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2013年11月23日13:40

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〔小説〕八大龍王伝説 【286 第四龍王和修吉(十二) 〜認識〜】


 八大龍王伝説


【286 第四龍王和修吉(十二) 〜認識〜】


〔本編〕
「これが何回目の作戦時間だ!」バツナンダがシャカラに聞いた。
「八時五十五分だから三十三回目の作戦時間だ!」聞いたバツナンダも、聞かれたシャカラもうんざりしたといったところであった。
 ここまで今日の午後一時から開始したワシュウキツとの試合は時間にして約八時間弱。ワシュウキツは右手に、自身で緑龍刀と嘯(うそぶ)くいわゆる青竜刀に、左手には牡牛の顔を象った盾を持ち、シャカラとバツナンダの二人がかりの攻撃の一切を防いでいたのである。
 シャカラとバツナンダも単調な攻撃を繰り返しているわけではなく、攻撃に変化を付けつつ、盾や緑龍刀の同じ箇所を集中して打ち込むなどの攻めを実行していた。
 しかし、『重バサラ』といわれる牡牛の盾も緑龍刀も一切、傷一つつかないのである。むしろシャカラの斧やバツナンダの剣が、何度となく欠けたりしているのである。実際にワシュウキツの鎧まで及んだ攻撃は、この八時間弱の戦いの中で、五回あったかどうかであろう。
 むろんワシュウキツの鎧も『重バサラ』で出来ているので、ちょっと掠(かす)る程度では、傷の一つもつかないのである。十分間の戦闘時間の後に五分間の作戦時間が続くのだが、何度かシャカラもバツナンダもその作戦時間にも攻め立てたことがあった。
 当然、攻撃のできないワシュウキツは防御一辺倒になるわけだが、その守りは完璧であった。
「二人で攻撃して、一度としてワシュウキツの牙城を崩すことができないとは……癪(しゃく)ではあるが、このまま今日を過ごして、時間切れに持ち込んだほうがいいのではないか?!」
「バツナンダらしくない発想だな! それは無理だと思う……」
「何故そういえるのだシャカラは……」
「僕の自邸にある鎧のうち二十八体を今の戦いで使い潰したから、後五体しか残っていない。武器のストックも僕はクルツシュナイデを全て使い切ったので、後は長斧と短斧のみ。君は、鎧の破片が一つとカンショウ、バクヤ――それもかなり傷ついた一対のみ。とても後三時間の試合を戦い続けることはできない。バツナンダ! 一つ僕の策戦に乗っかってみないか!」
「何か策戦があるなら、もっと早めに仕掛ければよかったのでは……、何故今頃?! まあ、いずれにせよお前の策に託してみよう」
「よし……そうとなればワシュウキツと交渉だ!」
「交渉?!」
「ワシュウキツ! 一つ提案がある! いいか?」シャカラがワシュウキツに話しかけた。
「何だ? あと作戦時間終了まで二分だぞ! 言いたいことがあるなら早く言え!」
「その作戦時間なのだが……。先にまとめてもらえないか?!」シャカラの言の葉。
「どういうことだ!」ワシュウキツの言の葉。
「つまりだ。次に戦闘時間が始まる二十一時からの作戦時間をまとめてとり、その後、休みなしで明日の零時まで戦闘時間が続くという形にしたいのだ! 二十一時以降の作戦時間は二十三時五十五分の作戦時間まで合わせて十二回。五分間の作戦時間が十二回だから六十分間。次の戦闘時間がはじまるのを二十二時からにしてほしい。どうかな、ワシュウキツ!」
「ふぅん! 何を企んでいるのかは分からないが、構わないぞ!」
「よかった! これでワシュウキツ……。お前も救えるかもしれない……」
「……?」
 さすがにワシュウキツも、シャカラの最後の言の葉の意味は理解できなかった。
 ワシュウキツが操作したのであろう巨竜(バハムート)の像の口から吐き出される炎も二十一時になっても、そのまま青い炎のままであった。
「シャカラ! お前何を考えているのだ! 作戦時間を前倒しにして……。これでは最後の最後の場面で一切、話し合いができないことになるぞ!」
「それでいいのだ! むしろ今の一時間を使って、僕らの認識を変えるほうがずっと大事だ! それに、この方法しかワシュウキツに勝ち、かつワシュウキツを救う方法はない!」
「ワシュウキツを救う?! それよりワシュウキツの兜の角すら折れないのに……。ワシュウキツを救うどころか……」
「兜の角を折る! その認識を改める必要がある。この認識を改めない限り、僕らがワシュウキツに勝つことはできない」
「認識を改める?! どう改めるというのだ!」
「僕が最初に一人でワシュウキツに挑んだ時間があっただろう? あの時、僕がワシュウキツの背中に飛んだとき、ワシュウキツは兜の角を庇(かば)って、前に蹲(うずくま)った時だ。覚えているか。バツナンダ!」
「ああ〜、覚えている! あの時、お前はワシュウキツの背に短斧を打ち付けるチャンスがあったような言い方をしたが……」
「そうだ! しかし僕はそれをしなかった。何故かというと……」
「ワシュウキツの兜の角を折り、ワシュウキツに負けを認めされるのが本分で、ワシュウキツの命を奪えば、結局、私とお前だけでマナシに臨まなくてはいけない。それではマナシに勝ちはない」
「その通りだ! しかし、それで良いのかということだ!」
「違うのか?!」
「違う! ワシュウキツ一人を倒せないで、今後、トクシャカ、アナバタツタを始めとするマナシに何故、勝てるのかということだ!」
「……」
「ワシュウキツもそれを全て得心していたため、僕に背中を晒した時に、自分の命を守らずに、兜の角だけを守ったのだ。僕があそこで、ワシュウキツの命を狙えば、ワシュウキツもあのような対処はしなかったはずだ」
「しかし、本当にワシュウキツを倒してしまえば……」
「バツナンダ! あまり思い上がらないほうがいい。僕たち二人が、ワシュウキツを倒そうと思って、本当に倒せるかは、実際には分からないのだ! つまり、ワシュウキツの命を奪うために全力を尽くして、或いは兜の角を折れるかどうかだ! 彼の角だけを狙っている僕たちでは、絶対に、ワシュウキツの角を折ることは不可能だ! 僕たちは、ワシュウキツを本気で倒すために攻撃をするのだ! その認識を変えない限り、いくら時間があっても意味はない!」
「しかし、角を折らなくても今日という時間が終われば、私たちは勝つのではないか! 万が一としておくがワシュウキツを失う危険を冒さなくても……」
「いや! 時間切れは僕らの負けだ!」
「どういうことだ!」
「一応、時間切れは僕らの勝ちとしているが、半日かかって兜の角も折れず、ワシュウキツの命すらとれなかった僕らとワシュウキツが行動を共にすると考えるか?」
「……確かに」
「想像するに、時間切れで終わった後にワシュウキツは単身で、マナシに臨み、仮に『最強の龍王』と呼ばれる第五龍王トクシャカに勝ったとしても、次の第六龍王アナバタツタと戦い、勝ったにしても対の呪いでワシュウキツも滅びてしまう。つまりどちらにしてもワシュウキツを失うことになる。たとえ、ワシュウキツがマナシに単身で挑まないにしても、僕らと共同戦線を組むとは思えない。僕らは、ワシュウキツの御眼(おめ)がねに叶わなかったのだから……」
「……」
「……」
「お前の言うとおりだな。このワシュウキツとの戦いは、単なる消化試合ではなく、マナシの前に辿り着くための、重大な命をかけての真剣勝負なのだな! 分かった! お前か或いはワシュウキツか……或いは私が倒れるかは分からないが、その認識で、残りの時間を闘おう!」



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)

(武器名)
 カンショウ・バクヤ(バツナンダの投影した二振りの刀剣。紅い剣がカンショウで、蒼い剣がバクヤ)
 クルツシュナイデ(シャカラの隠し武器。『短い刃物』という意味)
 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)
 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)
 緑龍刀(ワシュウキツの得物。重バサラでできた緑色の青龍刀)

(その他)
 重バサラ(第四龍王ワシュウキツの造語。バサラを四万度の炎によって加工する。硬度はバサラの三倍以上)


〔参考二 大陸全図〕
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