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2012年07月29日13:11

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〔小説〕八大龍王伝説 【214 第二龍王跋難陀(三十) 〜炎馬と槍〜】


 八大龍王伝説


【214 第二龍王跋難陀(三十) 〜炎馬と槍〜】


〔本編〕
 さて、さらに六時間が経過した龍王暦一〇五一年一〇月二三日午前十二時。つまり正午にあたるその時。シャカラとバツナンダが戦っている地点にすごい勢いで近づいてくる一つのモノがあった。真っ赤な体を持つ馬(ホース)。難陀龍王が騎乗していた炎馬(ファイアーホース)であった。
 真っ赤な炎のように燃える瞳は、バツナンダ一点を見据え、口にはシャカラによって真っ二つにされたナンダの得物である『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』の穂先の方の半分を口に咥(くわ)えていた。
 この槍は、先述したようにシャカラによって真っ二つに折られ、その半分になった柄の部分は、シャカラから朱雀騎士団の残党に渡されたことは以前、既に述べたところである。
「皆、炎馬の行く手を塞ぐな! 炎馬の通り道を確保しろ!!」グラフ将軍の指令であった。
 しかし、グラフ将軍に言われるまでもなく、聖王国の兵は皆が自然と炎馬の前を大きく開けていた。炎馬の赤々と燃える瞳を見れば、竜(ドラゴン)ですら恐怖から道を開けたであろう。
 そして、炎馬は帝国兵が陣を敷いているバツナンダ大河の南岸に到着し、そこでやっと止まったのであった。同年七月二六日からおよそ今日(同年一〇月二三日)まで一時(いっとき)の休みもなく、約三ヵ月間走り続けた炎馬であった。
 炎馬は鼻面をバツナンダの方に向けた。つまり口に咥えてきたナンダの槍をバツナンダの方に向けてそのままピクリとも動かなくなったのである。炎馬はそのまま絶命したのであった。最後の最後まで人を騎乗させている姿から少しも姿勢を崩さなかったナンダの馬(とも)であった炎馬。その主人(ナンダ)に倣い、立ったまま絶命したのである。壮絶でありながら、見る者に大きな感動を与える清々しい最後であった。
「おそらく、炎馬の命の灯火(ともしび)は、バツナンダ大河に現れる数日前には尽きていたのであろう。しかしながら故難陀龍王の執念と、それを引き継いだ炎馬の恐るべき精神力が、死したまま炎馬の身体をバツナンダ大河まで運んだのであろう……」これは、シャカラが後日語ったことである。

 この炎馬の登場は、打開策がなくシャカラとの『千年戦闘』に突入しかけていたバツナンダにとって一つの大きなターニングポイントとなった。
 バツナンダは、右手で『流星の大筒(メテオキャノネ)』を扱いながら、左手を飛竜(ワイヴァーン)に繋がっている手綱から離し、その手の平を炎馬の方へ向けたのであった。
 炎馬のくわえてきた『紅き火の槍』の半身は、まるでその手の平に吸い込まれるかのように一瞬にして、バツナンダの左手に収まったのである。そして、バツナンダはおもむろに獰猛なバサラの礫を吐き出しつづけていた流星の大筒を停止させたのであった。千年戦闘が突然、終わりを迎えたのである。
「シャカラ!!」流星の大筒(メテオキャノネ)を鎧の欠片の戻し、鎧の肋骨辺りの隙間に戻したバツナンダはシャカラに話しかけた。
「何だ! バツナンダ!!」シャカラもその問いかけに応じつつ、こっそり右手に持っていたクルツシュナイデを右肩に収めた。
「強くなったな。シャカラ。『覚醒』か?!」バツナンダが不敵な笑みを浮かべつつシャカラに聞いた。
「多分。お前の弟(ナンダ)との戦いが原因だな」シャカラはそう言いながら、右手を自分の右臀部(みぎでんぶ)部分のスカートにも似た草摺(くさず)りの裏側に手をのばし、新しいクルツシュナイデを取り出したのである。
 金属疲労で刃毀(はこぼ)れをしているクルツシュナイデから、新しいクルツシュナイデに持ち直したことになる。
「しかし……」バツナンダは顔を真剣な表情に戻し続けた。
「ここからは本気でいく! 覚悟してもらいたい!!」
「今まで本気でなかったというのか?!」シャカラは苦笑を禁じえなかった。
「むろん本気であった。バツナンダ個人としては……。しかし、弟(ナンダ)の槍が手に入ったのだ。ここからの本気はナンダとバツナンダ二人分の神の本気という意味だ。最後にもう一度聞く。降伏しないか! シャカラ!! お前のためにいっている……」
「考える時間はくれるのか」シャカラはそう言いながら、カリウスに彼女の足に喰いついている海竜(リヴァイアサン)の様子を、天耳天声スキルを通じて尋ねていた。
「悪い! まだかかりそうだ!」カリウスからの天声。
「考える時間か……。それは与えることはできない!」再びバツナンダはにやりと笑って続けた。
「お前(シャカラ)のように油断できない者に時間など与えたら、何をするか分からない。弟(ナンダ)も、お前のその性格に敗れたといって過言でない。尋常な勝負であったらシャカラ。お前が負けていたはずだ!」
「僕もそう思う。しかし、戦争に『尋常な勝負』はほとんど有り得ない。それはバツナンダ。お前なら理解していると思っているが……」
「フッ! そういうお前(シャカラ)の性格を含めて好きだったのだがな。しかし、ここまでだな。次の攻撃をシャカラ。お前がよけることは不可能だ!」
 バツナンダはそう言うとナンダの槍を両手で合掌するように握った。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 バツナンダ大河(バツナンダによって造られた大河。バルナート帝國の最終防衛戦線)

(兵種名)
 
(付帯能力名)
 天耳・天声スキル(十六の付帯能力の一つ。離れたある一定の個人のみと会話をする能力。今でいう電話をかける感覚に近い)

(竜名)
 リヴァイアサン(十六竜の一種。海中に棲む最も巨大な竜。『海竜』とも言う)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)
 バサラ(神々の世界でのみ採掘できるという金属。この時代の金よりさらに硬度が高い)


〔参考二 大陸全図〕
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