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2013年11月30日18:37

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〔小説〕八大龍王伝説 【287 第四龍王和修吉(十三) 〜軍神の刀〜】


 八大龍王伝説


【287 第四龍王和修吉(十三) 〜軍神の刀〜】


〔本編〕
「うん。さすがはバツナンダ! 僕が一度は惚れた女武者だ! その認識さえ持てば、十中八九僕らの勝ちだ!」
「ふん! どさくさまぎれに……。ずいぶん、気合を入れた演説の割には、容易い物言いだな!」
「そりゃそうだよ! 神が二人、一対一のプライドを捨て、真剣に闘おうとしているのだよ! それに一人で対抗する者は、たとえ神でも冷や汗が出るというものだよ! ところでバツナンダ!」
「ん?!」
「最強の双剣はカンショウ、バクヤということは分かった。それでも単一で最強と呼ばれる剣が、存在するのではないか。おそらくはワシュウキツの緑龍刀に勝るとも劣らない武器が……」
「緑龍刀?! 古代の神々の世界には『重バサラ』は存在していない。その緑龍刀と同等の硬度を持つ武器など存在しない! 仮に私の鎧の破片で緑龍刀を投影しても、所詮はバサラ製の緑龍刀が出来るにすぎない。それでは、重バサラ製の緑龍刀には絶対に勝てない!」
「緑龍刀を投影してもらおうとは思っていない。それに僕は硬度の高い武器の話をしているのではない。最も強い武器――おそらくは剣(つるぎ)だろうが…… 僕の記憶では、古代の神々のうち冥王神ハーデスの呪いの武器か、軍神アロウスの剣かなんかあるように思えたが……」
「冥王神ハーデスの最強の武具は、お前に使用した『闇の楯(フィンスターニスシルト)』だが……」
「それは楯だったね! できれば攻める武器である剣のようなものがいいのだが……」
「そうなると軍神アロウスの『怒りの刀(エルガーシュヴェーアト)』というものがあるが……」
「その刀の由来は聞いたことがある。確か、最後に軍神アロウスを裏切り、最初で恐らく最後であろう、神が人間に敗れ去ったという汚点をアロウス自身に刻んだ有名な刀だな!」
「その伝説には若干、間違いがある。『怒りの刀(エルガーシュヴェーアト)』は、その当時最強の攻撃力を持つ刀であった。そして、その攻撃力は、持っている者の覇気に連動してより強力になっていく。覇気が強ければ強いほど、エルガーシュヴェーアトは強くなる。
 但し、それは相手を攻めるというものに特化している性質だ。それでも何者にも負けない覇気さえあれば、エルガーシュヴェーアトを有して負けることはない。しかし、一旦、覇気が弱まり、守勢にまわったときには、『怒りの刀(エルガーシュヴェーアト)』は、まるで役に立たない。むしろそのような不甲斐ない持ち主の命すら奪ってしまうという――文字通り諸刃の剣なのだ。
 実際、軍神アロウスも、勇者トロイドンの策略に嵌り、万事休すで覇気が弱まり、ついトロイドンの突き出す槍に、防御の形で『怒りの刀』を構えたところ、『怒りの刀』が燃え上がり、握られているアロウスの右手ごと、持ち上がり、彼(アロウス)の首筋に切りかかったのだ。アロウスはその刀の反乱は、左手の剣でアロウス自身の右腕を切り落とすことによって回避したが、結局は防御するはずのトロイドンの槍の突きを心の臓に穿たれ、アロウスは絶命したのだ!
 守勢にまわった途端、そのような不甲斐ない持ち主を殺そうとする剣など、危険極まりない! 最強の武器かもしれぬが、あまりにも扱いに危険が伴う武器だ!」
「しかし、今、その最強の剣――いや、刀が必要な時だと僕は思う」シャカラのきっぱりとした言の葉であった。
「私も、そうは思うが、軍神アロウスに使いこなせなかった武器を……私が使いこなせるとは……」
「君なら使いこなせる! 『多芸』を信条とする龍王である君なら……」
「シャカラ……本当にそう思っているのか!」
「もちろん! 技術云々もあるが、君の強い信念があれば、大丈夫だ! 亡くなった神を冒涜する気はないが――、軍神アロウスは愚かであった。勇者の策略に嵌ることもそうだが、最後まで攻め続ける気持ちで『怒りの刀』を振るえば、刀が裏切ることは決してなく、また、その刀の力を信じていれば、その死地も脱出できたと僕は思う。君にはアロウスにない思慮深さがある。絶対に大丈夫だ。君が引かない限り……それに君が担当するのは、ワシュウキツの左側――つまり、盾を持つ側だ。君が攻められることはない!」
「随分と持ち上げてくれたな! しかしお前がそう言うなら信じよう! ところでそう言うシャカラ――お前は何か手はあるのか?」
「……僕は、この長斧と短斧による『極芸』を信条とする龍王だ! この二斧を上回る手は持っていないよ!」
「……」
「とにかく、ここからはワシュウキツの右側と左側という役割があるとはいえ、実質的な単独の攻撃になる。それも必死に、ワシュウキツの生命を奪いにいく!」
「分かった!」
「打ち合わせはここまでだ! 戦闘開始まであと三十二分あるが、ここからはそれぞれの方法で気を高めよう」
「ああ……」バツナンダはそう言うと、手に持っていたカンショウ、バクヤの双剣を惜しげもなく放り捨て、そこに胡坐(あぐら)を組むと、残った破片を両手に持ち、気を高めた。
 破片は紅い陽炎が漂う中、徐々に武器としての形を成していった。実は、この徐々に武器の形成をする方法こそ、最もオリジナルに近い投影ができるのである。バツナンダは戦闘時間になるギリギリまで武器の形成に時間をかけ、同時に武器との一体となるよう精神を集中しているのである。
 それに対し、シャカラは急に長斧による型を始めだした。それは剣舞といわれるような舞のようであった。シャカラも戦闘開始までギリギリ、その舞をしていた。これも一つの精神集中なのであろう。
 人のように体を温めないと全力が出ないとか、瞑想にでも入らないと精神が集中しないとかは、神の能力や精神性の高さから無縁であった。そのため、バツナンダとシャカラの精神統一法はそれぞれが一番、精神が集中するやり方であり、それを熟知している彼らにとって、自分達の独自の精神集中法が一番効果的であった。
 それでも、全く異なる――いや相反する、表現すればバツナンダの『静』に対するシャカラの『動』の精神集中を見ているのはワシュウキツ唯一人であるが、おそらく他の者が見れば、それだけで心奪われ、かつ畏怖したであろう。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 アロウス(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる軍神。後世のギリシアにおけるオリンポス十二神の一人アレスの原型とも謂われている)
 トロイドン(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる勇者。軍神アロウスを倒した)
 ハーデス(この時代より一万年以上前に存在した冥府神。後世のギリシアにおける冥府神ハデスの原型と謂われている)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)
 怒りの刀(バツナンダが投影した武器の一つ)
 カンショウ・バクヤ(バツナンダの投影した二振りの刀剣。紅い剣がカンショウで、蒼い剣がバクヤ)
 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)
 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)
 緑龍刀(ワシュウキツの得物。重バサラでできた緑色の青龍刀)
 闇の楯(バツナンダが投影した武具の一つ)

(その他)
 重バサラ(第四龍王ワシュウキツの造語。バサラを四万度の炎によって加工する。硬度はバサラの三倍以上)


〔参考二 大陸全図〕
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