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2012年06月09日18:16

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八大龍王伝説 【207 第二龍王跋難陀(二十三) 〜極芸〜】


 八大龍王伝説

【207 第二龍王跋難陀(二十三) 〜極芸〜】

〔本編〕
 さらに時間(とき)が経ち、十月二二日の朝を迎えた。
 その数日に及ぶ絶え間のない戦いで、一瞬の集中力すら途切れさせず戦っている神々。人より優れているという存在意義の一端を伺わせるものであろう。
 とにかく、シャカラの長斧がバツナンダの『闇の楯(フィンスターニスシルト)』に捕らわれている状態なのでシャカラの不利は誰の目からも明らかである。バツナンダからすれば、フィンスターニスシルトに長斧が呑み込まれるか、或いはメーゼアーランツの一撃がシャカラに届けば、それで戦いは終わる。シャカラにはなす術がないように感じられる。シャカラの左手の短斧では、バツナンダのメーゼアーランツを防ぐことはできるが、柄の長さからいってバツナンダの鎧に届くのは到底有り得ない。
 シャカラはバツナンダの攻撃を全て防がなければいけないが、バツナンダはシャカラにただ一つの攻撃が当たりさえすればそれで終わりなのである。明らかにシャカラは単に自分が敗れる時間を後ろに延ばしているだけのように思える。
 しかし、本当にそうなのであろうか? シャカラの特徴の一つに『技』。それも究極の芸である『極芸』であることは以前にも述べたが、それは単なる両斧によって奏でられる『技』のみではない。もし、両斧の『技(わざ)』をもって、『極芸』と称していたとすれば、それは非常に上っ面な意味合いでしかなくなる。
 それは『極芸』ではなく、単なるレベルの高い――まあそのレベルは神域に到達する高さだが――『至高芸』或いは『職人芸』ということになるであろう。シャカラの特徴を『極芸』と後世の人々が評するのはそれ相応の意味があるのである。むろん元彼女であるバツナンダすら知りえない事柄である。
 さて、シャカラは付帯能力(アドバンテージスキル)の一つ『陣地作成スキル』で結界を作成した。しかし、それは数日前に消滅した『霧の結界』のことではない。『霧の結界』と同じ作用をもたらす結界ではあるが、それはシャカラの体内に作られたのである。
 シャカラはその体の中に作った結界を使い、体内の機能全般を原子分子レベルに分解したのである。むろん一気にすれば、シャカラの体自体が崩壊してしまうが、先ず二つある肺の一つを分解して、心臓と同じ機能をするように造り替え、それが出来た後、心臓を原子分子レベルに分解する……というように一つ一つ変えていった。
 体の中の結界により、自在に体の内部を移動させ、別の器官に造り変えているのである。『造る』という言葉は、『作る』より大規模なモノを造る場合に用いられるが、今回の場合、人の体程度の大きさではあるが、肺に心臓の機能を持たせるように造り変えるのであるから、『造る』という言葉で表現したほうが適当であろうと筆者は考える。
 特に顕著なのが足の筋肉組織の神経を右手に繋げるという作業がそれにあたるであろう。人の足は一般的にその人の手の五倍の筋力を有していると謂われるが、その伝達神経を解除して、右手に切り替えているのである。みるみるシャカラの足から力が奪われていくが、シャカラはその素振りさえ全く誰にも感じさせない。恐らく、それを理解しているのはシャカラ自身とシャカラが騎乗しているカリウスぐらいであろう。しかし、一気にそれを行ってしまうと足の筋肉の張りなどから、用心深いバツナンダは何らかの変化に気づくかもしれないし、或いはバランスを崩し、カリウスから落ちてしまうかもしれない。
 とにかく、体内の大改造を、シャカラは『陣地作成スキル』と『物体作成スキル』の二つの付帯能力(アドバンテージスキル)を駆使して、粛々と何事もなく行っていたのである。これこそまさに極めた芸――『極芸』と呼ぶしかない技であろう。この改造に一日間まるまる使われたのである。シャカラの防御はこのための時間稼ぎだったのである。
 そして、その結果は突然に現れた。
「何!?」その時のバツナンダの呟きとしかいえない驚嘆の一言がこれである。シャカラの右腕に、一気にそれまでと桁違いのパワーが宿り、そのパワーで長斧を『闇の楯(フィンスターニスシルト)』から引き剥がしにかかったのである。それまでの八倍を超えるパワーであった。『闇の楯(フィンスターニスシルト)』は、女性のけたたましい叫びのような声(音)を発し、そこから出ている『生きている縄(ハーデスの毛髪)』のところどころがちぎれ、紫色の血液のような液をそこいら中に、噴出させた。
 今まで、なんの力も必要なく持てていたフィンスターニスシルトが、思いっきり引っ張るような感触をバツナンダの左手に伝えたきたのである。バツナンダが慌てて盾を引っ張ろうとしたその瞬間、シャカラの右手が鎧の上からも分かるほど膨張し、瞬間的に普段の百倍を超えるであろうパワーを一気に噴出させたのである。
「グシュゥゥ〜……。バリン!」不気味な音をたてて闇の楯はバラバラに崩壊したのである。
 辺り一面に多量の紫色の液を噴出して……。そしてそれに呼応するようにカリウスは、息(炎)を河に向かってはき、バツナンダの目の前に大きな水柱を生み出したのである。さすがのバツナンダも虚をつかれたような感じで、動きを止めてしまった。その間にシャカラは、バツナンダの前から百メートル程度離脱したのである。
 先程の瞬間的な爆発力は何だったのであろうか? それはシャカラの心臓によってもたらされた爆発力であった。
 心臓の血液を送り出すという機能は、片方の肺によって代用されたことは前述した。……ではその後心臓にはどのような機能を与えられたのか? 心臓には血液を体中に循環させる程の圧縮したパワーを生み出す機能を持っている。それをそのまま血管でなく、体の神経組織に直結させたのであった。
 医学的にどう説明をすればよいのか……。筆者にはその専門的知識は持ち合わせていないので詳しい説明ができないが、要は筋力や瞬発力、又は脳によって眠らされている潜在能力――人で考えれば十分の一も使われていないという脳や筋肉の力を一気に右手の引っ張るという『力』一点に結集させたのである。そのようなパワーで引っ張られれば、いくら伝説の武器の投影物であろうとひとたまりもないのは自明の理である。闇の楯が崩壊するという至極当然の結果をもたらしたのである。



【207 第二龍王跋難陀(二十三) 〜極芸〜】

〔参考一 用語集〕
(龍王)
 難陀(ナンダ)龍王(ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅)
 跋難陀(バツナンダ)龍王(フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営)
 沙伽羅(シャカラ)龍王(ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営)
 和修吉(ワシュウキツ)龍王(クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営)
 徳叉迦(トクシャカ)龍王(ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営)
 阿那婆達多(アナバタツタ)龍王(カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営)
 摩那斯(マナシ)龍王(バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する)
 優鉢羅(ウバツラ)龍王(ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される)

(神名・人名等)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 シャカラ(神としての記憶を取り戻したハクビ)
 ハーデス(この時代より一万年以上前に存在した冥府神。後世のギリシアにおける冥府神ハデスの原型と謂われている)
 バツナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長)

(国名)
 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)
 陣地作成・物体作成スキル(十六の付帯能力の一つ。自分の周辺或いは一定の場所や部分に、自分に都合の良い結界(陣地)或いは物体を作る能力。その結界内では敵にあたる者は何らかの制限を受ける。また作成された物体は結界内において、その能力を最大限に発揮する)

(竜名)

(その他)


〔参考二 大陸全図〕
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