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2011年12月23日19:21
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八大龍王伝説 【１８２ 第二龍王跋難陀（五） 〜違反者�掘繊�
いつもお読みになっている皆様、ありがとうございます。一日早いですが、アップさせていただきます。前回の続きです。
それでは八大龍王伝説をはじめます。
【１８２ 第二龍王跋難陀（五） 〜違反者�掘繊�
〔本編〕
同月三〇日の午前十時、予定通り中隊長以上の招集が行われた。
召集からおよそ三十分後。
「コリード将軍！ 我が部隊の中隊長であるフソンの姿が見当たりません」フソンの直属の上役である大隊長からコリードにそう報告が入った。
それとほぼ同時刻。
「シャカラ様！ 大河の我が軍側である南岸から強行進軍が開始されました！ 小船五艘と最小船二艘。それに海馬（ユニコーン）が三頭です。特にそのような命令を受けてはいないのですが……」
それを聞いていたシャカラのそばにいた地利将軍コリードが皆（中隊長以上の招集に集まった者達）に言った。
「それはおそらく今、大隊長から報告の入ったフソン中隊長以下数十人と思われる。フソンの配下の小隊長の一人であるメロージから昨日、自分の上役であるフソン中隊長の命令違反の告発があったのだ。今日の中隊長以上の招集は、その命令違反の真偽を正すためのものだ。
今、大隊長の報告（フソン中隊長がいないという報告）と命令違反の強行進軍の報告により、その告発が正しいと確信できた。フソン中隊長達が敵軍に寝返り、こちらの情報が漏洩（ろうえい）する危惧も禁じえない。直ちに命令違反の強行進軍をしたフソン中隊長以下五十人余りの討伐隊を組む！！」
このコリードの発言は昨日の三将軍とシェーレの中での打ち合わせ通りの展開である。
「コリード殿！」シャカラの言葉である。
「はっ！ 申し訳ありません。この責は……」
「責任は総大将の僕にある。将軍（地利将軍）やその配下のものには罪はない！ 三将軍の方々！」
「「「はっ！」」」シャカラの言葉に、天時将軍グラフ、地利将軍コリード、人和将軍ドンクは同時に答えた。
「百人ずつ討伐隊を選定してもらいたい。そしてその討伐隊は僕が指揮する。十五分以内に大河の南岸に集結させるよう手配してもらいたい！」
「しかし、シャカラ様が直接指揮されなくとも……それに三百人で構わないのですか？」ドンク将軍の言葉である。
「ここは士気を上げるためにも僕が直接出る。五十人程度の離脱者たちであれば、三百で多いぐらいだ！」
「「「分かりました」」」三将軍はそろって答えて、早速討伐隊の選定にかかった。
――そして十五分後の十一時。特別に編成されたシャカラ軍がバツナンダ大河の南岸に集結した。神が直接指揮するとあって、討伐隊への志願者は五千人に及んだ。
「大袈裟だ！ 三百で構わない。それ以上は必要ない！」そうシャカラは笑って言った。
この真意を正確に理解していたのは、おそらくドンク将軍の副官であるシェーレだけであったかもしれない。
“バツナンダの作ったこの大河の恐ろしさ……。そしてその大河で五分（ごぶ）以上の実力を敵味方の両方に見せつける。そのためにはフソン中隊長五十人余と討伐隊三百人は最小限の被害と言っていいのだろう。それもシャカラ様が直接討伐に行くということは、味方の士気を大いにあげ、また軍紀の乱れを正すことになる。
被害はいかなる時でも必ず出る。それを最小限で食いとめるのは乱世における「常（つね）」である。そのためにも暗部の汚れ役は私しか引き受けることはできない”シェーレはこう考え、南岸より離岸するシャカラの討伐軍を見守った。
通称バツナンダ大河――聖王国軍はバツナンダの作り上げた大河をそう呼ぶ。その南岸から一キロメートル沖に七艘の船と三頭の海馬（ユニコーン）が雨に打たれ波に揉まれながらも、大河の北岸に向かって進んでいた。
豪雨の中、十メートルに及ぶ高波と人の速度をはるかに超える流れに、その一団は出発した岸よりも下流に百メートルも流されていた。フソン中隊長以下の命令違反をした強行進軍隊の一団であった。
「皆、心配するな！ この程度の流れ……『水夫の守り札（マトローゼアップヴェーア）』が船の舳先に貼ってあるのだから、船が沈没することは絶対にない！」大雨の中、フソン中隊長は大声を張り上げた。
しかし、その声は雨と波の音でかき消され、隣に同船していた兵にすら聞こえなかった。
さて、『水夫の守り札』または『マトローゼアップヴェーア』と呼ばれる物は、水兵にのみ与えられかつ使うことが許されている特定アイテムである。河や海の中の石などに付着している藻（も）を、特別な術式で固め、紙状にした深緑（ふかみどり）の縦横五センチメートル程度の正方形の札である。水兵はこれを肌身離さず持っており、自身の乗る船の舳先（へさき）に貼り付けることにより、本来であれば、転覆してしまうような荒波の中でも、沈まず進軍できるのである。
以前、この小説に登場したアイテムで『エヒョの貝殻』というアイテムがあったのを読者の皆さまはご記憶であろうか？ 自分の声をその貝殻に吹き込むと山彦（エヒョ）のように声を繰り返すアイテムである。これは所謂（いわゆる）盗賊、暗殺者、忍者と各々呼ばれている諜報に長けているシーフ系の兵が持っているアイテムなのである。
このようにこの時代には、術式が施され特定の兵にしか扱えないアイテムがいろいろとあるのである。これを一般に誰でも使えるアイテムと区別して『特定アイテム』と言う。今後も数々の『特定アイテム』が登場するが、その都度説明していきたい。
さて、話を戻す。
「フソン様！ 味方側の南岸から、兵が繰り出されてきています」
「……」フソンには周りがうるさすぎて何も聞こえなかった。
それに気づいた部下は、フソンの肩をたたき、南岸を指さし耳元で、大声で伝えた。
「何だと！」フソンには予想外であった。
「おそらくは我々に対する討伐軍では……」
「そんなことは分かっている！ しかし、こんな短時間で討伐軍が繰り出されるとは……まさか！」フソンとその部下は耳元で怒鳴り合いながら、二人とも顔は真っ青になっていた。
「既に発覚していたということか……」フソンは狼狽（うろた）えながらも、腹は決まっていた。
“我々には進むしかもう道はない！ この進軍で大きな功を挙げれば、命令違反といった小さな罪状など不問に帰されるに違いない”
〔参考一 用語集〕
（龍王）
難陀（ナンダ）龍王（ジュリス王国を建国した第一龍王。既に消滅）
跋難陀（バツナンダ）龍王（フルーメス王国を建国した第二龍王。マナシ陣営）
沙伽羅（シャカラ）龍王（ゴンク帝國を建国した第三龍王。ウバツラ陣営）
和修吉（ワシュウキツ）龍王（クルックス共和国を建国した第四龍王。ウバツラ陣営）
徳叉迦（トクシャカ）龍王（ミケルクスド國を建国した第五龍王。マナシ陣営）
阿那婆達多（アナバタツタ）龍王（カルガス國を建国した第六龍王。マナシ陣営）
摩那斯（マナシ）龍王（バルナート帝國を建国した第七龍王。ウバツラを監禁する）
優鉢羅（ウバツラ）龍王（ソルトルムンク聖王国を建国した第八龍王。マナシに監禁される）
（人名）
グラフ（ソルトルムンク聖王国の天時将軍）
コリード（ソルトルムンク聖王国の地利将軍）
シャカラ（神としての記憶を取り戻したハクビ）
シェーレ（ドンク将軍の副官）
ドンク（ソルトルムンク聖王国の人和将軍）
バツナンダ（バルナート帝國四神兵団の一つ青龍兵団の軍団長）
フソン（コリード将軍配下の中隊長。水兵）
メロージ（コリード将軍配下の小隊長。水兵）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国 第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国 第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國 金の産地）
（地名）
バツナンダ大河（バツナンダによって造られた大河。バルナート帝國の最終防衛戦線）
（兵種名）
（付帯能力名）
（竜名）
（その他）
エヒョの貝殻（シーフ系の兵の特定アイテム。自分の声を山彦（エヒョ）にできる）
海馬（額に角があり、足に蹄の代わりに水かきのあるホースの一種。ユニコーンともいう）
人和将軍（ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第三位の称号である）
水夫の守り札（水兵系の兵の特定アイテム。この札を船の舳先につけることによって、その船は沈まない）
地利将軍（ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第二位の称号である）
天時将軍（ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。筆頭の称号である）
〔参考二 大陸全図〕
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