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2011年08月09日12:28
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八大龍王伝説 【１５９ 第一龍王難陀（十五） 〜神の精神（こころ）〜】
いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。それでは早速、八大龍王伝説をはじめます。
【１５９ 第一龍王難陀（十五） 〜神の精神（こころ）〜】
〔本編〕
「キィィィィ〜ン！！」金属音が辺りに響き渡る。
ハクビにとって最悪の展開となった。昨年、目の当たりにしたナンダの究極の技が、お互いに同じ武器によって再現されていたのである。
つまり、ナンダの槍の穂先はハクビの長斧の刃先を針の穴ほどの接点で捉えたのである。
ハクビはその時、瞬時にあることを悟った。神と戦っているのだという実感をである。ハクビはナンダを彼の言うよう八大龍王という神であると確信していた。そしてそれを念頭において、常識を超えるスピード、正確無比の技量、そして人の時間では無限に続くと思われる持久力に対して、考え得る限りの可能性を熟慮して戦略を練った。
しかし、そこまでしか考えられなかったのは、ハクビの知恵の限界だったというよりも、それが人間の、神と言われる存在へどうしても届かない高みなのかもしれない。ハクビはそれに気付いたのである。
それとは神の、――人では考えられない精神力の強さである。ハクビが今まで戦ってきた中で一番精神力の強かった勇者（ひと）はヴォウガー玄武兵団軍団長である。
おそらく勇者と呼ばれる者は、「技」「体」が優れているのは当然として、「心」も強いはずである。『心』・『技』・『体』の三つが揃って初めて本当の強さが発揮されるのである。そういう意味ではヴォウガー軍団長など勇者の見本と言えるであろう。
しかし、そのヴォウガーを持ってしても『心』を穏やかで平静な位置で安定させるのは非常に難しい。ツイン城での戦い然（しか）り、マルシャース・グールでの戦い然り、ハクビと戦っている最中ヴォウガーは、常に『別事（べつじ）』で焦っていた。
その『別事』とは『自分の味方の状態』のことを指すが、詳しくは、前に戻られて『ツイン城の戦い』の回や、『マルシャース・グール奪還戦』の回でそれぞれ確認していただきたい。
ヴォウガーのこの『別事』への思いが心の迷いとなり、結果、ハクビが勝利する要因の一つとなったのである。実はナンダの今の状態が、前述した時のヴォウガーと条件が非常に似通っているのであった。
ナンダの置かれた状態を端的に説明すると、『ナンダ』・『ゴッドフラメ隊』・『その他の東方軍』の三つに朱雀騎士団が分断されている状態であり、このうち『ゴッドフラメ隊』は前後に挟撃され、『その他の東方軍』との合流も阻まれた状態で、壊滅に向かうのは時間の問題であった。
ナンダがそこまで把握していたかについては、確証はないが、おそらく神であるナンダのことであろう。ここの戦場の全てを把握していたと考えるのが自然であろう。そう考えると『その他の東方軍』も今は指揮系統が皆無であるため、烏合の衆となりかけているのも当然感ずいていたと考えるのが自然であろう。
つまり、『ゴッドフラメ隊』の壊滅を防げるのは、ナンダしかおらず、それも時間の問題であった。普通、このような状態に陥ったら、今の戦いをなるべく早く終わらせ、そこに合流しようと考えるのが人間である。そこに焦りや隙（すき）又は迷いが生まれる。
『今の戦いを少しでも早く終わらせるためには、今の戦いのみに全力を集中するのが、結果、一番早く、より良い状態で終わらせることができる』――誰もがそれは理屈としては分かっている。しかし理屈と感情は違う。「そう考えるようにしなければ……」と考えた時点で既に心は迷っている。
ナンダの精神力の強さは、そのような状態に置かれてもハクビとの戦いに全身全霊で臨んでいるという点である。それが、神としてのナンダの心の強さであった。そのようはナンダに、ハクビが仕掛けた�ー�液、��花油（かゆ）、�３擦稜吠辧↓ぅ疋薀乾鵐屮譽后↓セ阿弔良雋錙閉紘燹�短斧、短刀）の同時攻撃の数々の布石は、全くナンダの心を乱すことができなかったのである。
全てを知った上――例えば、油で穂先が滑りやすくなっているなど――で、ナンダの心は何の波風も立っていない平静の状態だったのである。人の身では思っても実行できない驚愕的な、奇跡ともいえる精神力の強さである。ハクビはナンダの究極の技を再び目にした瞬間、それを全て悟ってしまったのである。
戦っている者にとって、それは限りなく絶望に近い悟りであった。得物（槍）を持っているナンダには絶対に勝てないという結論であった。
それに対してハクビはどこまでも人間であった。それを悟って尚、勝てる望みがあるのでは……と心が乱れた。その心の乱れは、ハクビが握っていた両腕に現れてしまった。
長斧は、既に去年のナンダとの戦いにより、亀裂が一筋入っている。自己修復能力を有している長斧も、ナンダの槍の『不治の結界』の影響で全く自己修復能力が機能していない。その状態の長斧であるため、ナンダの槍の穂先で捉えられた瞬間、斧の上半分がバラバラに砕け散ったのである。
そしてその時、ハクビの人間的な拘（こだわ）りが、長斧から手を離さなかったのである。
「グッ！！」ハクビは呻（うめ）いて、あわてて長斧から手を離したが、遅かった。
「バギバギバギバギ！」鈍い籠もったような音がして、ハクビの両腕に激痛が走り、ハクビの意思とは関係なく両腕が下がった。ハクビがいくら動かそうと焦っても両腕はピクリともしない。間違いようがない。ナンダの技の衝撃がハクビの両腕の骨を粉々に砕いたのであった。
しかし、腕の激痛よりハクビの脳裏によぎった恐怖は、『死』であった。ハクビとナンダの距離は一メートル弱。ナンダの槍はいつでもハクビを突ける体勢になっている。そのハクビを守る物は――自分自身を含めて――何もない。
「じゃあ〜な！」ナンダは間延びした一言呟くと、ハクビの眉間目がけて見えない突きを繰り出した。その時であった。ハクビの体勢が左に振れた。ハクビの右胸の辺りに巨大な何かがが激突し、『巨大なそれ』とともにハクビは激しく後方に倒れた。『巨大なそれ』とは、ヴァイスドラゴネットの頭であった。
ヴァイスドラゴネットのカリウスはハクビを守るため、少し龍体を左に捻り、その力を利用して後方にひっくり返ったのである そのため、カリウスの頭は、ハクビの右胸に思いっきりぶつかったのである。カリウスの咄嗟とはいえ、大手柄ではあった。
しかしそれでも、ナンダの突きはハクビの眉間に当たり、ハクビの兜を砕いた。百分の一秒という一瞬よりさらに短い時間、ナンダの槍はハクビの眉間に直接接触した。ハクビとカリウスはそのまま仰向けに倒れこんだ。カリウスの巨大な頭の下敷きになったハクビの肋骨は砕けた。
しかし、ハクビはそのまま目を閉じたまま、肋骨が砕けた激痛への反応すらなかった。
“やはりダメか！ ナンダの槍に頭を一瞬でも突かれれば、人間の精神力では耐えきれない！ 脳は完全にナンダの炎で焼かれるので、なまじ息があっても植物人間状態は免れない！ いずれにせよ勝敗は決した！ 全てが終わった！”カリウスは倒れているハクビの前にペタリとうずくまってしまった。
そこから三メートルと離れていない場所に炎馬に乗ったナンダが、戦う前と変わりない姿で存在していた。
〔参考一 用語集〕
（龍王名）
（人名）
ヴォウガー（バルナート帝國四神兵団の一つ玄武兵団の軍団長。故人）
カリウス（沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう）
ナンダ（バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長）
ハクビ（眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍）
（国名）
ソルトルムンク聖王国（大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅（ウバツラ）の建国した國）
バルナート帝國（北の強国。第七龍王摩那斯（マナシ）の建国した國。金の産地）
（地名）
ツイン城（ソルトルムンク聖王国の最南端の城）
マルシャース･グール（ソルトルムンク聖王国の首都であり王城）
（兵種名）
（付帯能力名）
（竜名）
（その他）
ツイン城の戦いの回（037〜046の回）
マルシャース・グール奪還戦の回（071〜086の回）
炎馬（馬と火竜（或いは炎竜）の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う）
〔参考二 大陸全図〕
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