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2011年08月04日14:04

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八大龍王伝説 【158 第一龍王難陀(十四) 〜攻撃と防御〜】


 いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。
 シェーレの話が一段落して、ハクビとナンダの戦いに戻ってきました。
 それでは八大龍王伝説をはじめます。


【158 第一龍王難陀(十四) 〜攻撃と防御〜】


〔本編〕
「そろそろ仕掛けるか! カリウス! 僕はそろそろ限界だ!」ナンダの突きをかわしながらハクビがカリウスに言った。
 龍王暦一〇五一年七月二六日、ハクビとナンダの一騎打ちはさらに二十分続いて午後〇時五十分になっていた。二十五分間続いた一騎打ち。攻める側に比べて守る側は倍以上の気力、体力を消耗する。
 攻める相手のペースに乗らなくてはいけないからである。それもナンダの突きは目に止まらないため、全ての突きを全身全霊で対処しなければならない。それを怠ると致命的なダメージを蒙(こうむ)るからである。
 さらにナンダの持久力は無尽蔵であるため、疲れによる攻撃の乱れを期待することはできない。そういう意味で二十五分経って疲れを感じ始めたハクビとしては、攻撃に転ずるギリギリのところであった。
 『攻撃は最大の防御』という言葉がこの時代より後世に残っている。攻撃をしている間は、敵はその対処に追われるため、自分は自軍が攻められる心配をしなくていいという意味である。しかし、それは敵が戦闘不能になるまで、攻撃をし続けるという大前提の上での言葉である。
 つまり、攻撃が途絶えた時点で攻撃を仕掛けた側は終わりである。既に防御という選択肢はこの時点ではとっくに尽きているのである。そういう意味では『攻撃は最大の防御』の対の言葉として『防御は最大の攻撃』と言えるであろう。
 何物も受けつけない『鉄壁の防御』というものは、相手の攻撃が鈍ったり或いは尽きたりした時点で、一気に攻撃に転ずることができるからである。そういう意味では最大の攻撃と呼べる。結論としては攻守の切りかえに優れている者が最終的には勝者となるのである。『攻撃は最大の防御』と『防御は最大の攻撃』は二つで対となって、真実を語っている言葉と言える。
 少し言葉の意味合いを論じて、物語が横に逸れたようになってしまった感があるが、要するに気力と体力に限界を感じつつあるハクビにとって、これ以上の防御は無理であり、無理な以上攻撃に転ずるしかないのである。そしてその攻撃の失敗は許されない。なぜならその失敗の後には自身の死という決定的な結果しかないからである。
 ナンダが連続で三回突き、それをかろうじてかわしたハクビ。ハクビはナンダの攻撃パターンから、かなりの確率で予測できるようになっていた。ハクビのかわした体勢が、あまり崩れていないと見てとったヴァイスドラゴネットのカリウスは一歩前へ踏み出した。
 ハクビの長斧の射程距離に入ったので、今日何回目かの炎馬(ファイアーホース)の後退が起こった。今まではこの炎馬の後退によって、ナンダの槍の突きへと続くパターンであった。
 しかし、この時は違った。カリウスがもう一歩足を前に踏み出し、同時に前足を挙げて二足歩行の状態になったのである。本来であれば、ナンダが二足歩行になったカリウスを槍で貫いて、勝負は決するのだが、ナンダはカリウスを槍で攻撃しない。
 ナンダには、『敵は攻撃するが、敵の騎乗している動物には攻撃を加えない』という信条があるからである。この信条の『動物』は、ナンダが優秀であると認めた動物という条件は含まれるが……。とにかく逆に言うと、その信条をハクビが理解した上で作戦に利用したのである。
 巨大なカリウスの上半身にハクビの体は隠れてしまい、カリウスを攻撃しない限り、ナンダはハクビに攻撃できないのである。
 続いて、カリウスが息(ブレス)を、ナンダと炎馬に吹きかけた。息は高熱の炎となり、ナンダと炎馬を包み込んだのである。この大陸で最も硬い金(ゴールド)を溶かす『龍の息(ドラゴンブレス)』である。むろん、他者には死をも賜るドラゴンブレスではあるが、ナンダにとっては目を瞑(つむ)ることすら必要のないもの(炎)であった。炎馬もさすが、龍の血を引いているだけのことはあり、少し首を潜(ひそ)めるぐらいであった。
 しかし、ハクビにはそれで充分であった。ナンダも炎馬も見た目には、際だった動きはないが、少なくとも今までとは違うパターンの行動に対する困惑が少しはあると考えた。思っても見なかった敵の行動は余裕を持っていた者でも少しは慌てる。当然、ハクビとしてはその隙に、自身が勝利するパターンに持ち込むつもりでいた。
 主導権(イニシアチブ)を握るのである。いや、握り続けるのである。
 カリウスは、ブレスを吐いたと同時に後ろ足をもう一歩踏み込み、前足で炎馬にのしかかった。炎馬は五トンの体重のカリウスにのしかかられた重みで自由を封じ込められた。そのため炎馬は馬首を起こそうとし大いに暴れた。カリウスが炎馬にのしかかったので、カリウスの影に隠れていたハクビがそこに現れた。
 ハクビはナンダを見とがめると同時に、(既に左手で握っていた)短斧を投げた。さらにほぼ同時に右手に握っている長斧を、ナンダの頭上目がけて振り下ろしたのである。短斧を投げた左手は右手に合流するように、長斧の柄で合わさった。ナンダの、目には止まらない槍術が展開され、短斧が、(一般の人の目で見たら)見えない空間にぶつかったように弾かれた。
 その同じ瞬間に、ハクビは長斧を握っている左手の人差し指と中指の二本の指だけで、何かを放った。『短い刃物(クルツシュナイデ)』であった。それがナンダの右眼を狙って空を切った。ナンダは一連の槍術に一行程(ワンアクション)を加え、右目を狙っていたクルツシュナイデも弾いた。ナンダのあり得ない動体視力であり、あり得ない槍捌(さば)きであった。
 しかし、ハクビは長斧の一撃にかけていた。既にハクビの長斧は、ナンダの頭上から三十センチメートルの位置である。普通であれば、ハクビの勝利が確信できる状況である。
 しかし、ナンダには刃先を穂先で捉える奇跡とも言える究極の技を持っている。ハクビとしては、あらゆる手でその技が失敗する手段をこうじてきた。
 いわゆる、鎧に塗り込まれた樹木の液。全身に塗っている『ソルトルムンクシラユリ』の油。砕けた鎧の破片。それらが付着したナンダの槍の穂先。短斧、短刀、長斧の同時攻撃。究極の技の成功率を考えられる限りの範囲で低くした……。
 この技は刃先と穂先の接点という非常に小さなターゲットで攻撃している者へのカウンター的な技なので、それを外せばハクビの長斧は間違いなくナンダの頭上を砕く。まさにこの一撃でハクビが勝利できるのである。
 ハクビは長斧を握っている両手に力を込めた。まるでそれは合掌をしているようであった。ハクビは一縷(いちる)の望みを神に託したのである。神との戦いにおいて、どの神に祈りを捧げればいいのかそれについては不明ではあったが……。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(人名)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)
 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金(ゴールド)とは別物と考えてよい)
 ソルトルムンクシラユリ(ソルトルムンク聖王国に生息するシラユリ)


〔参考二 大陸全図〕
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