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2012年08月04日12:46

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〔小説〕八大龍王伝説 【215 第二龍王跋難陀(三十一) 〜矢と鎖〜】


 八大龍王伝説


【215 第二龍王跋難陀(三十一) 〜矢と鎖〜】

〔本編〕
 バツナンダの、ナンダの槍を手にはさんだままの合掌が約五分続いた。その間、シャカラは身じろぎもせずにバツナンダの様子を伺っていた。バツナンダが何をするのか読めない以上、シャカラとしても滅多なことでは動けなかった。
 やがて、バツナンダの手の中でナンダの槍は変化し、三本の細い棒状のものに形を変えた。
 その時である。
「ピシッ! ピシピシ!」乾いた音が辺りに響き渡り、バツナンダの鎧に無数の亀裂が出来たのである。
 バツナンダのその鎧は、シャカラとの戦いで胸に二本の亀裂をつけられたのは既に述べた。
“やはり亀裂のある鎧では、ナンダの力には耐え切れなかったか!”バツナンダはそう思ったが、鎧の破損は想定内であったようである。
 シャカラはそのバツナンダの行為に緊張の面持ちをさらに強くした。
“バツナンダ! 守り(鎧)を捨ててまで、攻め(武器)をとったか!”
ナンダの槍から変化した三本の棒状のものは、真紅の矢であった。バツナンダはその三本の矢の真ん中あたりを口に咥え、右手で鎧の破片を一つ手にとった。その破片はみるみる形を変え、馬の紋様を模った弓に変化した。弦(つる)と弦のあいだが、二メートルに及ぶ大きな弓であった。
 バツナンダは口に矢を咥えているので、代わりに筆者が説明するが、それは伝説の武器の一つで太陽神アポルゥンの『太陽の弓(ソネーボーゲン)』であった。バツナンダは『太陽の弓(ソネーボーゲン)』を左手に持ちかえると、三本の矢を右手に持ち、そのうちの一本の矢を弓につがえた。
 バツナンダの騎乗している飛竜(ワイヴァーン)は五十メートル上空に滞空している。そこからバツナンダは矢を放ったのであった。
“放ったのは一射だけか?!”シャカラは三本の矢を同時か、或いは連射してくるものと考えていたので、少し拍子抜けたようであった。それもシャカラの胸のあたりを狙っての単純な一射。速度も人が放つ矢よりは速いと思われるが、むしろ先程のバサラの礫の方が速かったのではと思われるぐらいであった。
“これ(一射)は虚(ブラフ)! 次が実か!”バツナンダが二本目の矢をつがえた時、そう思ったシャカラは、バツナンダを凝視し、一射目を軽く体を捻(ひね)ってかわそうとした。
 シャカラが一射目の矢から目線を切ったのである。
「シャァァァァー!!」一射目の矢は鋭く長い高音を響かせて破裂したのであった。
 これをかわす術はシャカラにはなかった。まるで例えれば、故ナンダの突きがシャカラの胸のあたりで数百回あらゆる方向に繰り出されたかのような現象が起こった。次の瞬間、シャカラの鎧は、粉々に砕け散ったのであった。
 シャカラの胸のあたりは鎧の下の肉体が剥き出しになり、乗っているカリウスの頭から首筋、背中にかけての鎧も同様に砕け散ったのである。
 しかし、いくらナンダの矢によって衝撃を受けたといえ、そう脆くもバサラ製の鎧が粉々に砕けるであろうか?
 この粉々に砕けたのには、一つのわけがある。シャカラとカリウスの鎧は、十月二〇日からのバツナンダとの一騎打ちで、超低音の氷の礫を始終受け続けた。『海の槍(メーアゼーランツ)』が、作り上げる氷の礫であった。その礫自体には、シャカラとカリウスの鎧を砕くだけの威力はないが、鎧に張り付くことにより、鎧の表面温度をマイナス百度まで下げたのである。そこに二千度という超高温のナンダの矢の礫――それもバサラの礫である。マイナス百度と二千度の究極の温度差が、バサラ製の鎧すら、粉々に砕くという現象を引き起こしたのである。

 バツナンダの真紅の矢はあと二本ある。シャカラとしてもここで受け手から攻め手に転じた。左手に持っていた短斧をバツナンダ目がけて投げたのである。そして、短斧を投げたことであいた左手でカリウスに装着されている長斧を鞘から引き抜いた。
 今度はバツナンダが不審に思う番である。シャカラの投げた短斧は、単純な直線を描き、バツナンダの首筋に向かっている。バツナンダはつがえていた矢を弓から外し、シャカラの意図を推し量った。
“この戦斧(短斧)は、どのような仕掛けがあるのだ?!”シャカラの意図が読めぬままバツナンダは、『太陽の弓(ソネーボーゲン)』の先端を左手で持ち、もう一方の先端で短斧を軽く弾いた。
『太陽の弓(ソネーボーゲン)』は二メートルの長さがあるので、バツナンダとしては遠くもなく近くもない無難ともいえる距離で短斧を弾き、その短斧の軌道から、シャカラの意図を推し量ろうとしたのである。バツナンダの弾いた短斧は、軽い接触だったにも関わらず、軌道がバツナンダの首筋から外れ、そのまま落下をはじめた。
“考え過ぎか!”そう思ったバツナンダは再び弓に矢をつがえようとした時、シャカラが左手で長斧を大きくかき混ぜているような動きに目を奪われた。
“見えない鎖か!”バツナンダがそう悟った時には手遅れであった。
短斧と長斧を繋ぐ鎖が実体を現し、その鎖は輪を描いて短斧の柄の部分に絡みついたのである。バツナンダによって弾かれた短斧は、ちょうどバツナンダの騎乗する飛竜(ワイヴァーン)の首の上部をまたぐような軌跡をとったため、短斧に鎖が絡まることにより、飛竜(ワイヴァーン)の首を鎖が締めるような形になったのである。
 次の瞬間、シャカラは躊躇なく、白き小型龍であるカリウスの肩を蹴って、飛竜の首にぶら下がったのである。飛竜は首に鎖が喰い込み、苦しそうに首を上下左右に振り回した。バツナンダは暴れる飛竜の背から、ぶら下がっているシャカラに向けて矢をつがえ放った。
 たとえ目標(シャカラ)を外しても、炸裂する矢なのだから、破片の大半は目標(シャカラ)に命中すると考えての二射目であった。しかしシャカラもそれは予測していた。シャカラは鎖にぶら下がりながら、右手に持っていた『短い刃物(クルツシュナイデ)』を真紅の矢に向かって投げていた。




〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 アポルゥン(この時代より一万年以上前に存在していたと謂われる太陽神。後世のギリシアにおけるオリンポス十二神の一人アポロンの原型とも謂われている)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長。故人)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)
 
(付帯能力名)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(その他)
 バサラ(神々の世界でのみ採掘できるという金属。この時代の金よりさらに硬度が高い)


〔参考二 大陸全図〕
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