ。レナとやらの申し出は、それを探る試金石となったというわけだな」トクシャカが続ける。
「自分が三龍王を倒すのは、最も効率のいい勝利だ。しかし、アナバタツタやマナシという駒が揃っている以上、次善の策として、それを遊ばせておくこともないというわけだ」
「はぁ〜 さすがは『最強の龍王』と呼ばれる戦術眼を持っている。しかし、次善の策がうまくいくかは、個々の力量にかかってくるわけだな。先ずはわしがここでお主を倒し、その戦略を破綻させよう」ワシュウキツが青龍刀ならぬ緑龍刀を大きく上段に構えた。
「語りはここまでということだな」トクシャカもそう言うと、鞘から漆黒の剣を抜き払らい下段に構えた。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 レナ(シャカラの妻。マークの妹)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)
 付帯能力(その人物個人の特有の能力。『アドバンテージスキル』という。十六種類に体系化されている)
 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界内において、その能力を最大限に発揮する)

(竜名)

(武器名)
 緑龍刀(ワシュウキツの得物。重バサラでできた緑色の青龍刀)
 漆黒の剣(トクシャカの得物)

(その他)
 最良の四龍王(優鉢羅、摩那斯、阿那婆達多、徳叉迦の四龍王のこと)
 最強の龍王(徳叉迦龍王の異名)
 最優の龍王(摩那斯龍王の異名)
 白魔法(魔法の中で防御や治癒などの攻撃を補助する魔法の類。攻撃が主な魔法を黒魔法という)
 黒魔法(主に攻撃系の魔法)


〔参考二 大陸全図〕
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