mixiユーザー(id:15312249)

2011年08月29日12:58

6 view

八大龍王伝説 【163 第一龍王難陀(十九) 〜再び〜】


 いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。ハクビが意識を取り戻したところから続けます。
 それでは八大龍王伝説をはじめます。


【163 第一龍王難陀(十九) 〜再び〜】


【本編】
「ハクビ! 大丈夫か!」ハクビの目にヴァイスドラゴネットのカリウスの顔が飛び込んできた。
「ああ〜」ハクビは比較的落ち着いた様子で答えた。
「ハクビ! 受け答えができるのか! 精神は崩壊していないのか……奇跡だ! よかった! ハクビ! ん?……ハクビ? ハ……! まさか! 本当か! そんなことって……! お前、シャ……!」
 ハクビはカリウスの言葉に静かに首を横に振り、片目をつむった。カリウスはすぐに何かを悟ったようであった。
「おお〜い!」カリウスが『第一陣』の小隊長のジローに声をかけた。
「ハクビの兜は砕けた! そして額に傷がある! すぐに別の兜と治療を……! 兜は顔全体を覆るものを用意しろ!」
「カリウス殿! ハクビ様は無事なのですか?」ジローの声が嬉しそうであった。
「ああ……無事だ! それから、すぐにハクビの両腕に治癒の呪文だ! 砕けた両腕の骨を繋げるのだ!」カリウスの声が再び、ジローに飛んだ。
 すぐに兜は用意され、治癒の呪文で骨がくっついた両腕で、ハクビはそれを被った。続いて、ハクビはゆっくりと戦場を回り、上半分が飛び散った長斧(ちょうふ)と、短斧(たんふ)を拾って、カリウスの背に乗った。
 このハクビのこの一連の動きに対して、ナンダはにやけたまま、一切手を出さなかった。ナンダがハクビに話しかけたのは、ハクビがカリウスに乗って、ナンダに正対した時であった。
「ハクビよ! 貴様を見直したぞ! わずかとはいえ、額に俺の槍を受けて、正気を失っていないのも瞠目(どうもく)に値するが、それにもまして、驚いたのは、再び俺と相対しようしているお前の精神力にだ! 人間にしておくのが惜しい逸材だ!」
「……」それに対してハクビは無言のままであった。顔全体を覆う兜なのでどのような表情をしているかも分からなかった。
「しかし……」そんなハクビに全く気にしない様子でナンダは続けた。
「その精神は買うが! 俺と再び戦おうというお前の思慮は疑わざるを得ないがな! どんな勝算があるというのだ! ハクビよ! 貴様の両腕は、俺の槍の直接の干渉は受けていないから、治癒の呪文が有効ではあるが、治癒の呪文では砕けた骨をくっつけることしかできないぞ!
 とてもさっきのようなスピードで斧を振り回すことは不可能だ! 仮に振り回したら、また骨がバラバラになるのは目に見えている! 当然、槍を受けた頭も全く傷害がないとは言えない! まあ、俺としては、お前とまた戦えるのは嬉しいが、さっきより、しょぼい攻めではかえって興醒めではあるがな!」
「……」ナンダの軽口にハクビは一切無言のままで応じなかった。

 龍王暦一〇五一年七月二六日午後一時、炎馬に騎乗しているバルナート帝國朱雀騎士団軍団長ナンダと、白き小型龍に騎乗しているソルトルムンク聖王国人和将軍ハクビは、聖王国の『第一陣』の直径百メートル程度の円陣の中を反時計回り(右回り)にぐるぐる回っていた。
 先に回り出したのはハクビである。ナンダもそれに呼応するように円陣の中を回り出した。これは意味なく回っているのではない 百メートルの直径の円陣の中で、最大全速(トップスピード)に乗るためには、これしか方法は無かった。
 最大全速でぶつかるということは、お互いその一回の激突で、勝負を決しようという腹であった。後は、お互いどこで仕掛けるかのタイミングの問題である。タイミングの主導権(イニシアチブ)を掴んだ方が優位にことを進められる。ハクビとナンダの実力差から考えると、ハクビがイニシアチブをとらない限り、ハクビに勝ち目はないであろう。
 そしてそれは突然に訪れた。回り始めてから二分後の午後一時二分、タイミングをはかっていたハクビは、急にカリウスの龍首を中心に向け、それと同時にナンダ目がけてドラゴネットを疾駆させた。ヴァイスドラゴネットは最大全速(トップスピード)で疾駆した。
 その、数百分の一秒後、二人(ナンダとハクビ)を囲んでいた聖王国『第一陣』の兵士には、同時にしか見えなかったであろう。その位のタイミングでナンダがハクビに正対する形で炎馬を疾駆させた。炎馬も最大全速(トップスピード)で疾駆した。
 カリウスの時速はおそらく百八十キロメートル。炎馬の時速は二百五十キロメートル程度であろう。百メートルの距離では一般人からすれば、一瞬の出来事であろう。
 ここからの出来事は動作に合わせ、数秒間を細かく刻んで語ろうと思う。
 ハクビのカリウスとナンダの炎馬が円の中心に向かって疾駆し、距離が十メートルをきった時、三メートルの『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』の突きがナンダによって繰り出された。ハクビはそれに対して何のリアクションもとらなかった。
 顔全身を覆う兜のせいで視野もだいぶ狭まり、ナンダの突きをハクビがかわすのは不可能と考えられた。ナンダの突きが、ハクビの左肩の鎧を砕いた。
「ん?」ナンダが不審を感じておもわず呟いた。
 当然、ナンダがわざとハクビの左肩の鎧を狙ったわけではない。ナンダが狙ったのはハクビの左胸――つまり心臓であった。
 今までのハクビであれば、自分の左胸を狙われていると予測しても、突きの初動作のタイミングが分からず、突きが繰り出されると分かってから、全力で体をかわしていたのである。それは、ハクビにとっては精一杯のかわしではあるが、それでは体勢が大きく崩れ、そこから攻撃に転ずることは難しいのである。本来であれば、相手の攻撃を見切り、ぎりぎりの紙一重でかわしてこそ、体勢が崩れていないため、次の攻撃にスムーズに転ずることが可能なのである。
 ハクビはそのような事は百も承知である。しかし、ナンダの目に止まらない突きのスピードに対処するためには、突きを予測して、それが放たれた後、全力でかわすしか手がないのである。しかし、今回の左肩の鎧への突きは、ナンダの突きを完全に見切った上で、ハクビが紙一重でよけた結果である。
 左肩の鎧は、砕けはしたが、ハクビの肩にはなんら影響を与えない非常に浅い接触だったのである。ナンダが修正したためではない。ハクビが本当にギリギリのところで、体(たい)を必要最小限に動かした結果である。あまりにも突きがヒットするギリギリのところで、ほとんど初動作がない状態でのかわしだったため、ナンダには突きの軌道の微修正すら出来なかったのである。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(人名)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 ジロー(ハクビ将軍の配下の者)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)
 人和将軍(ソルトルムンク聖王国の軍事部門の最高幹部である三将軍の一つ。第三位の称号である)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)


〔参考二 大陸全図〕
フォト


2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する