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2012年12月15日14:01

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〔小説〕八大龍王伝説 【234 ワシュウキツの城】


 八大龍王伝説


【234 ワシュウキツの城】


〔本編〕
「うぅん! これは重体だな!」八大龍王第四龍王のワシュウキツは、シャカラの身体を隅々まで指診した後、困ったような顔をした。
 バツナンダとシャカラをバルナート帝國領の地下で拾い、十日間ほどかけてやってきた――ワシュウキツからすれば戻ってきたクルックス共和国領の地下で、ワシュウキツは初めてシャカラの様態を詳しく観察したのである。
「ワシュウキツ殿。貴殿には重体かどうかということがお分かりになるのか?」
「うむ。大地を司(つかさど)るワシュウキツという龍王は、生き物や物の修復や再生を得手としている龍王なのだ!」バツナンダの問いにワシュウキツはそう答えた。
「シャカラ様はかなり悪いのですか?」横からレナがワシュウキツに問いかけた。
「うむ。アナバタツタの矢には或いは治癒を遅らせる能力があるのかも知れぬ。とりあえず心臓は無事なので、死ぬことはないと思うが……。半年は完治にかかるであろう。またアナバタツタからの襲撃の前に、バツナンダとの死闘を繰り広げたこともこの重体の一因であろう。とにかく半年は安静にしていなければならない」
「そんな……半年もかかるのか?」
「それは仕方あるまい。普通の人間では再起不能になっていたぐらいだ。完治できるのですら僥倖(ぎょうこう)であると考えるべきだ。それにバツナンダ! お主もシャカラと死闘を演じたのだ。普段の生活には支障はないが、それでも最低、三月(みつき)はここで養生すべきだな。いずれにせよシャカラとバツナンダの両龍王が戦線に復帰できるまで、何事も始められない。まあ案ずるな! ここはわしの最強の結界内だ!! 何者もここに攻め込むことは不可能だ。実際にこの場所をつきとめるのも長い年数がかかるというもの。安心してゆっくりしていろ」ワシュウキツはそういうと巨竜(バハムート)を繋いでいる綱を、尖った岩の一つに結びつけた。
 実をいうと、バツナンダはこの辿り着いた場所を見上げ、唖然(あぜん)としていた。地面の地下であるのは間違いないが、そこは百メートル以上の高い天井で、どこから明かりが漏れているのかほんのり緑色の暖かい色に包まれている。そして、白い巨大な岩により、城と見まがうばかりの巨大な建造物が建っている。バツナンダの知っている帝都ドメルス・ラグーンの王城の部分と比較してみても大差がないほど荘厳な建造物である。
「気に入ったか! バツナンダ!! これはわしが作った城だ!!」
「あなたがですか?! 一人で?!」
「そう驚くほどでのことではない。物を創造する能力はわしの最も得意な分野だ。まあこの城でゆっくり休め。シャカラが回復しないことには、こちらも次の段階に進めぬ!」
「分かりました。ワシュウキツ殿」
「ところでお前たち(バツナンダとシャカラ)の武器や防具はどのような状況なのだ?」
「私の武器は全て私の鎧から作り上げますが、それは『隠し場所』から『写し現し(うつしあらわし)』で、私のところに現存させていました。しかし、シャカラとの戦いで粉々になりましたから、修復は不可能です。おそらくシャカラの鎧も同じく『写し現し』で現存させていたのだと思われますがやはり修復は不可能と思います。そしてシャカラの武器の二本の斧は、どうやら『取り寄せ(とりよせ)』していたのであると思われます。長い方は私が持っています 短い方はシャカラが持っていると思います。『取り寄せ』を戻していなければの話ですが、戻していたら、シャカラが、気がつくまで『取り寄せ』は無理でしょう」
「まあいずれにせよ『隠し場所』が見つかる可能性はほぼゼロだ。短い方は気づかなかったなぁ〜。鎧の草摺りにはこの二本の短刀(クルツシュナイデ)しか見つからなかったが……」
「お話中申し訳ございません。『隠し場所』とか『写し現し』とは何のことなのでしょうか?」バツナンダとワシュウキツの話に一人の男性が入ってきた。
「おおステイリーフォン聖王子殿。すっかり『どもり』の方は良いようですな」
「ワシュウキツ様のおかげです。すっかり大丈夫になりました。ありがとうございます」
「聖王子殿の場合。幼少期から青年期の精神的な原因もあったため、少し治療に長引きましたが、それをよく克服されましたな! 良かった。良かった」
 読者諸君はこの青年を覚えておられるだろうか? 黄金の仮面を被らされた『どもり』の酷(ひど)かった青年を……。今ではワシュウキツのこの城で人間らしい暮らしをして、ワシュウキツによる治療で『どもり』も完治したのである。
「ステイリーフォン聖王子殿!」バツナンダが話しかけた。
「貴方の身の上は道中、ワシュウキツから聞きました。大変な苦労をされたようですな。そして今も生きていてはいけない存在として、ここ(地下)で暮らさなくてはいけないとは、実に不憫(ふびん)だ!」
「バツナンダ様。お心遣いありがとうございました。しかしご安心下さい。わらしは、いまは幸せです。ワシュウキツ殿はすごく親切ですし、カリムとレナ様もここには一緒です。特にハクビ様の笑顔は、何ものにも勝る宝です」
「ハハッ! まだ『わらし』だけは治ってはいないが……。それはステイリーフォン聖王子殿の個性かもしれませんな! カリムという伴侶も得ましたし……。おっと話が脱線しましたな。ステイリーフォン聖王子殿も共に話に加わって下され。え〜と、『隠し場所』と『写し現し(うつしあらわし)』とそれから『取り寄せ(とりよせ)』についてでしたな」ワシュウキツはそう言うとステイリーフォン聖王子も交えて話しを続けた。
「『写し現し』と『取り寄せ』は、もともとは神の域にあたる付帯能力(アドバンテージスキル)の『物体転移スキル』にあたる。人の能力で言えば、近くは目の前のものから、遠くは何十キロメートル離れた物質を自分の手元に引き寄せる能力だが、神の域では、何万キロメートル以上の距離を、空間、時間を飛び越えて瞬時にその物体を自分の前に取り寄せることができる。これが『取り寄せ』である。物体そのものをその場に取り寄せるのでこれは非常に分かりやすい。それに対して、その物質のある位置を変えずに、その物質の能力のみを投影という形で現すことも神にはできるのだ。これであれば、『取り寄せ』と違って、いつも持ち歩いたり、目の前に置いておいたりする必要はなく、それも瞬時に出現させることが可能なのだ。それが『写し現し』という。
 むろん、『写し現し』も基本、本物と寸分違わぬモノなので武器も防具も扱うのになんの支障もない。さらにいうと防具などが敵の攻撃により破損させられた時は、空間軸を超えて、投影されている防具にも、外的干渉として同じ状態で破損させられるのだ。ステイリーフォン聖王子殿はわしと一緒に、シャカラによってナンダが倒された時の一部始終をここで見たであろう。あの時、ナンダ自身の消滅は、神という存在が死んだ場合の『消滅』という現象だが、鎧などの武具の消滅は『写し現し』で存在していたので、ナンダにそれを継続するだけの力がなくなったために消滅が起こった。逆に槍や炎馬がその場に残ったのは『取り寄せ』によって、地上界に実際に存在していた証なのだ。
 最後の『隠し場所』というのは、それぞれの神が、他の神に絶対に見つからないような文字通り隠し場所のことで、それは地上に限らず、それぞれの付帯能力の『陣地作成スキル』などに結界などを作り、そこに武器や鎧といったものや、宝物に至るまで隠されている。この『隠し場所』を他の者に察知されるということは、自身の生命が危機にさらされているのと同義である場合もある。例えば、不死の呪いを自身にかけた者などは、その『隠し場所』に自分の生命を隠している場合があるからだ。王子、こんなところですな」
「ありがとうございました。すみません。貴重なお話の時間を削って……」
「いえいえお気になさらずに……。聖王子殿。それでワシュウキツ。話を戻すが、シャカラの短斧は見つからないのか。確かに、二人(バツナンダとシャカラ)で帝都から脱出した時には、あったはずだ! そうなるとアナバタツタの襲撃を受けた時か? 或いはその草原の地下か? 全く……覚えていない。シャカラに意識が戻れば、それこそ『取り寄せ』ですぐ見つけられるのに……」
「アナバタツタに奪われていたら、そう簡単ではないぞ!」
「いやそれは大丈夫と思う。シャカラの武器は、シャカラによる強力な結界が呪式によって幾重にも張り巡らされている。よほどの結界解除か妨害でもない限り、アナバタツタの手にあったといえども、『取り寄せ』で問題ないはずだ!」
「しかし、そうはいっても相手は神だ! 早めに策を講じた方がいいのは確かだ!」
「わらしがアナバタツタ殿の交渉してみましょうか?」この言葉にバツナンダとワシュウキツはすごく意外な顔でステイリーフォン聖王子の顔を覗き込んだ。
「王子には何か妙案があるのですか?」ワシュウキツがステイリーフォン聖王子に尋ねた。
「いえいえ。ただ神よりも人の方が相手も警戒心を解くかなと思いまして……」
「う〜ん。それは案外良いかも知れない……。よし!」ワシュウキツは言葉を続けた。
「バツナンダはここで休みをとってくれ! 王子とお前達(バツナンダとシャカラ)がいた先程の場所に戻って短斧を探してくる。地下に無ければ、地上の草原を探し、それでもなければステイリーフォン聖王子にアナバタツタに短斧返還の交渉を行ってもらう。それでバツナンダとシャカラに泊まってもらう場所だが……」少しワシュウキツの声のトーンが下がった。
「シャカラの部屋なのだが……。レナの要望で同室にしたいそうだ。構わぬかのバツナンダは……」
「別に構わない! シャカラとレナは夫婦なのだから……」バツナンダはその内容よりワシュウキツの気の使い方の方に少しムッときていた。
「そうか。よかった。じゃあゆっくり休んでくれ。なるべく早く戻る」そう言うと、城の中に入り、レナとカリムに一部始終を話した後、ステイリーフォン聖王子のみを連れて、バツナンダとシャカラのいた場所へ戦車で戻っていった。
 結果的に、ステイリーフォン聖王子とアナバタツタが交渉する場面はなかった。シャカラの短斧は、バツナンダが地下に水と一緒に潜る際に、途中の地面に引っかかっていたからである。
 これから約半年間。シャカラが完治するまで、バツナンダもワシュウキツの城で休暇をとっていた。最初はよそよそしかったレナやカリムも、バツナンダとの共同生活の中、次第に打ち解けてくるようになった。それでも、レナは少しシャカラの件で意識しているのか、バツナンダとの会話で若干の緊張が見て取れるが……。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営からウバツラ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリム(元ハクビ小隊の魔兵)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ステイリーフォン聖王子(ジュルリフォン聖王の双子の弟)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)
 レナ(シャカラの妻。マークの妹)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 クルックス共和国(南東の小国。第四龍王和修吉(ワシュウキツ)の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している)

(地名)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)
 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界
 物体転移スキル(十六の付帯能力の一つ。物体を別の場所へ移動させる能力。一部分だけを他の場所へ瞬間移動させることも可能)

(竜名)
 バハムート(十六竜の一種。陸上で最も大きい竜。『巨竜』とも言う。また、単純に竜(ドラゴン)と言った場合、バハムートをさす場合もある)

(武器名)
 クルツシュナイデ(シャカラの隠し武器。『短い刃物』という意味)
 短斧(シャカラの得物の一つ。短い柄の戦斧)
 長斧(シャカラの得物の一つ。文字通り長い柄のついた戦斧)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
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