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2013年10月05日08:59

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〔小説〕八大龍王伝説 【279 第四龍王和修吉(五) 〜防御〜】


 八大龍王伝説


【279 第四龍王和修吉(五) 〜防御〜】


〔本編〕
「ワシュウキツに勝つことが全ての最優先課題ということは……、シャカラ! お前の話で納得した。しかし、我々二人が同時にワシュウキツに挑むのはまだ納得していない。先ずは私一人に試合をさせてもらいたい! これはどんなことがあっても譲れないことだ!!」
「どうしてもそれが譲れない事柄なのであれば、それで構わない。僕は先ず観戦させてもらう。戦いに加わらないことで、なんらかの糸口がみつかるかもしれないからな」シャカラはそういいながら、ソルトルムンク聖王国の自邸から『取り寄せ』した、鎧一式をバツナンダに渡した。
「白い鎧か! 蒼いのはなかったのか?!」
「僕のパーソナルカラーは白だからね。僕の自邸に揃えている鎧は全て白色だ」
「しょうがない!」バツナンダはぶつぶつ言いながら、鎧を纏(まと)った。
「サイズはこれでいい。あとは色だけか!」そう言うとバツナンダは静かに目を閉じた。
 バツナンダの鎧がみるみる蒼い色に変わったのである。これはバツナンダが騎乗する竜(ドラゴン)が蒼く変わるのと同じ原理であった。
「そんなことに力を使うのか?! 色なんかどれも一緒だろう!」シャカラの呆れ声。
 それに対してバツナンダは真っ向から否定した。
「何を言うか! 我々のパーソナルカラーは、絶対に譲れないものだ。色が白のまま闘ったほうが、気持ちの上で乗ってこない。それに私の能力は色を変化させるだけではない。この鎧はたしかにゴールド製かもしれないが、私の能力でバサラ製の鎧に限りなく強度が近づいたのだ!」
「分かった! とりあえず任せる。それで武器は何にするのだ?!」
「むろん。最強の双剣だ!」
「カンショウとバクヤか! ワシュウキツ相手には最強をいきなりぶつけるのは正解だな」
 その時、四方のバハムートの像の口から吐き出される炎が青から赤に変わった。いよいよ龍王同士による試合の始まりの合図である。
 同日の午後一時であった。

 ワシュウキツの前にバツナンダが立ちはだかった。
「バツナンダ一人か! シャカラと一緒に攻めて構わないのだぞ!」
「その心配は無用だ! この武器を見れば……」バツナンダの言の葉に、両手に持っていた鎧の破片が、二本の剣(つるぎ)へと姿を変えた。
 紅い剣がカンショウ。蒼い剣がバクヤである。
「ほほぉ〜、カンショウとバクヤか! 投影とはいえ、まさかお目にかかれるとはな!」
「知っているのか?!」
「当たり前だ! わしは物の創造を司(つかさど)る龍王。その中でも武器や武具の作成能力の高さは、どのような神であろうと右に出る者はいない。わしが知っている武器の中では最強だな。双子神がいた古代においてはな……」
「まるで今では最強でないというような言いぶりだな!」
「試してみるか!」そう言うとワシュウキツは、鞘(さや)がついている青龍刀を反転させ、地面に柄の部分を突き刺した。
 青龍刀の柄は地面に突き刺さり、それを確認したワシュウキツは青龍刀を手から離し、バツナンダに向かって数メートル歩を進めた。
「「ん?!」」バツナンダもシャカラもワシュウキツの意図を計りかねた。
 ワシュウキツの唯一の武器といえる青龍刀を手から離したのである。
「先ずはこいつを試してみるか?!」ワシュウキツはニヤリと笑い、左手に持っている牡牛の顔を象った巨大な盾を突き出した。
「最強の防御というものが分かるはずだ!」そのワシュウキツの声が終わる前に、バツナンダは大地を蹴っていた。
 ここまで愚弄(ぐろう)されては、冷静沈着でなるバツナンダをして、熱き怒りの炎が心の中で猛(たけ)っていた。
 そして、それはその対象者を滅すべくため、身体全体に力を漲(みなぎ)らせ、両腕が握っている二つの剣が、地下の湿った空気を切り裂いていた。

「すごいな……」シャカラが思わず呟くほど、バツナンダの剣さばきは、壮絶であり、苛烈であり、そして美しかった。
 走り、跳び、跳ね、廻る……それは剣技(けんぎ)というより剣舞(けんぶ)であった。
 バツナンダの両手に握られているカンショウ、バクヤは、剣筋がかすむ程早く、そして変幻自在であった。
 剣は上段、中段、下段に加え、最上段、最下段の振り下ろし、横なぎ、振り上げ、そして突きに至るまで、一つとして同じ軌道の剣筋は見当たらないほどである。
「多芸を信条としているバツナンダの真骨頂といったところか……」シャカラはここまで言うと、呟くように後の言の葉を続ける。
「それを一枚の盾で全部防いでいるワシュウキツの防御術も底が知れない!」
 そうなのである。
 シャカラが言ったように、この変幻自在のバツナンダの攻撃を、ワシュウキツは盾を動かすだけで、全て盾一つで防いでいるのである。
 ワシュウキツの大木のように太い足は、踵(きびす)をつかって、方向を変えることはあれど、一切前進も後退もしていないのである。
 例えるなら、突風が吹きすさぶ中で、一本の大木が微動だにしていないようなものであった。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ゼオス・ヘラ(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる双子神。ゼウス・ヘラの夫婦神の原型と謂われている)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)

(武器名)
 牡牛の盾(ワシュウキツの盾)
 カンショウ・バクヤ(バツナンダの投影した二振りの刀剣。紅い剣がカンショウで、蒼い剣がバクヤ)
 青龍刀(ワシュウキツの得物)

(その他)
 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金(ゴールド)とは別物と考えてよい)
 バサラ(神々の世界でのみ採掘できるという金属。この時代の金よりさらに硬度が高い)


〔参考二 大陸全図〕
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