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2011年08月14日06:24
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八大龍王伝説 【１６０ 第一龍王難陀（十六） 〜抜け出せぬ陣�供繊�
いつもお読みくださっている皆さま、ありがとうございます。
さて、前回の話でハクビのことも心配ですが、その前に他の戦場の話を少し入れます。それでは八大龍王伝説をはじめます。
【１６０ 第一龍王難陀（十六） 〜抜け出せぬ陣�供繊�
〔本編〕
『既に限界を超えている』という言葉では生易しすぎて、なんと表現していいか分からない状態であった。
聖王国軍『第四陣』――シェーレ率いる隊であるが、そこに突入した『神の炎（ゴッドフラメ）隊』は、既に二十五分間ぶっ通しで走り続けていた。いや走らせられていたと言ったほうが適切であろう。時間にして十分が限度のゴットフラメの疾走である。当然の結果として、一人また一人と帝國兵が脱落していき、百人で構成されていたゴッドフラメ隊はもう十五人しか残っていない状態である。
およそ十三分前の午後〇時三十七分……このゴッドフラメを牽引するために選ばれた兵士達――『紅い兵（ロートゾルダート）』の一人、ケズリが脱落した。四人のロートゾルダートのうち、後方の一人が脱落したことにより、ゴッドフラメ隊は後方から崩壊し始めた。
そして八分前にあたる午後〇時四十二分には後方のもう一人のロートゾルダートのクボルソードが敵の剣で十数カ所斬られ、馬上から落ちたという報告が先頭のカイとキーグに入った。
「なんだと！ クボルソードまでが……」カイは咄嗟（とっさ）にホースを止め、後ろを振り返ってしまった。
その時である。
「四十八（フィルツィヒアハト）」聖王国軍司令官シェーレの声が響く。
カイ達が疾走している『第四陣』の前方方面から、カイの背中目がけて矢が数十本射掛けられた。
「危ない！」それをかばったキーグがカイの代わりにその矢を全身に受け、倒れた。
「キィィィグゥゥゥ〜！！！」カイがキーグを腕に抱いたまま、大声で叫びながら、再び前進を開始した。
「五十九（フュンフツィヒノイン）」シェーレの声がまた響く。
『第四陣』が再び後退をはじめた。ゴッドフラメ隊は既に止まることすら許されていないようであった。シェーレの冷徹なまでの戦法である。敵である帝國兵から言わせれば冷酷な所業と表現できるであろう。
カイはもう自分が助かるとは当然考えていなかった。それであれば、せめて常に自分の距離にして百メートル程度前にいる兵士だけは道連れにしようと考えた。その兵士は黒い馬（ホース）に乗って、黒いローブ姿で褐色の肌をしている。『第四陣』の指揮官でハクビ将軍の副官であるシェーレであった。
カイからしてみれば、ゴッドフラメで突入してからずっと、自分の前方百メートル先に常に見えている兵である。そして、その兵が口を開くと、必ずこの陣（第四陣）が形を変えるのである。カイでなくてもシェーレがこの陣の司令塔であることは数分もすれば気づくであろう。カイはキーグを自分の腕で抱えながらホースで疾走していた。
ホースは疾走の限界に加え、カイ、キーグの二人分の重さがかかっているので、みるみる走力が落ちてきた。
「キーグ！ すまない！」三分前にあたる午後〇時四十七分、キーグが息を引き取ったのを感じたカイはホースの負担を和らげるため、キーグの死体を抱いた腕から放した。
こうなった以上、カイは百メートル先の黒衣の兵（シェーレ）を倒すことしか念頭になかった。カイの目は血走り、息は絶え絶えになっている。唇を強く噛んでいるせいで、口元から鮮血が多量に流れている。聖王国の兵にはカイは悪鬼か羅刹に見えたのではないだろうか。
そしてついに五分後の午後〇時五十五分、カイは一人で走っていた。十五人残っていたゴッドフラメ隊も続々と脱落をし、この五分間で全員が討ち取られていた。カイは一人でホースにも乗っていない。カイとしては、どこでホースが倒れて、自分一人で走っているのかそれすら分からなかった。
後ろを振り返らないというか……振り返るという動きさえもう不可能になっているカイにとって、後ろに誰もついてきていないという事実にとうとう死ぬまで気付かなかったのである。しかし、それはカイにとってはむしろ幸せだったのかもしれない。
それとは対照的にシェーレはどこまでも冷静であった。ゴッドフラメ隊が十人をきった時、『第三陣』の司令官のソヤに使いを送った。その報告を聞いたソヤは、
「よし、ゴッドフラメ隊への追撃はこれで終了だ！ 急いで『第二陣』のドンク殿の援軍に向かうぞ！！」と、『第三陣』の全兵士に命じた。
そしてシェーレの『第四陣』は、ゴッドフラメ隊が徒（かち）のカイだけになっても、回りを囲んで矢を射る攻撃以外を許さなかった。ヴェルト大陸最強の帝國兵――その中でも特に優秀で勇猛な朱雀騎士団の紅い兵――ロートゾルダートである。完全に勝利が決した以上、聖王国側に一人の死傷者を出すのも無駄であった。
実際、ゴッドフラメ隊に突入された『第四陣』は、死者は一人、負傷者が三十人程度という非常に少ない犠牲ですんだのである。その負傷者のうち、ゴッドフラメ隊による負傷者は十五人、残りの十五人はシェーレの『百八の陣』の変形の際の移動で、味方同士がぶつかったり、押されて転んだりした程度の怪我であった。
ナンダが指揮していないとはいえ、ゴッドフラメを受けて、こんなに少ない犠牲で済んだのはシェーレによる見事な采配の結果であると誰もが信じて疑わないであろう。特殊部隊『シェーレの妖精たち（シェーレウィヒトライン）』は見事に機能し、この一戦でシェーレの実力は遺憾なく発揮された。
多くの兵達の目に焼き付いたシェーレの『百八の陣』の運用は、芸術作品を見るような大きな感動と恍惚感を兵士達に与えた。結局、午後〇時五十九分、カイは無数の矢を体に受けて、崩れるように倒れ息を引き取った。カイの最後の願いであるシェーレを道連れにすることは、百メートルの間隔のうちのただ一メートルの距離すら縮められず終わったのである。敵とすれば、こんなに小癪（こしゃく）な敵はいない。
しかし、味方、それも指揮官として、こんなに頼もしい指揮官はいないであろう。もう、シェーレを影で『元帝國の兵士』と呼ぶ者はいないであろう。この一戦でシェーレの、聖王国軍の指揮官としての地盤は揺るぎのないものになったのであった。
〔参考一 用語集〕
（龍王名）
（人名）
カイ（バルナート帝國朱雀騎士団の兵）
キーグ（バルナート帝國朱雀騎士団の兵）
クボルソード（バルナート帝國朱雀騎士団の兵）
ケズリ（バルナート帝國朱雀騎士団の兵）
シェーレ（ハクビ将軍の副官）
ソヤ（沙伽羅龍王に仕えていた龍人）
ドンク（ハクビ将軍の副官）
ナンダ（バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長）
ハクビ（眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍）
（国名）
ヴェルト大陸（この物語の舞台となる大陸）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国。第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國。金の産地）
（地名）
（兵種名）
（付帯能力名）
（竜名）
（その他）
紅い兵（朱雀騎士団ナンダの戦法、ゴッドフラメを実現するために選ばれた朱雀騎士団の中でも精鋭中の精鋭。『ロートゾルダート』とも言う）
神の炎（朱雀騎士団ナンダの一撃離脱の戦法。常勝の戦法で、『ゴッドフラメ』ともいう）
シェーレウィヒトライン（シェーレの率いる特殊部隊。『シェーレの妖精たち』ともいう）
〔参考二 大陸全図〕
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