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2012年04月21日18:37
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八大龍王伝説 【２００ 第二龍王跋難陀（二十：�検法 粗宛�０４〜】
いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。今日で八大龍王伝説も200回を数えます。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
【２００ 第二龍王跋難陀（二十：�検法 粗宛�０４〜】
〔本編〕
北東の中堅国であるカルガス國の王は、広い謁見の間で頭をかかえて悩んでいた。彼の前には、馬の皮にかかれた二通の書状があった。どちらも同じ質の馬の皮で出来ている紙。一方の書状はソルトルムンク聖王国人和将軍のドンクが差出人になっており、もう一方の書状はバルナート帝國宰相マクダクルスが差出人になっていた。
どちらも今日――龍王暦一〇五一年一〇月二〇日の昼過ぎの午後三時頃に前後してカルガス國の王の手に届けられた。タイムラグにして一時間も違わない時間である。それも二通の書状は、途中まではそれぞれの國の使者が運んだと思われるが、カルガス國の王城の門番である一人に手渡された時には、金（きん）をもらって頼まれたカルガス國の国民が所持していたのである。
「それでマクダクルス殿からの書状には何と書いてあるのだ」カルガス國の王ウィップレストは、バルナート帝國から書状が届いた直後、重臣の一人であるデンガクに読み上げさせた。
「読み上げます。『バルナート帝國宰相マクダクルスより、カルガス國の王ウィップレスト様に申し上げ奉ります。現在、我が國と貴国との国境沿いにソルトルムンク聖王国の兵が駐屯しております。聖王国としては、我が帝國の帝都を三方から囲み、殲滅しようと試みました。しかして、聖王国を率いていました八大龍王の第三龍王にあたるシャカラは、本日に日が変わる夜半頃。同じく八大龍王の第二龍王のバツナンダの手によって果てました。その証拠が八十日以上続いた霧の結界が晴れたということです。我が軍はシャカラを倒すと同時に、聖王国軍を逆撃して聖王国の王城を攻めます。当然、カルガス國近くまで進軍している聖王国の軍も、南方の聖王国の王城に撤退すると思われます。貴国におかれましては、これを期に撤退する軍の後背を攻撃していただければと思います。我が帝國と同盟関係である貴国の働きについて我が帝國は期待しております。共にその栄華に預かれれば幸いです。ウィップレスト王の賢明な判断を期待します』……以上です。ウィップレスト王！ すぐにこの書状に従って、軍を動かしましょう」
「待たれよ。デンガク！ それは危険だ！」横にいた一人の男が口をはさんだ。
「何が危険なのだ！ カクバージ！」デンガクのこの言葉にカクバージが冷笑を交えながら答えた。
「気づかぬのか。デンガク殿は……。その書状には『本日に日が変わる夜半頃……』と書かれている。つまりこの書状が認（したた）められたのは今日ということになる。まだ今日になって十五時間程度しか経っていない。そんな書状を何故今日届けることが可能なのだ！」
「分かっていないのはおぬしのようだな。カクバージ殿！ バルナート帝國の宰相マクダクルスは、兵種でいえば、最終段階のビショップ。つまり白魔法については最終段階のセイントの次に極めている兵。『瞬間移動の術』など朝飯前であろう」デンガクが冷笑する番であった。
「それは瑣末事だ。それ以外にもこの書状には不審なことが多い」笑われたカクバージは、顔を真っ赤にして言いつのった。
「この書状に言う通り、確かに二月以上続いていた霧が晴れた。しかし、この現象とシャカラが消滅したことが合致するとは考え難い。だいたいシャカラやバツナンダという八大龍王の存在すら噂の上だけの不確定要素ではないか。この書状一つに従って進軍を王に勧めるなど重臣のすることではない！」
「それではカクバージ殿は、この八十日以上続いた霧が単なる自然現象とお考えか！ それこそ重臣に列するには力不足と自らで発言しているようなもの！ それに八大龍王の噂は、今は子供でも知っている事柄！ それの裏づけが未だにされていないとは……我が國の外交と諜報の質が疑われますな」
「何だとデンガク！」
「我々を愚弄するのか！」カクバージが口を出す前に二人の重臣が叫んでいた。
一人がシンキという重臣で外交を担当していた。そしてもう一人がホウライダンという名の重臣で諜報機関の担当であった。デンガクとカクバージ。それにシンキとホウライダン。さらにソジラールセンという重臣を加えてカルガス國の『五賢臣』と呼ばれている人物達であった。
ちなみにデンガクが軍備担当の重臣。カクバージが経済担当の重臣。そしてソジラールセンは戦略担当の重臣であった。この五人のうち、デンガクとカクバージは常に対立をしており、デンガクには同じ軍事関係のソジラールセンがつき、カクバージにはシンキとホウライダンがつくという図式がもっぱらであった。
五人もの優秀な人材がおりながら、常に対立しており、さらに優柔不断な王を上に戴いているわけである。カルガス國の不幸はここにある。
カルガス國はこの龍王暦一〇五一年一〇月より一年経たずに滅びることになるが、後世の歴史家はこの現状からカルガス國の重臣たちを『五賢臣』をもじって『誤賢臣』と表現している。
さて、せっかくであるからカルガス國のことについて少し語りたいと思う。
カルガス國は他の七國と同様、龍王暦元年に建国された。八大龍王の第六龍王である阿那婆達多（アナバタツタ）龍王が建国神であり守護神である。カルガス國の人口は約五百万人。二千五百万人のソルトルムンク聖王国。八百万人のバルナート帝國に続き三番目に大きい國である。カルガス國はヴェルト大陸の主導権（イニシアチブ）を握ることはさすがにできないが、第三の國として、二大強国のソルトルムンク聖王国とバルナート帝國と謂えども、無視することはできない存在の國であった。第三国としての立場を常に弁える位置にある國であったといってよい。
さて、カルガスの『五賢臣』が設置されたのは、現王の三代前の王の時である。一人の重臣に権力が集中しないようにするために設けた制度である。五つの権力――経済・外交・諜報・軍備・戦略の五つであるが、これを五人の重臣に割り振る。割り振られた重臣を五賢臣と呼び、カルガス王はそれらの重臣の意見に耳を傾け、物事を決めていく。
体制としては権力が集中せず申し分ないものであるが、最終決定権を持つ王が、決断力があるという前提の上での制度である。おそらくウィップレスト王の三代前の王はそれに気づかなかったのであろう。この制度を決めた王にしてみれば、決断力の無い者が王になるとは露ほども頭になかったのであろう。
しかし、世襲制である王制であっては、決断力が無い者が王になる可能性も充分ある。そして、この五賢臣の制度を構築してから三代後（のち）、ウィップレストという決断力の無い、優柔不断な王が誕生したのである。それでも、戦（いくさ）のほとんどない平和な時代であれば、それほど問題はなく家臣がいがみ合いながらもなんとか國を運営できたと思われる。
しかし、去年の龍王暦一〇五〇年に、ヴェルト大陸の二大強国であるソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が、大陸全土を巻き込む戦争を引き起こした。その後のカルガス國の動きは、とても第三国として動きとしては考えられないものであった。先ず、ソルトルムンク聖王国側につくと表明しておきながら、バクラの戦いでは兵を出さず実質的な中立を決め込み、バルナート帝國が有利と見るやバルナート帝國についた。それも、バクラに向かう様子を見せながらバルナート帝國の帝都にも向かえるように進軍するなど、この國の行動には一貫性がなかった。
さらにソルトルムンク聖王国が滅亡した後、南東の小国であるクルックス共和国をバルナート帝國の朱雀騎士団と共同で攻める時も、大幅に参陣が遅れるという大失態を演じた。確かに、クルックス共和国の影の支配者である『共和の四主』による本国（カルガス國）へのゲリラ的な攻撃があったのも事実だが、それだけでは遅参の理由にはなり得ない。結局、その後バルナート帝國の帝王からの信頼はなくなり、昔から仲の悪いクルックス共和国領を、新たな領土として賜ることになる。
クルックス共和国が自領となった後のカルガス國の苦労は、ここでは詳述しないが、それも身から出た錆といえるであろう。また、これも詳述はしないが、いろいろなことを決断する度に五賢臣が対立をし、それを優柔不断な王が決断できなかったことが最大の原因であろう。
さて、話を戻そう。
「まあ皆の者、議論の前にもう一通書状が届いたようだ！」五人目の五賢臣であるソジラールセンが口を出した。
みると先程と同じ馬の皮の紙が王の前に運ばれてきた。
「帝國の宰相もまめなことだ！ 先程の書状から一時間と経っていないのに……。出兵の催促かな？」諜報担当の重臣ホウライダンがやれやれといった様子で呟いた。
「ホウライダン！ この書状はそういう類のものではないみたいだぞ！」戦略担当のソジラールセンは、部下からの書状を、五賢臣の筆頭にあたるデンガクに渡した。
デンガクはそれを一目見て、苦虫を噛み潰したような顔になった。
「デンガクどうした。その書状を読み上げてみよ！」ウィップレスト王がデンガクに催促した。
「はっ。王。しかしこの書状はバルナート帝國宰相マクダクルス殿のものではありません！」
「何っ？」ウィップレスト王の驚きの声。
「ソルトルムンク聖王国の人和将軍ドンクからの書状です」
「「「何だと！」」」デンガクの言葉にカクバージ、シンキ、ホウライダンの三重臣が思わず声を揃えていた。
「何と書かれているのだ？」
「はっ！ 読み上げます。『カルガス國の王ウィップレスト王に、ソルトルムンク聖王国の人和将軍ドンクが申し上げる。貴殿の賢明な判断が、カルガス國の命運を決める。ご慎重なご判断を願う』」
「それから……」
「今ので全てです」
「何だと？ そんな馬鹿な！」ウィップレスト王は不審そうに読み上げたデンガクを見た。
デンガクもウィップレスト王を始め、そこにいる皆にその書状を見せ、偽（いつわ）りでないことを示した。
「この書状は聖王国のドンク将軍が、我が國を惑わせるために出したもの。やはり聖王国軍は撤退を始めようとしているので間違いありません。王よ！ ここで討伐の兵を出さなければ、バルナート帝國に対する信義に反します。すぐにでも出兵の命令を……」
「解せぬ！」デンガクの進言に対する経済担当の重臣カクバージの意見であった。
〔参考一 用語集〕
（龍王）
難陀（ナンダ）龍王（ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅）
跋難陀（バツナンダ）龍王（フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営）
沙伽羅（シャカラ）龍王（ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営）
和修吉（ワシュウキツ）龍王（クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営）
徳叉迦（トクシャカ）龍王（ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営）
阿那婆達多（アナバタツタ）龍王（カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営）
摩那斯（マナシ）龍王（バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する）
優鉢羅（ウバツラ）龍王（ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される）
（神名・人名等）
ウィップレスト王（カルガス國の王）
カクバージ（カルガス國五賢臣の一人）
シャカラ（神としての記憶を取り戻したハクビ）
シンキ（カルガス國五賢臣の一人）
ソジラールセン（カルガス國五賢臣の一人）
デンガク（カルガス國五賢臣の一人）
ドンク（ソルトルムンク聖王国の人和将軍）
バツナンダ（バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長）
ホウライダン（カルガス國五賢臣の一人）
マクダクルス（バルナート帝國の宰相）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国。第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國。金の産地）
カルガス國（北東の中堅国。第六龍王阿那婆達多（アナバタツタ）の建国した國）
クルックス共和国（南東の小国。第四龍王和修吉（ワシュウキツ）の建国した國。唯一の共和制国家。大地が肥沃。今は滅亡している）
（地名）
（兵種名）
ビショップ（最終段階の魔兵。白魔法と黒魔法の両方に精通している兵。いわゆる『僧正』。但し、黒魔法は一ランク下の第三段階のメイジ程度のレベルである）
セイント（最終段階の魔兵。白魔法に精通している女性限定の兵。いわゆる『聖女』）
（付帯能力名）
（竜名）
（その他）
共和の四主（クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫（れいき）、炎の童子、山の導師の四人）
五賢臣（カルガス國の重臣の制度。またはその重臣たちのこと）
人和将軍（ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第三位の称号である）
朱雀騎士団（バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長）
バクラの戦い（龍王暦一〇五〇年三月のバルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利）
〔参考二 大陸全図〕
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