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2013年09月07日13:40

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〔小説〕八大龍王伝説 【275 第四龍王和修吉(一) 〜覚醒〜】

 八大龍王伝説


【275 第四龍王和修吉(一) 〜覚醒〜】


〔本編〕
 そこは真っ暗であった。
“ここは何故こんなに暗いのだろう?”そう思ったとき、もっと重要なことに気付くのであった。
“ここはどこだ? 自分は何?!”そのモノはさらに深く考えを巡らした。
“どのくらいここにいる? いや……、いた?”誰かから数秒と言われればそんな気もするし、数百年と言われればそれも否定できない。
“死とはこのことをいうのだろうか? いや自分がなにかも分からないから存在があるのかどうか?”その時、真っ暗であったその場所に薄っすらと光が感じられた。
 覚束(おぼつか)ない光だが、確かに闇以外のものだから光であろう。その理屈は理解していた。徐々に分かってきた。光が覚束ないのは瞼(まぶた)を閉じているせいだ。
“瞼があると感じることは、自分は何らかの存在するモノなのだ”そう思ったそのモノは瞼(まぶた)なるモノを大きく見開いた。
 瞳に緑色の光が入る。大して強くないその光だが、そのモノには非常に強力だった。そして、その瞬間、そのモノは全てを思い出していた。
“僕は神だ! 八大龍王の一人――沙伽羅(シャカラ)龍王だ!!”と……。

 龍王暦一〇五二年七月一九日。第三龍王シャカラは目を覚ましたのである。
 去年である龍王暦一〇五一年一〇月三一日に第六龍王アナバタツタの矢を左胸に受けてより、二百五十日以上眠り続けていたのである。
 初めの数日こそは、第二龍王バツナンダと触れ合い会話により話していたが、それも一週間過ぎると、シャカラは全くの仮死状態になってしまったのである。この状態を第四龍王ワシュウキツはこう言って説明した。
『わしと合流して完全に精神を安定させたのであろう。それなら身体的な修復を一日でも早くするために、あらゆる機能を停止させたのであろう。おそらく記憶や潜在能力すら停止させたようだな。これでは自己という存在すら今のシャカラには理解できていないようだ。身体の修復のためとはいえ、ここまでのことを実際に行ってしまうシャカラの能力には目を瞠(みは)るものがあるな!』

「シャカラ様!」
「ん?! レナか?」
「はい! レナです! よかった。本当に目覚められたのですね?!」レナの瞳からはみるみる涙があふれてきた。
「僕は助かったみたいだね。レナのおかげだよ」シャカラはそういうと上半身を起こし、右手でレナの頭を撫でた。
「完全に元に戻ったのですか? ……私はシャカラ様が生きているだけで充分なのですが……」
「元に戻ったのではないな!」
「え?!」
「バツナンダやアナバタツタとの戦いで生死を乗り越えて覚醒している。バツナンダと戦った時より、強くなっている」
「よかった!」そうレナは言うと、
「ワシュウキツ様! バツナンダ様! シャカラ様が意識を取り戻しました」
 レナは嬉しそうにシャカラのいる部屋を飛び出し、皆を呼びにいったのである。レナにとってこんなに嬉しいことは、ワシュウキツのこの地下の城に来てから初めてのことであった。

「いやぁ〜よかった。シャカラが息を吹き返して……。久しぶりだな! シャカラ!!」
「ワシュウキツ!! 実際に会うのは八十年ぶりぐらいかな。声だけは聞いていたが……」シャカラとワシュウキツはお互いの右手をがっしりと握りあった。
「シャカラ! よく死地から生還したな! その死にづらさはナンダに匹敵するな!」
「ハッハッ! バツナンダ。お前にもいろいろ世話になった」
「礼には及ばない。お前とはまだ決着がついていないからな。しかし、それより先に第七龍王マナシに第八龍王ウバツラ監禁の件を問いたださなければならない。とにかくお前が復帰するまで、ワシュウキツにそれを止められていたからな……」
「そうか! しかし僕が復帰したことにより、ワシュウキツ、バツナンダと三人の龍王が揃ったことになる。これならマナシ側は……、マナシ、トクシャカ、アナバタツタだから全く互角というわけだ。これならマナシとの会談にも持ち込めるだろう」
「ああ〜」
「……」
このシャカラの言の葉にバツナンダは答えたが、ワシュウキツは無言であった。
「どうした?! ワシュウキツ?」シャカラが気になって、ワシュウキツに話しかけたが、それでも無言であった。
「……本当にそう思うか?」
 五分の沈黙後、ワシュウキツはやっと一言だけ言った。
「そうとは?」
「だから互角ということだ」
「互角でないと言うのか?!」シャカラがそう言った時、ワシュウキツは、やにはにシャカラの左肩をつかんだ。
“レナ達には内緒で、バツナンダと二人でここから十キロメートル北の地点まで来てくれ! 二時間後だ! わしはそこで待っている。くれぐれも人間たちには内緒で……”ワシュウキツの触れ合い会話であった。
シャカラはそれに無言で頷いた。 

 龍王暦一〇五二年七月一九日午後〇時二十三分。シャカラはバツナンダだけにワシュウキツが、話があると言っていた旨を伝え、揃ってシャカラが休んでいた城から北へ十キロメートルの地点に辿り着いた。
 その場所は高さが百メートル以上、広さも一平方キロメートル。つまり、距離が一キロメートル以上の長さを持つ超巨大な広場のようなところであった。
 シャカラとバツナンダが辿り着いた時には、ワシュウキツは既に到着していた。
 ワシュウキツは完全武装をしており、武器の、刃幅五十センチメートル、刃の長さが一メートル、柄の長さが二メートル五十センチメートルの巨大な青龍刀と、防具である牛の顔を象(かたど)った巨大な盾を持っていた。
「二人とも武器は持ってきたか?」牛の角がついている兜をかぶったワシュウキツが二人に尋ねた。
「ああ〜」バツナンダが、ワシュウキツに四、五本の鎧の欠片を見せた。
「残ったのはこれだけだがな」……。
「僕は長斧と短斧。それに『短い刃(クルツシュナイデ)』が二本だ……。武器を全部持ってこいとはどういうことだ?!」
「――鎧は?」シャカラの質問には答えず、ワシュウキツは二人に尋ねた。
「シャカラと戦ったときに鎧は破損した。おそらくシャカラもそうだろう」「ああ!」バツナンダの言の葉の流れで、シャカラは答えたが、さっきから言い様のない違和感があった。
「バツナンダ気付いたか?」シャカラがそっと尋ねる。
「ああ……全く笑っていない! ワシュウキツは……」バツナンダの答えにシャカラが頷いた。
 そうなのである。常に笑顔で冗談を言ったりするワシュウキツが全く笑っていないのである。それどころか目が爛々(らんらん)と怪しげな光を発し、口の中で見えない歯を食いしばっているような、こわばった口元なのである。
「怒っているのか? ワシュウキツは……」バツナンダがそっとシャカラに尋ねる。
「いや! 怒っているのではない!」
「違うのか?!」
「ああ〜! 激怒しているようだ。ワシュウキツは……」



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 レナ(シャカラの妻。マークの妹)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 カルガス國(北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多(アナバタツタ)の建国した國。滅亡)
 ミケルクスド國(西の小国。第五龍王徳叉迦(トクシャカ)の建国した國。飛竜の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ)
 フルーメス王国(南の弱小国であり島国。第二龍王跋難陀(バツナンダ)の建国した國)
 ジュリス王国(北西の小国。第一龍王難陀(ナンダ)の建国した國。馬(ホース)の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(武器名)
 クルツシュナイデ(シャカラの隠し武器。『短い刃物』という意味)
 青龍刀(ワシュウキツの得物)
 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)
 長斧(ハクビの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

(その他)
 触れ合い会話(付帯能力の天耳・天声スキルの応用。接触により会話をすること)


〔参考二 大陸全図〕
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