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2012年08月25日10:09

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〔小説〕八大龍王伝説 【218 覇王ロードハルト帝(三) 〜神を超える(前)〜】


 八大龍王伝説


【218 覇王ロードハルト帝(三) 〜神を超える(前)〜】


〔本編〕
 シャカラはだだっ広いある部屋へ辿り着いた。その部屋の天井は高く、二十メートルぐらいの高さがあり、ベージュ色の壁がこの部屋全体に落ち着いた印象をかもし出していた。部屋は、直径一キロメートルはあろうと思われる円形で、一万人は収容できると思える部屋である。既に部屋の概念を逸脱した規模の部屋であった。
 むろんシャカラは、その巨大さゆえに足を止めたのではない。何事もなければ、そのままこの部屋も後にするつもりであった。しかし、この部屋の中央には既に数人の者がいたのである。
「ロードハルト帝王だな?」シャカラは、その数人の中の一際(ひときわ)大柄な男に尋ねた。
「いかにも。余はロードハルトだ! 第三龍王シャカラ殿。余の城の『謁見の間』にようこそ」
「お前には、会っていろいろ問いたいことがあった」シャカラはそう言いながらもゆっくりと歩きながら、ロードハルトの一団に近づいていった。
 ロードハルトも、自分の前に出て自分を守ろうとしている近衛兵を手で制止しながら、シャカラに近づいていく。ロードハルトは胸甲(きょうこう)のみをつけた軽装で、右手には大振りの剣を抜き身のまま手にしている。
「先ずは神の称賛を受け取るがよい。ロードハルト! 僕(シャカラ)はてっきり、お前(ロードハルト)が最後まで逃げ惑うものと思っていた。堂々と僕の前に現れ、それも戦う準備(胸甲と右手の剣)が出来ているとは……。ロードハルト! 僕はお前に会うのは今日が初めてだが、ずっとこの日を待っていたぞ。記憶を失っていたハクビの時からな!」
「それは恭悦の至り」ロードハルトはニヤリと笑い、一言だけそう答えた。
「聞きたいことは山ほどある。しかし今はその時間がない。ロードハルト! お前の命をもってして、この戦争を終結させる!」シャカラは、そう言うやいなや、後五十メートルはあろうというロードハルトとの距離を一気に縮めた。
 走り出す……というより、足捌(さば)きのみでの平行移動である。
「パ〜ン!」シャカラが立っていた部分の地面が大きく響き、砕け散ったのである。
 とてつもない力がこの足捌きの時に、足から地面に伝わったのであろう。次の瞬間、帝王――厳密に言えば前帝王のロードハルトだが――その前に現れたシャカラの長斧による右上から左下への袈裟切りで、ロードハルトが切られ全てが終わった……。――と誰もが疑わなかった。
 シャカラの瞬時の足捌(さば)きは、それほど見事であった。ロードハルトのそばにいた龍人(ドラゴノイド)のトヤルや蜥蜴男(リザードマン)のオルドレンすら、なす術もなかったはずである。おそらくバツナンダがこの場にいても、シャカラに攻撃を加えることはできても、ロードハルトを守ることはできなかったであろう。
 しかし、そういった中で一人だけ動けたものがいた。誰あろう他ならぬ、シャカラに切られようとしている前帝王ロードハルトであった。
 シャカラが動き出して〇.五(ゼロ コンマ ご)秒後、ロードハルトはシャカラに向かって前進した。シャカラと同じようにほとんど体(たい)の上下運動のない足捌きであった。シャカラは瞬時に五十メートル移動したが、ロードハルトの技術では五メートルがせいぜいであった。
 しかし、その五メートルは充分、シャカラの目論見を大きく外した。攻撃対象が人であれば、シャカラの動きに一秒間は動けないはずであった。そこに驚きという感情が付け加われば、さらに二〜三秒は何もできないはずである。そして、シャカラにとって一秒あれば、相手に致命的な一撃を与えることが可能なのである。恐らく対象物は自分が殺されたことにも気付かず、死んでいくはずである。
 とにかくロードハルトの体技は常人を遥かに越えていた。日頃の鍛錬の賜物でもあると思うが、それを差し引いてもロードハルトの技量は神の域に限りなく近かった。シャカラとしてはバツナンダがこの場に到着する前に、決着をつけようと考えていたので、時間があまりなかったせいもあるが、いきなり相手の力量もはからず、一撃必殺の技にうったえたのであった。
 むろん、ロードハルトといった対象物はその場から動かない……いや動けないと九割九分方信じて疑わなかった。それが、シャカラの動きに呼応するように前進したのである。ロードハルトはシャカラの動きに全く驚きがなかった。むしろロードハルトがそのような神業的な足捌きで自分の懐に飛び込んでくることを待っていたかのようであった。
“バツナンダから僕のことを聞いていたのか?!”シャカラはそう思い、ロードハルトの前進する動きに併せて、急停止の後、急後退をはじめた。
 この動きがわずか一秒半という短時間で行われた。ロードハルトは前進しつつ右手の『猛虎の剣(ティガーシュヴェーアト)』で、シャカラの右肩から左下へ袈裟懸けに切り込んだ。その時、ロードハルトの左手は剣を持っている右手にしっかりと添えられていた。
 先制されたシャカラは長斧の刃を右から左へ扇形に百二十度動かし、このロードハルトの一撃を防いだ。この時、長斧を持っている両手がシャカラの胸の前で交差した。自身の攻撃を防がれた瞬間のロードハルトの動きはさらに素早かった。
『猛虎の剣』に添えていた左手を長斧によって防がれた瞬間に素早く剣から外し、交差して今は右側にあるシャカラの左手の手首を握った。そして、ロードハルトは大きな体を下に沈み込ませつつ、右肩でシャカラの脇腹辺りにタックルを仕掛けた。この時、ロードハルトの体は右が前の半身になっていた。身長が百九十五センチメートルのロードハルトが、身長が百七十センチメートルのシャカラの懐に潜り込んだ形になったのである。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 オルドレン(跋難陀龍王に仕えている蜥蜴男)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 トヤル(跋難陀龍王に仕えている龍人)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。実は沙伽羅龍王)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)
 ロードハルト帝王(バルナート帝國の帝王。四賢帝の一人)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)
 リザードマン(十六竜の一種。竜と人との混血で、人の血が多く混じっている種類。『蜥蜴男』とも言う)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
フォト




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