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2012年12月21日20:55
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〔小説〕八大龍王伝説 【２３５ 八カ國会談（一） 〜密謀〜】
八大龍王伝説
【２３５ 八カ國会談（一） 〜密謀〜】
〔本編〕
さて地上世界の様子を語る。
龍王暦一〇五二年一月一日。年明け早々、今後の國々の在り方の方針を決めるいわゆる『八カ國会談』の日程が決まった。同年三月二八日から四月一日の五日間行われるということで決定したのである。
場所はソルトルムンク聖王国の首都で王城であるマルシャース･グール。 『八カ國会談』に先立ちソルトルムンク聖王国と各国の二カ国会談が順次行われるため、実質三月の始めから会談は始まっていく。これらは全て今回の第一次ヴェルト戦役の戦勝国の盟主であるソルトルムンク聖王国が仕切っていた。
各国への連絡は、瞬間移動の術が使える使者がそれぞれの國に赴いて伝えた。誰もがこの『八カ國会談』によって、ヴェルト大陸に平和が訪れると思っていた。一部の例外する者を除いて……。
話が少し遡る、龍王暦一〇五一年一二月二五日。カルガス國のとある酒場に紫色のフードを被った一人の男が入ってきた。男は十人程度しか入れない狭い酒場を見回し、二人組の一番奥に座っている男達に近づいていった。
その二人組もやはり紫色のフードを被っており、顔は分からなかった。二人組の男達に近づいた一人の男が声を殺して話しかけた。
「カクバージでありますが……」
「おお。カクバージ殿。こちらへ……」二人組のうち一人が立ち上がって、カクバージを隣の席へ誘（いざな）った。
「おい！ 外を見張れ！！」カクバージを誘（いざな）った一人はもう一人にこう命じると、その一人は軽く頷き、外へ出て行った。
「主人！ 酒を……」カクバージに席を与えたフードの男が、酒場の主人にそう命じ、主人の手によって酒が来ると、改めてカクバージの隣の席に座った。
「本当に、ザッド殿ですか？！」カクバージはフードを被ったまま、その男に尋ねた。
ザッドは、少しカクバージから顔が見えるように、フードを半分ほど外し、カクバージが、ザッドの確認がとれたと分かった後、またフードを深く被った。
「本当にザッド殿のようですな。いきなり傀儡（くぐつ）を用いて、我が屋敷を訪ねてきた下さった時は驚きました」
「いやいや失礼いたしました。初対面のカクバージ殿と内密な話を是非したいと思いまして、傀儡（くぐつ）を使いました次第で……」
「聖王国の宰相閣下が、こんな田舎の小国の一家臣にどのようなご用件で？」
「ご謙遜すぎましょう！ カルガス國はヴェルト大陸でもナンバー三の国家。その重臣のカクバージ殿より『閣下』呼ばわりとは小生の心もくすぐられるというもの。今回はカクバージ殿に良き話を持ってまいりました」
「ほほう。それはどのようなお話ですか？」
「まあ。先ずは一献（いっこん）！」そういうとザッドは、酒が注がれている杯を少し持ち上げた。
「それでは……」カクバージも目立たないよう軽く杯をあげると、半分程度飲み干した。
「これで、親交も温まったというところで、早速、話をいたしましょう」ザッドは、小柄な身体をさらに小さくしてカクバージの耳元で話し始めた。
カクバージも、フードの中の耳をザッドの方へ傾けた。
「実は来年である龍王暦一〇五二年の一月一日に、ソルトルムンク聖王国の聖王から各国の王に書状が出されます。それは、瞬間移動の術を会得している使者が、七人の王に向け、『八カ國会談』を開催するという内容の書簡です。実際の会談は三月下旬を予定していますが、この戦乱の後の大陸のあり方を話し合う会談です」
「七人の王？ 『八カ國会談』ですか？」
「さすがはカクバージ殿。そこにお気づきになりましたか。そうです！ この戦乱がはじまる以前の数の国家の会談なのです。今は滅亡しているジュリス王国、クルックス共和国、ゴンク帝國の三ヵ國の王にも会談に参加してもらうというのが、今回の会談の特徴です。そして当然、そこから導き出せる結論は『原点回帰』。戦乱前の八ヶ國の存続です」
「なるほど……」
「今は戦時中ではないので、瞬間移動の術で大陸内ならどこにでも行けます。ジュリス王国の前王はジュリス王国内に隠居していますし、ゴンク帝國の帝王は、バルナート帝國よりゴンク帝國領の運営を任されていますので、すぐに見つけることが可能です。それにこれは内密ですが、クルックス共和国の指導者の場所も、我が國は既に把握しています」
「元共和国の首相であれば、今も共和国領内におりますが……」
「いえいえ小生が指導者と申しましたのは、『首相』という飾りの指導者ではなく、それを裏で操っている、いわゆる『共和の四主』の者たちのことです」
「共和の四主！ 彼らの居場所をご存知なのですか？」カクバージは思わず立ち上がろうとして、ザッドに手で制止された。
「そうでした。ゲリラが多発しているカルガス國の重臣としては、『共和の四主』の居場所はのどから手が出るほど欲しい情報でしたな。それは外交上の理由から今はお伝えするわけにはいきません。しかし、カクバージ殿にはいずれお伝えいたしましょう！ それよりも、実はもっと重要なことがあるのです」
「それは何でしょうか？」
「単刀直入に申し上げましょう！ 『八カ國会談』の後、カルガス國は滅びます！」
「……」あまりのことにカクバージは声を失った。
「そのような……」一分の沈黙の後、やっとカクバージが掠れたような声で呟いた。
「少し単刀直入過ぎましたな。順を追ってお話しましょう」ザッドはさらに小声になった。
カクバージとしても一言一句漏らすまいと、聞き耳を前にも増してたてた。
「先ず『八カ國会談』の後、クルックス共和国の復活が決定いたします。お分かりですかな！」
「うむ。『原点回帰』であれば、当然ですな」
「そしてジュルリフォン聖王は、クルックス共和国に働きかけ、カルガス國内でのゲリラ活動をさらに活発化させます」
「ゲリラ活動の活発化？！ 何のためにですか？」
「もちろんカルガス國を滅ぼすためです」
「カルガス國を滅ぼす？！ 何故ですか？」
「実はジュルリフォン聖王は、今回の戦役で最初から敵であったバルナート帝國や、最初からそのバルナート帝國についたミケルクスド國よりも、バクラの戦いで裏切ったカルガス國の方を非常に憎んでおられます。聖王は最初、中堅国――ヴェルト大陸で三番目の力を有しているカルガス國に多大の期待を抱（いだ）いておりました。それをバクラの戦いで負けたという最悪の状態の時に裏切られたのです。そのお怒りは小生にも計り知れません」
「それは親帝國派のデンガクとソジラールセンが強行に推し進めた故の結果。このカクバージは聖王国にお味方するように、王には申し上げたのです！」
「そうおっしゃられても、カルガス國として決めた方針ならそれがカルガス國の総意と受け取られます。少なくともジュルリフォン聖王は、カルガス國の国民を根絶やしにしたいほどのお怒りです」
「……」
ザッドはカクバージの顔を凝視し、話を続けた。
「それに対し、クルックス共和国はバクラの戦いでこそ、あまり多くの援軍を出しませんでしたが、その後、カルガス國とバルナート帝國の連合軍と戦い、去年の龍王暦一〇五〇年の三月から一〇月までという半年間以上この連合軍を自分たちに引き付けることに結果成功いたしました。そのため我が國のジュルリフォン聖王が王城マルシャース･グールを奪還する時間が与えられたのです。特にバルナート帝國の朱雀騎士団をクルックス共和国内に釘付けにしたのは大いなるクルックス共和国の功績と聖王は考えておられます。
それから、これは表向きには語られていませんが、クルックスの『共和の四主』の働きが、その後のバルナート帝國を無条件降伏させる原因の一つを作ったと、ジュルリフォン聖王は信じています。ジュルリフォン聖王は、このクルックス共和国の大善戦にカルガス國を滅ぼした暁にはその領土を、クルックス共和国に与えたいとおっしゃっていました。むろん外向きには『原点回帰』の八カ國存続なので、そのお気持ちは対外的な場では表明しておりませんが……。しかし、敗戦国であるバルナート帝國とカルガス國とミケルクスド國の三カ國の国力をこの『八カ國会談』をして、削ることができれば、我が國に対抗できる國は皆無になります。その後、聖王がカルガス國を滅ぼそうと考えれば、答えは自ずと出てきませんか！」
「ザ・ザッド殿！ カルガス國はどうすれば……。そして私はどうすれば……」重臣のデンガクと激しく争うほどの剛毅なカクバージをもってして、顔色はさすがに変らないものの、手の平には汗がにじみ出ていた。
「実はそのことで小生はカクバージ殿にお話を申し上げているのです」ザッドは先を続けた。
「先ず、小生の個人的な意見を申し上げるに、クルックス共和国という国家の復活には小生は反対なのです！」
「……」カクバージもこれにはさすがに鳩が豆鉄砲を喰らったようにポカンとなった。
「クルックス共和国！ 王という支配者を持たず、国民の自治権で國を運営する。これは王制を実施している國にとっては非常に厄介です。それは元クルックス共和国の領土を、現在統治されているカルガス國であれば良くお分かりと思いますが……」
「確かに、一旦國を運営するという権力を与えられた民を王の下で統治させるのは非常に難しい。そして、それは元々カルガス國の国民である者達にも波及する。我がカルガス國の王に不平を持つ者は、これを機会にクルックス共和国のゲリラ共と手を組み、国家の転覆を図ろうとする。我がカルガスは、肥沃な大地を持つクルックス領を手に入れたとはいえ、今だ何も利益を受けていない。長引く戦に田畑は枯れ果て、むしろゲリラの討伐に、国費は費やされ、国力、戦力共に疲弊の極みにあります」
「カクバージ殿のご苦労が忍ばれますな。小生もそのような危険な思想（共和思想）を民が持つのは反対です。何故、千年前にそのような国家ができたかは、小生には全く理解できませんが、今回の大戦により、その共和国が滅びたのですから、小生としてはこれを期にクルックス共和国だけは復活させてはいけないと考えております。むろん対外的には、クルックス共和国のみ復活させないというのは、筋が通りませんので、ある工夫が必要なのです。カクバージ殿！ それを貴殿にたのみたいのです」
「私は何をすればよろしいのでしょうか？」
「話はそんなに難しくありません。カルガス國の現王――ウィップレスト王に『八カ國会談』への出席を拒絶していただくようにお願いしたいのです」
「そ・そんなことをすれば……！」カクバージは自分が言われたことを信じられないような顔をした。
「むろん『八カ國会談』へカルガス國の王が欠席をすれば、我が聖王国のジュルリフォン聖王はカルガス國の討伐を実施するでしょう」
「そうなれば、我が國は滅亡することに……」
「そうです！ 滅亡します。当然、今回はカルガス國に味方する國は一国としてないでしょう」
「この私に母国の滅亡の手助けをせよと！」
「カクバージ殿！ お声が少し大きい！！」
「我が國を裏切るなどできません！」
「カクバージ殿。少し冷静に……。たとえ『八カ國会談』にウィップレスト王が出席したとしても、�．�ルックス共和国の復活。��敗戦国として一部地域の割譲。�Ｆ韻犬�敗戦国として膨大な賠償金の支払いが必要になります。それだけでカルガス國としては財政が破綻するでしょう。さらにジュルリフォン聖王は、カルガス國を滅ぼしたがっているというのは先程も言いましたが、つまりカルガス國の命運は長くて来年一年持つかどうかです。特に今のウィップレスト王――巷（ちまた）の噂では迷王と陰口を叩かれていますが、あの王ではカルガス國のこの国難は乗り越えることはできません。カクバージ殿もそうお思いではありませんか？」このザッドの言葉にカクバージは無言ながらも無意識に頷いていた。
「ですから……。一度カルガス國をクルックス共和国領と共に滅ぼすのです。その後、聖王には共和制の危険さを説き、クルックス共和国の復活を阻止させます。さらにカクバージ殿の影なる功績も聖王に説きますので、数年後にはカクバージ殿はカルガス國領の領主になれることを、このザッドがお約束します」
「しかし私一人の力では如何ともしがたいですが……」
「カクバージ殿には良きお仲間がいらっしゃるではありませんか！ シンキ殿とホウライダン殿のお二方です」
「さすがはザッド殿。よく我が國を調べられておられます」カクバージは改めて、この自分より小柄な男を見た。
カクバージの背中に冷たいようなものを感じ、このザッドの言うとおりしないと、自分の生きる道が無くなったような気持ちにまでさせられてきたのである。
「むろん……」ザッドがまた静かに言葉を発した。
「シンキ殿とホウライダン殿にも莫大な報奨はお約束できます。なにせ、カルガス國の領土どころかクルックス共和国の領土も手に入りますから……」
「ザッド殿。お話はよく分かりました。それで王を『八カ國会談』に出席させない何か理屈はありますかな」
「そうですなぁ〜」ザッドは思案を巡らしながら、半分呆れていた。
“そのような理由すら自分で考え出せないとは……。よくこんなので重臣の地位にいる。まあだからこそ小生のこのような幼稚な策略にも引っかかるのであろう！”
「これはいかがですか？」ザッドは心の中の思いなど、全くおくびに出さずにこう提案した。
「『八カ國会談』自体が聖王国の罠とすればいかがですか？ 前年（龍王暦一〇五〇年）のバクラの会談でコリムーニ前老聖王を暗殺された仕返しに、ジュルリフォン聖王が三國の王――三國とはカルガス國、バルナート帝國、ミケルクスド國の三國ですが、その王を暗殺して、これら三つの國の領土を全て奪おうと、聖王国が画策していると……。だからバルナート帝國のネグロハルト帝王もミケルクスド國のラムシェル王も、この八カ國会談には当然、出席を拒むであろうと……。いかがでしょうか？」
「成る程。さすがはザッド殿！ 分かりました。このカクバージにお任せください。ところで、約定といったものはいただけるのでしょうか？」
「当然です。領土分割の約定と誓約書を今、認（したた）めましょう。それからシンキ殿、ホウライデン殿への書面も一緒に認めましょう」
「ありがとうございます。ザッド殿。それで二人の説得もスムーズに行くでしょう」
「ささっ。難しい話はここまでとして……。もう一献いきましょう！ おお〜い！ 主人！！ 酒を持て！！」ザッドは大声で酒場の主人を呼んだ。
ここにザッドとカクバージの恐ろしい企てが成立したのである。カクバージがザッドのことをよく知っていれば、こんな企てに加担しなかったと思われる。ザッドにとって、領土割譲の約定や誓約書などただの馬皮紙の紙切れの約束に過ぎないからである。
約束というものは両者の力が均衡しているか、強者が守るつもりがあればこそ守られるものである。超大国の宰相（ザッド）と、國を失った一家臣（カクバージ）では、ザッドの思惑次第でいくらでも約束は反故にされるということを、愚かにもこの時のカクバージは全く気づかなかったのである。 カクバージはこの時、自身の死刑執行の書類にサインをしてしまったのである。
〔参考一 用語集〕
（龍王名）
難陀（ナンダ）龍王（ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅）
跋難陀（バツナンダ）龍王（フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営）
沙伽羅（シャカラ）龍王（ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営）
和修吉（ワシュウキツ）龍王（クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営）
徳叉迦（トクシャカ）龍王（ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営）
阿那婆達多（アナバタツタ）龍王（カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営）
摩那斯（マナシ）龍王（バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する）
優鉢羅（ウバツラ）龍王（ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される）
（神名・人名等）
ウィップレスト王（カルガス國の王）
カクバージ（カルガス國五賢臣の一人）
コリムーニ前老聖王（ソルトルムンク聖王国の前王。故人。四賢帝の一人）
ザッド（ソルトルムンク聖王国の宰相）
ジュルリフォン聖王（ソルトルムンク聖王国の聖王）
シンキ（カルガス國五賢臣の一人）
ソジラールセン（カルガス國五賢臣の一人）
デンガク（カルガス國五賢臣の一人）
ネグロハルト帝王（バルナート帝國の帝王。ロードハルト前帝王の息子）
ホウライダン（カルガス國五賢臣の一人）
ラムシェル王（ミケルクスド國の王。四賢帝の一人）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国。第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國。金の産地）
カルガス國（北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多（アナバタツタ）の建国した國）
ミケルクスド國（西の小国。第五龍王徳叉迦（トクシャカ）の建国した國。飛竜の産地）
クルックス共和国（南東の小国。第四龍王和修吉（ワシュウキツ）の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している）
ゴンク帝國（南東の小国。第三龍王沙伽羅（シャカラ）の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ。今は滅亡している）
ジュリス王国（北西の小国。第一龍王難陀（ナンダ）の建国した國。馬（ホース）の産地。今は滅亡している）
（地名）
マルシャース･グール（ソルトルムンク聖王国の首都であり王城）
（兵種名）
（付帯能力名）
（竜名）
（武器名）
（その他）
共和の四主（クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫（れいき）、炎の童子、山の導師の四人）
朱雀騎士団（バルナート帝國四神兵団の一つ。故ナンダが軍団長）
バクラの戦い（龍王暦一〇五〇年三月のバルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利）
〔参考二 大陸全図〕
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