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2012年09月08日12:25

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〔小説〕八大龍王伝説 【220 覇王ロードハルト帝(五) 〜揃(そろ)う〜】


 八大龍王伝説


【220 覇王ロードハルト帝(五) 〜揃(そろ)う〜】


〔本編〕
 バツナンダは、左手に太陽神アポルゥンの『太陽の弓(ソネーボーゲン)』を持ち、右手に騎神ケントュースタスの『自由の手綱(フライハイトツューゲル)』の強化版である『蒼き手綱(ブラスツューゲル)』を持っていた。そしてその他として、バツナンダの麗しい唇には一本の真紅の矢が咥えられていた。
 よく見ると仁王立ちしているバツナンダの鎧は亀裂がそこかしこに入り、蒼かった鎧の色は白く濁った色になっていた。
「あの天井の大爆発とここの床を吹き飛ばしたのも、伝説の武器の一つなのか?」
「……」バツナンダは、シャカラを見据えたまま答えようとしなかった。
 むろん唇に矢を咥えているので言葉は出せなかったのは当然だが……
“種を明かすことで、こちらに先んじられるのを警戒しているな!”シャカラはそう考え、一つの結論に辿り着いた。
“どうやら今のバツナンダの鎧では、武器を投影することは無理だと思える。わざわざワイヴァーンから手綱(蒼き手綱)を外してきたところからそれが推測できる。そう考えれば、口に咥えている矢を含めてバツナンダの武器はあと三つ。ロードハルトは仕留め損ねたが、まだ勝機は充分にある”
『カリウス……。呼び寄せるぞ!』
『いいぞ! マスター(シャカラのこと)!!』シャカラの天声に対して、カリウスが天声で答える。
 一瞬の出来事であった。謁見の間に新たな客として白き小型龍(ヴァイスドラゴネット)のカリウスとそれに騎乗している龍人(ドラゴノイド)のソヤが現れた。
 付帯能力(アドバンテージスキル)の『物体転移スキル』である。人の領域での物体転移は、自分の近くへ物を呼び寄せる程度の能力で、遠くの物体を呼び寄せるときには当然、それが移動する時間を要し、自分と呼び寄せるモノの間に遮蔽物などがあると、呼び寄せることが不可能になる。しかし、神の領域での『物体転移スキル』は、時間も空間も飛び越えて瞬時に――遮蔽物の有無に係わらず――自分の元に呼び寄せることが可能なのである。
 バツナンダもそれに対してすぐに行動を起こした。行動を起こしたといっても、蒼き手綱(ブラスツューゲル)を持っている右手を挙げただけであった。それでも、すぐに一頭の小型竜(ドラゴネット)が、物体転移スキルによって謁見の間に呼び出された。
 褐色の肌を持つカリウスより一回り大きい小型竜(ドラゴネット)であった。
「皇帝(カイザー)!」現皇帝ネグロハルトの言葉。
「帝王。『カイザー』をお借りします!」ロードハルトの方を向いたバツナンダがロードハルトにそう問いかけた。
「バツナンダ。既に余は帝王ではない。帝王はそこにいるネグロハルトだ!」ロードハルト前帝王は苦笑しながら、自分の息子であるネグロハルトを指差してそういった。
「では。ネグロハルト帝王。よろしいですな」バツナンダは、今度はネグロハルトの方を向き、問いかけた。
「バツナンダ。許す! 『皇帝(カイザー)』を使用し、シャカラを破れ!」
「承知した!」
 この一連の会話で『皇帝(カイザー)』とは、この謁見の間に最後に現れた大柄な小型竜(ドラゴネット)のことだと、そこにいる誰もが一様に理解した。
 バツナンダの蒼き手綱(ブラスツューゲル)を大きなその顎に装着されたカイザーは、みるみる皮膚の色が蒼くなっていき、それに併せて気質も大きく変化させた。
 その気質の大きさに帝王のネグロハルトは軽い眩暈(めまい)を起こし、倒れそうになったぐらいであった。
「帝王! 大丈夫ですか?!」
「うむ。大事ない!」宰相のマクダクルスにからくも支えられたネグロハルトは気丈にも、気持ちを正常に立て直した。
「フン! カイザーとやら……。その程度の『気』で私と立ち合おうというのか。笑止! 笑止!!」この女性の鋭い声に、カイザー(小型竜)によって支配されかけた気が破られた。
 それはカリウスの声であった。白い小型龍(ヴァイスドラゴネット)として、小型竜及び小型龍の中で『天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)』を唯一、貫いた存在の龍である。
 強化されたとは謂え、たかが地上界の一小型竜(ドラゴネット)如きに、遅れをとるわけにはいかない。そのカリウスの自負が、カイザーの強烈な気を打ち破ったのである。それを見たシャカラは、二度三度とカリウスの首筋を無言で叩き、カリウスに騎乗した。
「マスター(シャカラのこと)! これを!」
「おお。ソヤ! 見つけてくれたのか!」シャカラはそう言うとソヤから差し出された短斧を左手に一度持ち、カリウスの首筋に装備されている鞘の中に戻した。
 シャカラの方は最後の戦いにおいて全ての準備が整った。
 両手に持っている長斧。カリウスの首筋に装備された短斧。シャカラの第三の武器と言われる『短い刃物(クルツシュナイデ)』――バサラ製が二本と金(ゴールド)製が一本。
 うちバサラ製の一本は金属疲労を起こしているため、金(ゴールド)製のクルツシュナイデと今は強度に大差がない。それでも、武器は一本でも多い方がいいし、今のバツナンダの鎧は激しく破損しているので、金(ゴールド)の武器でも、十分殺傷能力は期待できる。――それは、シャカラも同条件ではあるが……。
 さて、シャカラは帝都ドメルス・ラグーンに突入した際にはクルツシュナイデを左手に一本持っていたが、前帝王ロードハルトと対決する時には、武器は長斧しか持っていなかった。帝都に攻め入っている際に、長斧一本で十分突破できると判断したからであろう。とにかく、クルツシュナイデは今、全て臀部(でんぶ)の鎧の草摺りに三本とも装着している。
 本来のシャカラの『第三の武器』であるクルツシュナイデの装備仕様は四本。そのうち二本が両肩で、二本が腰に装着しているスカート状に纏う防具である草摺りの左右に装着している。しかし、それはシャカラが使用しやすいように装着しているだけで、肩に装着しなくてはいけない訳ではないし、腰に四本全部装着することも可能なのである。
 バツナンダはここまでの戦いで、シャカラがクルツシュナイデを肩や腰の草摺りの部分から取り出すのを見ている。 当然、一連の動作から肩がメインで腰は二次的な装備とシャカラに知らず知らずの間に思い込まされているとも考えられる。もし、仮にバツナンダが思い込んでいたとしたら、それは危険である。
 決定的な危機とはいえないが、ギリギリの局面でその思い込みは、相手――シャカラに主導権を握られる可能性も否定できない。それを組み込んだ上での、謁見の間におけるシャカラのクルツシュナイデの秘匿と、三本を全て第二次的装着部位と考えられている腰に部分に誰にも知られないように装備したのである。
 シャカラの『用意周到さ』或いは『いやらしさ』ともとれる彼独特の戦術的戦法の一つと言えよう。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 アポルゥン(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる太陽神。後世のギリシアにおけるオリンポス十二神の一人アポロンの原型とも謂われている)
 カイザー(バルナート帝國お抱えの小型竜。『皇帝(カイザー)』の名を持つ)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 ケントュースタス(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる騎神。ケンタウロスの原型と謂われている)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王。ロードハルト前帝王の息子)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ロードハルト前帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)
 付帯能力(ごく一部の者にだけそなわっている能力。全部で十六ある。『アドバンテージスキル』ともいう)
 物体転移スキル(十六の付帯能力の一つ。物体を別の場所へ移動させる能力。一部分だけを他の場所へ瞬間移動させることも可能)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)
 ドラゴネット(十六竜の一種。人が神から乗用を許された竜。『小型竜』とも言う)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
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