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2011年07月14日15:48

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八大龍王伝説 【154 第一龍王難陀(十) 〜布石〜】


 いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。今回はハクビとナンダの戦いを、一つの視点でお送りします。それでは八大龍王伝説をはじめます。


【154 第一龍王難陀(十) 〜布石〜】


〔本編〕
 龍王暦一〇五一年七月二六日午後〇時三十分頃、戦いが始まって約七分。ハクビとナンダが一騎打ちをはじめて約五分が経った。
 今のところナンダが接近して、突きを一撃から三、四撃放った後、少し距離を置くという戦いが十回程度繰り返されていた。相変わらずナンダの突きは目には止まらない。しかしナンダの手首や腕の角度、または狙うポイントの予測などでハクビは、ナンダの槍をかわしていった。
 そのかわしは紙一重であり、二回に一回は鎧に擦(かす)り、また時にはハクビの得物の長斧(ちょうふ)で受け止めたりしていた。
 それでも昨年の戦いとは雲泥の差であった。ナンダの突きは非常に正確で、ハクビの急所を狙っているため、ポイントが絞りやすい。そして、ナンダはハクビの騎乗しているカリウスには一切攻撃を仕掛けない。敵とはいえ、その騎乗している動物を狙わないのは、ナンダの信条の一つであろう。
 それでも全力でかわさなければいけない攻撃には変わりはないが、カリウスが自身の身に危害が及ぶのを一切考える必要がなく、ハクビの体(たい)の状況――つまり、体の傾き具合などでカリウスが一歩踏み込めると判断した時には、カリウスはナンダに向かって一歩踏み込んでいるのである。
 そのためナンダの数撃の突きを凌いだ後、ハクビの長斧の射程圏内にナンダをとらえることができる状態が数度作られた。ナンダが何撃目かの突きの後、炎馬を後退させて距離をとるのはそのせいであった。一見、ナンダの隙をつくだけのハクビの戦法は、無意味なように思われた。
 しかし、ハクビは勝つためのいくつかの布石を打っていたのである。
 一つがハクビの兜や鎧といった防具である。一見しただけでは、どこにでもあると思われがちな流線型の形をした鎧だが、ソルトルムンク聖王国の伝説の鍛冶職人であるハクルスが、一念を込めて作った最上級の鎧なのである。
 ハクルスは年齢五十五歳。彼の家は代々ソルトルムンク聖王国の首都マルシャース・グールにおいて、鍛冶職人を営んでいた。八代に渡り、王や将軍といった第一級の人々の鎧などを作ってきた優秀なハクルスの家系にあって、なお、ハクルスは『天才』とか『歴代で最も優秀な鍛冶職人』と呼ばれていたのである。
 去年の三月にバルナート帝國によって王城が占拠されたとき、ロードハルト帝王は殺してはいけない人物の一人にハクルスを、攻撃してはいけない建物の一つにハクルスの仕事場を入れていた程であった。
 今年、ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦になって、間もなくの一月(いちがつ)、ハクビからの兜、鎧をはじめとする防具一式の作成依頼がハクルスに来た。その時の依頼内容を知ってハクルスは唸(うな)ったのである
「このような鎧を作れとは……これを依頼した者は、よほど天才的な頭脳の持ち主か! 或いは道理が全く分からない大馬鹿か! いずれにせよ、このような鎧を作れるのは大陸広といえども儂(わし)だけじゃろう! 儂の全精力をかけて取り組もうぞ!」
 この防具一式の作成に、普通は一週間ほどで防具一式を作成することができる彼(ハクルス)をして、三ヶ月の日数を要したのである。とにかく、ハクビに依頼されて作られた防具一式は、この大陸で最も硬い金(ゴールド)を一ミリメートル単位の薄さにして、三層に仕上げられていた。
 それは緩やかな曲線を描いており、微妙に三層をずらして加工されていた。曲線の特徴は、外部から中心への直線的な圧力を、面に沿って分散させ、中心部に向かおうとしている力を激減させたり、その力のベクトルを変えたりすることができることである。
 それが、三層が若干ずれていることにより、仮に一層目でうまく曲線の働きを充分発揮できなくても、二層目、三層目において曲線の働きを発揮させる確率を高くすることができるのである。
 さらにそれぞれの層が、ずれているが故にできる百分の数ミリメートルの鎧の隙間に、特殊な樹木の液が注がれている。その樹液は、外気に触れると固まって重くなるという性質を持っている。武器でこの鎧を斬りつけることによって、その樹液が武器の刃に付着し固まることによって、刃先の鋭さ、武器の重さが微妙に変わってくるのである。
 布石はこれだけではない。その鎧をはじめとする防具一式に、ソルトルムンクシラユリの花から採れる油を塗っていた。当然、油を塗ってある部分は滑り易いという性質がある。さらにソルトルムンクシラユリ自体非常に発火性が高い。
 昨年の八月にハクビ小隊が、ツイン城を攻めている帝國玄武兵団に夜襲を行った時、ハクビがこの花を煎じた粉を松明の火に入れたことがあったが、その時、白く燃え上がったところからその発火性の高さを裏付けることができるであろう。
 当然、ナンダの槍が防具をかすれば、その油が付着する。防具をかするにしても、それは一般の目には止まらないほどの超高速のため、かすった部分が摩擦で熱を持ち、シラユリの油が発火し、燃焼するのである。その燃焼という現象で、防具の隙間に注がれている樹木の液が、さらに固くなり、武器から剥がれにくくなるのである。
 さらにもう一つの布石が、ジロー率いる救急小隊の治癒の魔術である。当然、ナンダの槍は治癒の呪文を遮断する結界を発生させるため、治療や修復という点で考えれば意味をなさない。ハクビはジローにハクビの防具全体に薄い膜のように、治癒の呪文をかけるよう命じてあった。ジローには何故かは分からなかったが、ジローはハクビの言うことには一切疑念を持たずにそれに従った。
 これはナンダの槍の結界を逆に利用した手なのである。呪文の薄い膜(見えるわけではないが……)は、ナンダの槍がハクビの鎧に接触する時、その槍の結界から逃れようと、そこの『呪文の膜』が他の場所に押し出されようとする。しかし接触した場所以外の部分は特に外部の働きかけがないので、『結界から逃れてきた呪文の膜の部分』は、接触した場所以外の呪文の膜に圧迫される。
 圧迫された部分はその圧力に押されて、『結界から逃れてきた呪文の膜』は逆流して押し返される。その逆流した圧力と槍の結界による押し合いがそこで起き、膜の逆流した力が勝ると、結界を有している槍が圧力に負けて、その槍のベクトルが微妙に変わるのである。
 三層でできている防具、樹液、花の油、呪文の膜、これらはどれもナンダの槍に対して軽微な、それもほとんど干渉されていないと感じるほどの影響しか及ぼさないが、これらの相乗効果と、さらにはハクビの身体能力がプラスされ、ナンダの驚異的な槍の攻撃能力を回避或いは迎撃できるのである。
 それが実際に、今十手以上のナンダの突きをハクビがかろうじて有効打にしていない所以(ゆえん)であろう。そしてハクビは、ナンダの槍がハクビの防具を削ることによって、槍の穂先に樹液、花の油、さらに鎧の細かい破片が付着していく状態を見て、ナンダの『究極の技』になんら、影響が出るであろうことを期待していた。
 ナンダの『究極の技』――つまり槍の穂先で敵の武器の刃先をとらえるあの奇跡とも言える驚愕の技のことである。



〔参考一 用語集〕
(龍王名)

(人名)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 ジロー(ハクビ将軍の配下の者)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)
 ハクルス(ソルトルムンク聖王国一の鍛冶屋)
 ロードハルト帝王(バルナート帝國の帝王。四賢帝の一人)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 ツイン城(ソルトルムンク聖王国の最南端の城)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(兵種名)

(付帯能力名)

(竜名)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)
 玄武兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ヴォウガーが軍団長)
 ゴールド(この時代において最も硬く、高価な金属。現在の金(ゴールド)とは別物と考えてよい)
 ソルトルムンクシラユリ(ソルトルムンク聖王国に生息するシラユリ)
 ハクビ小隊(ハクビが初めて指揮した小隊。マーク、レナ、ドンクなど九人が所属する)


〔参考二 大陸全図〕
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