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2012年06月30日11:19

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〔小説〕八大龍王伝説【210 第二龍王跋難陀(二十六) 〜転身〜】 


 八大龍王伝説


【210 第二龍王跋難陀(二十六) 〜転身〜】


〔本編〕
 グラフ将軍は肩で息をしながら、聖王国陣営に戻ってきた。とにかく、グラフ将軍の単身による帝國陣営への猪突ともいえる突撃は、シャカラにとって大いなる援護となった。しかし、それは誰にも気づかない事柄であった。
聖王国グラフ将軍の副官であるスルモンは大いに肝を冷やしたが、帝國側も、単騎の突進には驚きを隠せなかった。
 それも敵の総指揮官であり、自軍の猛将であったグリュツーネをあっさりと破った剛将の突撃である。最初、帝國兵は個々の生命の危機に恐怖を感じ、次にそのような有名な将を討ち取れたらという希望的誘惑に変わった。
 しかし、さらに次の瞬間、何故単身で攻めてくるのか理解できない困惑に陥った。とにかく、グラフ将軍は敵陣の中を数分。縦横無尽に駆け、スルモンが率いてきた数名の聖王国兵に囲まれて、聖王国の自陣へ戻ってきたのである。
 それでも、撤収時に、若干の逆撃を蒙り、二本の矢傷を背中に、一刀の刀傷を右股当たりにグラフ将軍は受けた。スルモンは事情が分からないので本陣に戻るやグラフ将軍に詰め寄った。
「将軍! 今回の突出は何故(なにゆえ)ですか? 将軍の御身は宝玉のように貴重な身! 軽率な行動はお慎み下さい!!」
「すまん。すまん。少し体がなまっていたので、軽い運動のようなつもりだったのだ。許せ」グラフ将軍は、スルモンに本当のことを明かさず、煙に巻いたのである。
「今後。このようなことがないように……」
「分かった。以後気をつけよう」スルモンもグラフ将軍があまりに素直に謝ったので、深くは問いたださなかった。
 スルモンもグラフ将軍がこんなことをするのは初めてだったので、気にはしていたが、戦いの慌しさの中でいつしか忘れていってしまった。

 バツナンダの右手の海の槍がシャカラに向かって突かれた。何度目かのカリウスとリヴァイアサンの接触であった。
 シャカラはこちらへ飛んでくる赤褐色の飛竜(ワイヴァーン)に若干気が入ったが、とりもなおさずバツナンダの槍をシャカラ自身の長斧で弾いた。
「グッ! シャカラ!!」カリウスが低いうなり声をあげた。
 カリウスが水中に引っぱられたように河の中に沈みこんだ。
「どうした!」
「後ろ足が……」「後ろ足?」
「バツナンダの海竜(リヴァイアサン)が後ろ足に噛み付いた」
「何?」シャカラは河を覗こうとして、ハッとバツナンダの所在を目で探した。
“海竜(リヴァイアサン)が潜ったのであれば、バツナンダも……”しかし、シャカラのその考えは誤りであった。
 バツナンダは弾かれた海の槍を右手から離し、左手の海の槍を天に向け、騎乗していたリヴァイアサンの背中の上で足を蹴り、天へ跳躍したのであった。五十メートルにもなる高い跳躍であった。そしてバツナンダが離脱した海竜(リヴァイアサン)は、シャカラの乗用している白き小型龍のカリウスの右の後ろ足に食いついたまま、河の中へ潜ったのである。
「カリウス大丈夫か!」
「脛あてがあるので、直接、奴(リヴァイアサン)の牙は食い込んでいないが、とにかくものすごい力で水中に引っぱっている。こいつの力は並ではないぞ! この龍である私が振りほどけない!」
「多分、バツナンダの手綱の力がまだ宿っているのであろう。しかし、時間の問題だ。バツナンダの手から離れた手綱から神の力といったものを供給していたバツナンダがいなくなったのだ。もうじき、蓄積されている神力も尽きるというもの」シャカラはカリウスにそう言ったものの、その力がどのくらいで尽きるかは予想できなかった。
“長くて一昼夜かかるかも……”
 とにかく、シャカラはいつまでも海竜(リヴァイアサン)に注意を注いでいるわけにはいかなかった。本当に怖いのはリヴァイアサンではなく、天に跳躍したバツナンダである。シャカラはこの時点でバツナンダの意図するところを正確に把握していた。少し遅い感は否(いな)めないが……
“海竜から飛竜に乗り換えたか……”シャカラの考えたとおりであった。
 跳躍しているバツナンダの左手におさまっていた『海の槍(メーアゼーランツ)』は、みるみる形を『蒼き手綱(ブレスツューゲル)』に変化させ、蒼き手綱は、生きている蛇のように北方から飛翔した飛竜(ワイヴァーン)の首に巻きついた。
 蒼き手綱が巻きついた飛竜は、みるみる赤褐色の体色が、深い蒼色に変化した。その飛竜の背中にバツナンダがきれいに半円を描いて飛び乗ったのであった。
 『多芸』を特徴とするバツナンダの『水竜騎兵』から『竜飛兵』への華麗ともいえる転身である。



〔参考一 用語集〕
(龍王)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の天時将軍)
 グリュツーネ(バルナート帝國青龍兵団の大隊長)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 スルモン(グラフ将軍の副官)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)
 ワイヴァーンナイト(最終段階の飛竜に騎乗する飛兵。竜飛兵とも言う)
 サーペンナイト(最終段階の水竜に騎乗する水兵。水竜騎兵とも言う)
 
(付帯能力名)

(竜名)
 ワイヴァーン(十六竜の一種。巨大な翼をもって空を飛ぶことができる竜。『飛竜』とも言う)
 リヴァイアサン(十六竜の一種。海中に棲む最も巨大な竜。『海竜』とも言う)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
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