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2012年09月01日21:38

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〔小説〕八大龍王伝説 【219 覇王ロードハルト帝(四) 〜神を超える(後)〜】


 八大龍王伝説


【219 覇王ロードハルト帝(四) 〜神を超える(後)〜】


〔本編〕
 ロードハルトの驚愕の体捌きがさらに続く。ロードハルトの右足がシャカラの懐深い付近の大地を踏み込む。その右足のつま先はシャカラの胴体の方を向いておらず、シャカラの左足の方を向いていた。
 踏み込んだ右足のうち一番シャカラの体に近いのがシャカラの左の踵(かかと)という位置であった。その踏み込んだ右足は、それまでの前進の方向(ベクトル)を一気に、下降への方向(ベクトル)に大きく変化させたのである。
 そして、素早く右足に揃えるように踏み込んだ左足は、強く地面を踏みしめたかと思うと、腰と膝(ひざ)と踵(かかと)のばねの力を使い、大きく上に跳ね上げた。この時、ロードハルトの重心は右足から左足へと移っていたのである。このロードハルトの両足の動きに、シャカラの懐(ふところ)に接触したロードハルトの右肩は、そこを基点にシャカラを持ち上げた。……と同時にシャカラの左手首を握っているロードハルトの左手は、自分の方へ捻(ねじ)るように引っぱったのである。
 シャカラの体は、ロードハルトの体の上に乗っかった形となり、大きく弧を描いて投げられたのである。例えれば、現在の柔道の『背負い投げ』のような型の投げであろう。もしシャカラが無理に投げられないようにしようと頑張れば、捻られている左手首が捻じ切れていただろう。
 ロードハルトとシャカラの攻防はまだ続く。ロードハルトはこの投げ技でシャカラの体に接触してから一度も体を離さなかった。体を離すということは、敵(シャカラ)に反撃の糸口を与えてしまう。そのため、ロードハルトの投げは、シャカラを投げた後も体を接触させて投げの方向へ自分も回転していた。
 そしてこのまま接触したままでは、シャカラの上にロードハルトが乗っかった状態で二人仰向けのまま、地面に激突する。ロードハルトの敵が人であれば、それでよかった。投げにより大地に叩きつけられ、さらに百キログラムのロードハルトの体重を投げられた者が全身で受けるのである。
 この帝王の攻撃を受けて生きていられるのは玄武兵団の故ヴァウガーぐらいであろう。しかし、シャカラは人ではない。このような技だけで倒せるとは思えない。ロードハルトは投げて、仰向けの態勢になろうとした時に、剣をもっている右の肘でシャカラとの隙間をあけたのである。それからのロードハルトの動きは、さらに早くなった。
 右の肘に力を込め、そこを軸として、体を百八十度捻り、シャカラと対面する俯(うつぶ)せの状態になったのである。そして、重力に反し、上半身を起こし、シャカラの胸に向かって『猛虎の剣(ティガーシュヴェーアト)』を突いた。当然、両手が自由になっているシャカラが何もしないとは考えにくい。
 ロードハルトの首をはねるか……。或いは胴を切り裂くか……。
 しかしそんなことはどうでもよかった。自分が死んでも、ネグロハルトが残れば……。とにかく猛虎の剣は神々によって造られたバサラ製の武器である。シャカラがバサラ製の武装をしているのであればともかく、今はバツナンダとの戦いにより、鎧は砕け散っている。とにかくシャカラの隙をついた人としての最上級のロードハルトの奇襲であった。
 シャカラの命を奪えるのであれば、それに勝る喜びはないが、そうでなくても、ロードハルトの剣への防御でシャカラの腕一本ぐらいは機能を失わせそうである。ロードハルトは今、神の隙をついたことによる勝利――ロードハルトの考えている勝利――を、全身の燃え上がるような歓喜の中で、シャカラと相対しながらかみしめていた。
「決まった!」思わず父親の動きにネグロハルト帝王が叫んだ。
「ズーン!」鈍い音がしてシャカラとロードハルトの体は重なり合って地面に叩きつけられた。
 叩きつけられたところの床が砕け、砂塵で一瞬シャカラとロードハルトの二人の姿をかき消した。しばらくして砂煙は治まった。
「フッ。やはり簡単には殺(や)らせてはもらえないか」ロードハルトの呟きである。
 両手でシャカラの胸に向けて突き入られたロードハルトの剣――猛虎の剣(ティガーシュヴェーアト)は、シャカラの畳まれた両足の膝(ひざ)によって受け止められていた。膝によるいわゆる『真剣白羽どり』である。この体勢が一秒ほど続いた。シャカラの畳まれた足は剣を挟んだまま、膝から下の部分を上に跳ね上げ、両足の踵でロードハルトの分厚い胸を蹴り上げた。膝で剣を固定されているロードハルトは、半回転をしてシャカラの頭の方角の一メートル程向こうの地面に、背中を激しく叩きつけられた。
 やはり今の柔道の『巴(ともえ)投げ』のような技である。
「グッ!」ロードハルトは顔をしかめた 胸部への蹴りと、背中を打ったことによる脊柱への衝撃に、ロードハルトの手の指から力が抜け、猛虎の剣を取り落としたのである。
 いくら胸甲をつけているとはいっても、ロードハルトの肋骨は、これで砕けただろう。その砕けた肋骨が肺につきささったらしい。ロードハルトの口からは鮮血がほとばしった。シャカラはロードハルトを投げ上げた足の動きの反動を利用して、左に捻りながら半身を起こした。
 決着は着いた。
 すぐにでも、仰向けになっているロードハルトに近づき、シャカラがとどめをさすのかと思いきや、シャカラは後方に十メートル程度大きく跳んだ。
「一歩遅かったか!」シャカラの跳んだ時の呟きである。その同じ瞬間。
「ズガガガァァァ〜!!」という大音声と共に、謁見の間の高い天井の一部が粉砕し、今の今までシャカラがいた場所の半径二メートル範囲に、現代の『絨毯(じゅうたん)爆撃』のような凄まじい攻撃が展開され、その範囲の床を粉々に砕き、三十センチメートル程度の床をえぐったぐらいであった。
ロードハルトが仰向けになっている頭のほんの数センチの位置での出来事であった。再び靄にも近い砂塵が舞い上がる。ネグロハルトや帝國宰相マクダクルスのいる位置からは、その砂煙でロードハルト前帝王は見えない。砂煙の外側で見ることができるシャカラも片膝の体勢で、長斧を握って微動だにしない。
 砂煙はやがて治まってきた。そこには膝をついているロードハルトと、そのロードハルトを庇(かば)うような位置に一人の女性が立っていた。
 特筆するまでもない。バツナンダである。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 ヴォウガー(バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長。故人)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ネグロハルト帝王(バルナート帝國の帝王。ロードハルト前帝王の息子)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)
 マクダクルス(バルナート帝國の宰相)
 ロードハルト前帝王(バルナート帝國の前帝王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
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