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2014年01月11日20:57

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〔小説〕八大龍王伝説 【294 黒騎士現る】


 八大龍王伝説


【294 黒騎士現る】


〔本編〕
 ワシュウキツの話が続く。
「それから、これはバツナンダ――お前と戦った時に気付いたことだが、お前の投影の能力は、使用している破片の種類と、その破片となった鎧の製作者の神通力、そして破片そのものの完成度によって飛躍的に投影される武器の能力に反映されるという。その観点から考えるに……、
 今回の破片は最高級と言えるぞ。なんせ、破片の種類は、最も固い金属である重バサラ。破片の製作者は、神の中で最高の武器の造り手であるわしであるワシュウキツ。
 そして、破片の完成度で言えば、いままでは鎧の欠片(かけら)であったため、破片の形が歪(いびつ)であったり、傷がついていたりしたが、今回は鎧の欠片ではなく、そもそも破片を作るべくして作ったのであるから、形も整っているし、当然、微細な傷すらない。そういう意味では、最高レベルの投影が可能だといえるぞ」ワシュウキツは満足気であった。
「さすがに二週間の不眠不休は疲れた。少し休ませてもらおう」そう言ってワシュウキツが大きな欠伸(あくび)をした時である。
「――二時間だけ時間を与えよう。それ以上は難しいがな……」ここにいる六人以外の声が聞こえたのである。
 通りのいい低い男性の声であった。
 六人全員に一気に緊張感が高まる。
 ワシュウキツが感知せずに、この場所に辿り着ける者はいない。ワシュウキツが感知できないということは、全くワシュウキツの敷いた結界が機能しなかったのである。
 当然、ワシュウキツに感知されないとはいえ、無断でこの場所まで足を踏み入れた何かである。――当然、敵と認識して間違いないであろう。
「大地を司る龍王であるこのわしが、大地に敷いた結界を全く機能させずに、ここまで来る者があるわけがない……」さすがのワシュウキツも、うろたえ気味にそう呟いた。
「いや……一人考えられる。闇にとけ込むと例えられる通り、己の気配を文字通り零(ゼロ)とできる男。八大龍王のうち第五龍王であり、『最良の四龍王』の一人で『最強の龍王』の異名を持つ男――徳叉迦(トクシャカ)龍王が……」
「「トクシャカ?!」」バツナンダとカリムが同時にそう呟き、シャカラ、レナ、ステイリーフォンの三人は無言のままであった。
 しかし、ここにいる六人全員がその可能性を確信した。
 謎の男は、トクシャカという答えに対して、応とも否とも答えず無言のままであった。
 しかし、黒い霧のようなものがワシュウキツ達の前方に蟠(わだかま)りはじめ、それは少しずつ形を整えていった。
 身長百八十センチメートルを少し超え、漆黒の鎧で全身を覆っている人物がそこに現れたのである。黒い霧のようなもので覆われているその人物の輪郭が、ハッキリするまで約三分を要した。
「間違いない! トクシャカだ!!」ワシュウキツによる最後の確信の言の葉である。
「久しぶりだな! ワシュウキツ……、そしてシャカラ。……バツナンダまで揃っているとは、自分が出張(でば)ってきた甲斐があったというものだ。ここでウバツラ陣営の龍王を一掃できるのだからな」トクシャカの顔は浅黒い皮膚に黒い眉と黒い頬髭(ほほひげ)と顎髭(あごひげ)を蓄えていた。
 鋭い眼光は、真っ黒い瞳。整っている顔立ちではあるが、皺(しわ)が多く、少し影のある五十代ぐらいの中年男性に見える。そして、話している間も少し暗めのその表情をほとんど変えないのである。
「しかし、ワシュウキツ……貴殿にはがっかりしたぞ! 何だその有様は……」トクシャカが口を開いた。
「ああ〜! このわしの鎧の角のことか。これは背に腹が変えられなかったので致し方ない。それよりわしらをここまで追い詰めたのだから……焦る必要はないであろう。二時間と言わず、まる一日ぐらいの時間はもらえないかのぉ〜。トクシャカよ! 城の中には美味い酒も取り揃えてあるがな……」
「いや! 猶予は二時間だけだ。今日の午前七時十九分には、貴殿達三人の首をもらう!」
「相変わらずゆとりもなく、生真面目一本の性質(たち)だな……。よかろう、その二時間だけは有効に使わせてもらおう。シャカラ、バツナンダ、城の中で作戦会議だ。トクシャカ! その間、わしの城の一室で待機しているか?」
「いや……、ここでいい。自分はここで待っている」
「はぁん! 勝手にしろ! よし全員、一旦城の中に戻るぞ。一人でのこのこやってきたトクシャカを返り討ちにする手を考えるぞ!」ワシュウキツはこのように軽口をたたいたが、シャカラ、バツナンダには、最悪の状況下であるとワシュウキツが考えているのが、言の葉のトーンから容易に読み取れたのである。
 実はシャカラもバツナンダも、トクシャカのことをワシュウキツほど深くは知らない。とにかく、ここからの二時間でどのような手が思いつくのか、あまり期待はできない状況であった。
 さて、ワシュウキツをはじめシャカラ、バツナンダ、レナ、カリム、ステイリーフォン聖王子の六人がワシュウキツの城に入るまで、誰一人として口を開かなかった。
 そして、トクシャカは先程、現れた場所から微動だにせず立っていた。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリム(元ハクビ小隊の魔兵。ステイリーフォン聖王子の妻)
 ステイリーフォン聖王子(ジュルリフォン聖王の双子の弟)
 レナ(シャカラの妻。マークの妹)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)

(その他)
 最強の龍王(徳叉迦龍王の異名)
 最良の四龍王(優鉢羅、摩那斯、阿那婆達多、徳叉迦の四龍王のこと)
 重バサラ(第四龍王ワシュウキツの造語。バサラを四万度の炎によって加工する。硬度はバサラの三倍以上)


〔参考二 大陸全図〕
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