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2012年09月15日13:49

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〔小説〕八大龍王伝説 【221 覇王ロードハルト帝(六) 〜王神問答〜】


 八大龍王伝説


【221 覇王ロードハルト帝(六) 〜王神問答〜】


〔本編〕
「さて、バルナート帝國の前帝王であり四賢帝の一人でもあるロードハルトよ! お前に問いたい!!」シャカラはわざわざ長ったらしい呼び方でバツナンダの後ろにいるロードハルトに問いかけた。
「先程は、時間が全くなくて問いかけることが不可能であったが、役者がそろって最終局面に入った今、その時間ができたと僕は考える。ロードハルトよ! 僕の問いかけに願わくは答えてもらいたい!!」
「そうだな……」ロードハルトは口についた血を拭い、立ち上がりながらバツナンダと一瞬、目を合わせた。
 バツナンダのそれに対する了承を意味する無言の頷き。小型竜(ドラゴネット)の『カイザー』に騎乗したバツナンダとすれば、手に持っている武器を投影し直す間の時間が少し欲しかったのである。
「よかろう。八大龍王第三龍王にあたる沙伽羅(シャカラ)龍王よ! そなたの問いに答えよう!!」ロードハルト前帝王も持って回したような長たらしい名でシャカラに答えた。
 シャカラは内心ホッとした。バツナンダも時間が欲しかったようにシャカラも時間稼ぎが必要だったのである。その理由は三つある。
 一つは現在、バツナンダ大河を渡河中のグラフ将軍の動向である。シャカラとバツナンダの戦いがまた『千年戦闘』のような状態に陥ったとき、バルナート帝國帝王と前帝王をこちら(ソルトルムンク聖王国)側で、確保したい。その要素としてグラフ将軍と将軍が率いるまとまった軍勢が帝都を占拠するという形をとる必要がある。それによりバツナンダを倒すことなく、勝利を得ることができるのである。
 後の二つの理由はシャカラ自身の体のことである。一つはバツナンダ大河での戦いの折、二本目の真紅の矢の破裂による右半身に受けた数十の傷のことである。二本目の矢の破裂によってつけられたこれら多数の傷は、距離があったことによりシャカラの致命傷とはなり得なかったが、鎧が損壊している状態での攻撃だったので、直接皮膚に、一センチメートル程度の深さで破片が突き刺さったのである。
 シャカラはその傷が誰にも悟られないように、一種の幻覚の術式で、右半身の傷を見えないようにして、併せて治癒の術式でその治療をしていたのである。バツナンダにも悟られないレベルの治癒の術の行使であったため、後五分ほどは時間が必要であった。
 そしてもう一つは、ロードハルトと戦った際の右手首をつかまれ、捻られたことによる手首の負傷の治療であった。信じられないことではあるが、人であるロードハルトが神であるシャカラに負傷を負わせたのである。おそらくロードハルトの体に、宰相のマクダクルスあたりが筋力増強の術でもかけたのであろう。ロードハルトの右手に握られたシャカラの右手首は、その時の投げと連動して、捻ったのである。
 シャカラがもう少し気づくのが遅くて、投げられるのを拒んだ場合は、手首の間接と筋の両方が使い物にならなくなっていたと考えられる。神であっても油断をすれば、人によって傷つけられるという好例であろう。
 しかし、大事には至らなかったといっても、やはり右手首に違和感は残る。それを完治させるにはやはり五分から十分程度の時間は必要であった。
「それでは問う!」シャカラは重々しくそう言うと言葉を続けた。
「単刀直入に聞く! ロードハルトよ! 何故、ソルトルムンク聖王国前聖王コリムーニ老聖王を死に至らしめた!」
「余はコリムーニ殿を害してはいない!」ロードハルトは即答した。そしてこう話を続けた。
「余は恒久的な平和のため、コリムーニ殿とどうしても同盟を結びたかった。コリムーニ殿の死は余にとっても大いなる損失であった」
「では……」シャカラの問いが続く。
「誰がコリムーニ前老聖王を害したというのか?!」
「余が知っているとでも考えているのか? シャカラ殿は!」
「……」シャカラは何も言わなかった。
「それでは……」シャカラは数秒してまた声を発した。
「コリムーニ前老聖王はどのようにして亡くなったのだ?」しばし沈黙があった後ロードハルトが答えた。
「余とバクラの地で会食をしているとき、急に苦しみながら倒れられたのだ。一瞬の出来事であった」
「毒殺か!」
「しかし、食事の料理や食器に至るまで全て調べたが、毒物は検出されなかった」
「それがバルナート帝國側の見解か?」
「いや。その場に居合わせたソルトルムンク聖王国の者もその件については共に確認をした」
「しかしジュルリフォン現聖王は、コリムーニ前老聖王の死をきっかけにバルナート帝國に宣戦を布告した。何を根拠に?」
「それは神(シャカラ)が、聖王ご自身に尋ねるべきことであろう」
「確かに。この戦争が終わったら僕が直接ジュルリフォン聖王に尋ねよう……。それでもう一つだけ聞きたい!」シャカラの問いが続く。
「コリムーニ前老聖王を殺して誰が得をする? ロードハルト……どう思う?」
「……」これにはロードハルトはすぐに答えられなかった。
「僕はマナシが得をすると考えている」
「マナシとは? 余のバルナート帝國の建国神であられる第七龍王の摩那斯(マナシ)龍王のことか?」
「他にマナシがいるか?! ロードハルトよ!!」ロードハルトの問いにシャカラは間髪入れずに答えた。
「何を馬鹿な!」バツナンダが声を出しかけたが、ロードハルトが手で制して言葉をつむいだ。
「それは知性の神と知られる沙伽羅(シャカラ)龍王殿の言葉とは俄(にわか)に信じがたい。余の國は聖王国の描いていた七カ国連合の前に潰(つい)えるところであったのだ。自分の建国した國(バルナート帝國)の滅亡になるような事柄を神(マナシ)がするとは、余には考えられないが……」
「それは四年前の龍王暦一〇四七年に、ナンダ、バツナンダという二人の八大龍王を派遣している事から明らかだと思うが……。二人の八大龍王を配下にすれば、例え最悪の『七カ国連合』が敵として誕生したとしても、勝算はあるのではないかな?」そう言うとシャカラは開いている左手で自身の左の白い眉を撫でた。
「そしてマナシはバルナート帝國単一国家によるヴェルト大陸の統一を実現し、天界と地上界の二つの世界に己の拠点を築こうとしていると、僕は考える。最終的にはバルナート帝國の帝王すら除いて……。自分か或いは自分の腹心を帝王にする腹ではないかと……」
「何のためにだ!」バツナンダは思いあまってまた言葉を発していた。シャカラに対して詰問をするような鋭い語調であった。
「天界の八大龍王の治める八龍世界と地上界のヴェルト大陸の地の兵を動員すれば、僕等の伺いしれない地上の下の闇の世界をも手に入れることができるのではと考える。そうして地盤を築きつつ、最終的には上位の神々である仏陀(ぶっだ)にも対抗しようとしているのかもしれない。これは僕の推測の域を出ないが……」
「ハッハッハッ。シャカラ殿!」ロードハルトが笑いながらシャカラに話しかけた。
「シャカラ殿には今日、初めて相見える栄誉を賜ったが、これほど想像力。……というか妄想力の豊かな神であったとは……」そこまで言うとロードハルトは真面目な顔に戻り、続けて言葉を発した。
「シャカラ殿。御身の考えは間違いである! 御身は絶対的存在の神故、悩むということがほとんど無いかもしれないが、余を始めとする人という存在は、その存在自体すら微々たるモノである故、大いに迷う。しかし、そういった中でも人が脆い故に持てるモノがある。それが信じるという行為だ! 余は四十数年しか存在していない身。それでもその中で建国神のマナシと接して、マナシは信じるに足る存在と確信した。故にもう一度いうが、シャカラ殿! 御身は間違っている。御身がその間違いに気づき、マナシと余の陣営に加われば、全てが解決する。シャカラ殿! 余の軍門に下ってはどうかな?」
「……」シャカラは答えなかった。いや、真っ白いシャカラの神顔(しんがん)が紅く紅潮している。シャカラは震える唇でボソリと呟く。
「たかが人間風情が……。神に対して説教か!」シャカラは激怒していた。
 長斧を持つ右手が小刻みに震えている。ロードハルトはシャカラを揶揄(やゆ)したわけではない。むしろからかっているのであれば、まだシャカラとしても聞き流すことができた。しかし、ロードハルトは至極真面目にシャカラに自分の軍門に下れといってきたのである。そしてシャカラ自身が間違っているとも言った。これがシャカラの逆鱗に触れたのであった。
 後世の歴史家達がこの時のロードハルトの『軍門に下れ』といった言葉が本気なのかどうなのかで議論している。 結論がどうであれ『本気』であれば、それはロードハルトの実直さの表れであり、シャカラを怒らすための『フェイク』であれば、それはロードハルトの深慮遠謀さの表れであるので、いずれにせよロードハルトという一個人の人間性の高さを示す一端だと言えよう。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カイザー(バルナート帝國お抱えの小型竜。『皇帝(カイザー)』の名を持つ)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 コリムーニ前老聖王(ソルトルムンク聖王国の前王。故人。四賢帝の一人)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ジュルリフォン聖王(ソルトルムンク聖王国の聖王)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長。故人)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)
 ロードハルト前帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)

(その他)
 四賢帝(当代の四人の優れた王の総称)
 千年戦闘(神同士の決め手が無い故の膠着した戦いのこと。千年間膠着することからこの名がついた)
 七カ国連合(ヴェルト大陸の八國のうち、バルナート帝國を除いた七國の連合軍。ソルトルムンク聖王国が構想したが結局は机上の空論に終わる)


〔参考二 大陸全図〕
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