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2014年01月04日13:51

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〔小説〕八大龍王伝説 【293 新しい鎧】


 八大龍王伝説


【293 新しい鎧】


〔本編〕
 目の前には、二人分の鎧が一式揃っていた。その二つの鎧は、深い緑の色をしていた。
 そこに三人の人物がやってきた。その三人のうち二人が、鎧の前に近づき、右手をそれぞれの鎧にかざした。
 途端に二つの鎧は消え、その瞬間、右手をかざした二人の体に装備されたのであった。
「うん! この鎧はいい。ワシュウキツ殿。礼をいいます」二人のうちの女性であるバツナンダがワシュウキツに頭を下げた。
「良かった。良かった。気に入ってもらえてなによりだ」三人の中で一番大柄なワシュウキツが嬉しそうに言の葉を発した。
「シャカラ! お前はどうだ?」
「うん! 悪くない。これほどの鎧が作れるとは……ワシュウキツ! お前……本当にすごいな!」シャカラも新しい鎧に大満足であった。
「ところで、ワシュウキツ。この深緑色は何とかならなかったのか?」バツナンダの些細な不服であった。
「心配するな! 直にそれぞれの自分色(パーソナルカラー)に鎧の色が変わる。ほら……言っているそばから、変わってきているぞ」
「「本当だ!」」シャカラとバツナンダが口をそろえて言ったように、バツナンダの鎧は蒼く、シャカラの鎧は白く、徐々に変化してきた。
「前に着ていた鎧より軽いな!」シャカラのこの言の葉に、
「しかし、材質はバサラから重バサラに代っているから、前の鎧の三倍は頑丈になっているぞ!」ワシュウキツは、得意げであった。
「さらにお前たちの特性に応じて、鎧に少し細工を施した。先ずはシャカラの鎧だが……肩部分の裏側に手を添えてみろ!」
 シャカラは無言で頷くと、自身の左手を鎧の右肩部分の裏側に添えてみた。
「あっ! クルツシュナイデだ!」
「そうだ! クルツシュナイデ――お前の長斧、短斧に続く第三の武器だ。そのクルツシュナイデは重バサラ製だ。さらに、わしという神の手によって作られているので、自己修復機能が備えられている。それぞれの肩に三本ずつ、さらに鎧の直垂(ひたたれ)に六本、合計十二本装備されている。
 それも鎧の個人判別能力で、シャカラとシャカラが許可した者以外は、クルツシュナイデを鎧から抜けないようになっている。そしてもう一つの能力が、シャカラ――お前の意志で、自動でクルツシュナイデを敵に向かって投擲できるという点だ。そのスピードはシャカラが直接投擲するのと大差がない。いざというときには役に立つだろう」
「それは本当か?! よし試してみるか」そう言うとシャカラは目を閉じて、精神を集中した。途端に右の鎧の肩の部分から、クルツシュナイデが飛び出し、ワシュウキツの城の扉の部分に刺さった。
「おい! わしの城に傷をつけるな!」ワシュウキツは大声で笑いながら言った。
「これはすごい!」シャカラは再びそう呟き、ワシュウキツの城の扉に刺さっているクルツシュナイデを抜き、再び鎧の肩に装備した。
「スピードは、確かに僕が投げたときと大差ない。加えて狙いが正確だ。僕はワシュウキツの城の扉に刻まれている牡牛の右目を狙ったのだが、その狙い通りだ。ありがとう、ワシュウキツ。これで僕の戦略、戦術の幅が大幅に広がる」
「それは良かった。戦友(とも)が強化されるのはわしにとっても嬉しいことだ」
「あら! ワシュウキツ様。鎧は完成されたのですか?」三人の龍王の背後から女性の声が聞こえた。三人の龍王が後ろを振り向くと、レナとカリムとステイリーフォンの三人の人間が近づいてきた。
「おう! レナ殿。もう起きたのか?」
「ワシュウキツ様の大きな笑い声で起きてしまいましたわ。でも、おめでとうございます。シャカラ様とバツナンダ様の鎧が完成したのですね」
「ああ〜! 今日の二時には完成したのだが……、朝まで待っていられなかった。シャカラとバツナンダを三時に叩き起こしたところだ!」そう言うとワシュウキツはまた大声で笑った。
 よほど、鎧が出来たことが嬉しかったようである。
「よくお似合いです。シャカラ様」
「ありがとう。レナ」レナはシャカラに微笑むとバツナンダの方を見て言った。
「バツナンダ様も、とても凛々しいです」
「ありがとう。レナ」今ではかなりレナとバツナンダもお互いに意識しなくなってきた。
 お互いに性格なども分かってきて、お互いに尊敬できる人物であるという気持ちがその意識を解放していったのである。
 それでも、若干の意識はあった。シャカラの現在の妻と元恋人では、それも致しかないであろう。
 レナの称賛に答えて、ふと、ありがとう以上の言葉が見つからなかったバツナンダは、ワシュウキツに話を振った。
「神といえども、睡眠は必要だ! それを朝の三時に叩き起こしてからに……」
「ハッハッ! すまんすまん」
「ところで私の鎧の特徴をまだ聞いていないぞ。どんな特徴を持っているのだ」
「おお〜。忘れていた。これから説明しよう」ワシュウキツはそう言うと、バツナンダの鎧の右の腰についている幅十センチメートル、長さ三十センチメートルの金属製の小物入れのようなものを指差して、説明をはじめた。
「その腰についている金属性の物体は、要するに鞘(さや)だ」
「鞘?!」バツナンダの問いに答えるようにワシュウキツが話を進めた。
「そう鞘だ。その鞘には、一万を超える重バサラ製の破片が入っている。これで伝説の武器を投影するときに、いちいち鎧を砕いて破片を作る必要がない……。むろん、その鞘にも、シャカラの鎧と同じように個人判別能力がついているので、バツナンダとバツナンダが許した者しか、破片を取り出すことは出来ない。
 当然、鞘を引っくり返しても破片がこぼれることも絶対にない。さらに、バツナンダの思考に直結しているので、右手に三片とか、左手に五片とか、破片が必要な箇所に、必要な数だけ自動で出すことが可能だ」
「それはすごい!」滅多に驚かないバツナンダが蒼い瞳を丸くして驚いた。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリム(元ハクビ小隊の魔兵。ステイリーフォン聖王子の妻)
 ステイリーフォン聖王子(ジュルリフォン聖王の双子の弟)
 レナ(シャカラの妻。マークの妹)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。滅亡)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)
 クルツシュナイデ(シャカラの隠し武器。『短い刃物』という意味)
 短斧(ハクビの得物の一つ。短い柄の戦斧)
 長斧(ハクビの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

(その他)
 重バサラ(第四龍王ワシュウキツの造語。バサラを四万度の炎によって加工する。硬度はバサラの三倍以上)
 バサラ(神々の世界でのみ採掘できるという金属。この時代の金よりさらに硬度が高い)


〔参考二 大陸全図〕
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