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2011年06月29日23:28

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八大龍王伝説 【151 第一龍王難陀(七) 〜決死の足止め〜】


 いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございます。今回はハクビがいかにナンダとの一騎打ちに持ち込めるかという場面です。それでは八大龍王伝説をはじめます。


【151 第一龍王難陀(七) 〜決死の足止め〜】


〔本編〕
 ハクビとナンダの距離が二十メートルをきった時、ハクビは左手を背中に回した。左手を背中に回した同じ瞬間、ハクビの左手はナンダの顔面向かって短斧(たんふ)を投げつけていた。
 昨日と同様にナンダは降り注ぐ聖王国軍の矢を『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』で叩き落としているところであった。ナンダはその短斧を、笑みを浮かべる余裕を持って、自らの槍で弾いた。
 しかし、その短斧の影からハクビの長斧(ちょうふ)が目に入った。長斧は、短斧と同様にハクビによってナンダ目がけて放たれたのである。
“何? 自らの武器を全て投げたのか? なんだこの戦法は? 自棄(やけ)になっているのか?”
 この思いが、ナンダを一瞬躊躇(ちゅうちょ)させた。時間にして百分の一秒に満たない短い時間である。それでもナンダはやはり自身の槍で短斧に続き、長斧も弾いた。
 しかし、その間に二人の距離は五メートルに縮まっていた。ナンダは、ハクビによって投げられた両斧への対応に追われ、槍を突き出すという行為の前段である槍を後ろに引くため行動時間がなくなった……そうハクビは判断して、鎧の肩の部分に隠されていた第三の武器『短い刃(クルツシュナイデ)』を右手に握った。
 ハクビとナンダの距離は二メートル。完全に三メートルの『紅き火の槍(ロートフォイアーランツ)』で迎撃できる距離より内側に入り込んだ。
“この距離では槍は満足に使えない!”ハクビはそう判断した。
 ところがである。
「ウッ!!」ハクビが短く呻(うめ)いた。
 ナンダの槍がハクビの左脛(すね)を貫いたのである。ハクビからすれば、ナンダが槍を突くために槍を後ろに引く時間を、両斧の連続投擲によって、完全に失わしめたと思ったのであった。
 しかし、ハクビのこの考えを真っ向から打ち砕くほど、驚異的な速さを誇るナンダの槍術であった。槍を瞬時に引いて突いたのである。
 しかし、突きを繰り出したといっても、さすがにナンダの槍もハクビの眉間や心臓といった急所を狙うほどの余裕はなかった。それら急所より下方部にある脛に槍を繰り出したのは、そういった理由からであった。
 ハクビはナンダの懐(ふところ)に飛び込み、クルツシュナイデで鎧の隙間からナンダの体を刺し通す目算でいた。これは今年の二月、ゴンク帝國の竜の山脈(ドラッヘゲビルゲ)において、龍人のソヤが扮する白い仮面の騎士と戦った時の戦法であった。
 しかし、その戦法はナンダの槍によって阻まれた。ナンダはハクビの左脛に刺さった槍を引き抜かなかったのである。そのため、ハクビはナンダの懐に飛び込むことができなかった。
 わずか十センチメートル程度のクルツシュナイデがナンダに届くわけもなく、仮に投げたとしてもナンダの鎧によって弾かれるのがおちである。
“失敗か!”焼きごてを左脛(すね)に突き入れられているような激痛を感じながらハクビには、自身の左側を炎馬に乗って通り抜けるナンダを見守るしか手はなかった。
 ところがである。
「お前の挑戦を無駄にはしない!」ヴァイスドラゴネットのカリウスが叫んだ。そう叫ぶと同時にカリウスは、前足を大きくあげ、後ろ足のみの二足歩行の形になり、体を左に捻り、ナンダの騎乗している炎馬の尻に前足の爪を突き立てた。
 カリウスの爪は、炎馬の鎧に食い込んだ。炎馬は後ろ足を蹴り上げ、それがカリウスの顎に命中したが、それでもカリウスは前足の爪をホースの尻の鎧にくい込ませたままであった。
 カリウスは口が血まみれになりながら、炎馬に引き摺られる形になった。
 この頃の馬(ホース)の体重は約五百キログラム。ホースよりひとまわり大きい炎馬の体重は八百キログラムにはなる。しかし、それに対し小型竜(ドラゴネット)の体重はホースの十倍の五トンにおよぶ。いかに強脚(ごうきゃく)のナンダの炎馬といえども、五トンの重さのドラゴネットを引き摺りながら走り続けるのは不可能である。
 炎馬はみるみるスピードが落ちてきた。
「「ナンダ様!」」ナンダのすぐ後ろのカイとキーグが同時にナンダに声をかけた。
「カイ! キーグ! 俺に構わず、ゴッドフラメを継続せよ! 俺は後から合流する! 心配するな!」
 そう答えたナンダは褐色に塗装された炎馬の尻にしがみついているドラゴネットを睨みつけた。
「死ね!」ナンダは短く呟くと、自分の得物の槍でカリウスを突こうとして、後ろに引こうとした。
「何!」ナンダは、今度はハクビの方を向いた。左脛をナンダの槍によって貫かれているハクビが必死になって、槍を脛から抜かせないように左手で強く槍を握っている。
「えい! 往生際の悪い奴が……」ナンダはそう言い捨てると、全力で槍を抜きにかかった。ハクビとしては、ここでナンダに槍を使われるということは絶体絶命を意味する。
 カリウスが倒されれば、両足(右腿と左脛)を槍で貫かれている――つまり両足が使えないハクビにとって、ナンダを倒す術はない。
 しかし、脛(すね)からの激痛で、ともすると気を失いそうになるのを、ハクビは持ち前の気力で保っていた。ナンダの槍の抜こうとする力はかなり強い。さらに『紅い火の槍』の呪いは傷口の治癒を不可能にする以外に、槍の刺してある箇所とその当事者に絶え間のない激痛を注ぎ込んでくる。
 ハクビが必死にナンダの槍を握ろうとも、徐々に槍は抜けていく。ついに、ナンダは槍をハクビの脛から引き抜いた。
 ……と同時に、(ハクビを乗せた)カリウスを引き摺っていた炎馬が、腰から砕けるようにして、左に横倒しになった。そしてその右側を百人の朱雀騎士団ゴッドフラメ隊が、ナンダと炎馬を残して速度を落とさず過ぎ去っていったのであった。
 ナンダは炎馬から飛び降りて地面に仁王立ちになったが、両足の使えないハクビは炎馬とカリウスと共に転がった。ハクビの率いていた四百人の第一陣は予(あらかじ)め指示されていたのだろう……ハクビとナンダを囲むように、ゴッドフラメが通り過ぎたその場で直径百メートル程度の円陣を展開した。
 ハクビはその円陣の中で転がりながら座り込み、二十メートル先に落ちている長斧と短斧に向かって手を伸ばし、精神を集中した。両斧は、まるで魔法にかかったかのようにハクビの元に飛んでいきその手に治まった。
“試してみるものだな!”ハクビは自分自身の潜在能力に改めて驚いていた。
 これは十六の付帯能力(アドバンテージスキル)のうちの一つ『物体転移スキル』である。物体を自由に動かせるこの能力としては、手に持てる程度の重量の武器を、二十メートル程度先から、自分の下に呼び寄せるのは初歩の初歩である。
 しかし、歩けないハクビとしては、とりあえずその能力を意識して試してみたのである。結果、ハクビの潜在能力の深さを証明する一事(いちじ)となったのであるが……



〔参考一 用語集〕
(人名)
 カイ(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 キーグ(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)
 ゴンク帝國(南東の小国。第三龍王沙伽羅(シャカラ)の建国した國。ドラゴンの産地。『城塞帝國』の異名を持つ。今は滅亡している)

(地名)
 ドラッヘゲビルゲ(ゴンク帝國の東に位置する山脈。八つの山から成り立っており、大陸で一番ドラゴンが生息している場所。『竜の山脈』とも言う)

(付帯能力名)
 付帯能力(ごく一部の者にだけそなわっている能力。全部で十六ある。『アドバンテージスキル』ともいう)
 物体転移スキル(十六の付帯能力の一つ。物体を別の場所へ移動させる能力。一部分だけを他の場所へ瞬間移動させることも可能)

(竜名)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

(その他)
 炎馬(馬と火竜(或いは炎竜)の混血の馬。『ファイアーホース』とも言う)
 神の炎(朱雀騎士団ナンダの一撃離脱の戦法。常勝の戦法で、『ゴッドフラメ』ともいう)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
 龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される。

 龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される。ハクビは記憶喪失。

 龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談。その席上コリムーニ老聖王が急死する。
 同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)。
 同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落。聖王国滅亡。ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む。
 同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す。以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する。
 同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす。
 同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い)。帝國軍ツイン盆地より撤退。
 同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する。
 同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす。
 同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす。
 同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生。ソルトルムンク聖王国の復活。
 同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する。
 同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される。

 龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)。
 同年二月十五日 ハクビが『第八の山』でカリウスと会う。
 同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う。ミケルクスド國が勝利する。
 同年同月二〇日 ソルトルムンク聖王国が敗戦処分を行う。マークは反逆罪になる。
 同年同月二四日 マークがミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着。ラムシェル王に謁見する。ホルム、スリサの両親と再会する。
 同年五月二五日 ハクビがスキンムル城に到着。
 同年七月一日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の期限が切れる。
 同年同月一日〜 バルナート帝國朱雀騎士団がマルシャース・グールに向けて進軍を始める。
 
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