mixiユーザー(id:15312249)

2011年06月24日12:55

7 view

八大龍王伝説 【150 第一龍王難陀(六) 〜紅い兵(ロートゾルダート)〜】 


 いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。今回で小説も百五十回の節目を迎えました。ここまでこれたのは、読者の皆様の応援のおかげです。ますます頑張って続けますので、よろしくお願いします。
 それでは八大龍王伝説をはじめます。


【150 第一龍王難陀(六) 〜紅い兵(ロートゾルダート)〜】


〔本編〕
 龍王暦一〇五一年七月二六日、スキンムル城から東へ五百メートルの地点で、ある軍勢の動きがあった。ハクビ将軍率いる聖王国一万の軍である。
 昨日、ハクビ将軍から命じられた魚鱗の陣への変更の動きであった。その配置換えは、バルナート帝國朱雀騎士団東方軍から西側に五百メートルと離れていない場所で堂々と行われた。
「ナンダ様! 我々を愚弄するにもほどがあります。この虚をつけば、一万の軍勢といえども簡単に瓦解するはずです」ナンダの近くに控えていた兵がナンダに向かって言った。
「気にするな! 勝手にやらせておけ!」
「しかし……」ナンダの言葉にその兵は不満そうであった。
 ナンダにはこの敵の陣の移動が、聖王国軍の誘いであると看破していた。一見、無秩序の配置換えに見えるが、敵軍の中核(コア)は移動していない。おそらく、帝國軍がこれを機に攻めかかれば、この中核の軍勢が繰り出され、逆撃を蒙(こうむ)るであろう。
 ナンダとしては、敵軍の陣形を見極めた上で、戦法を考えるのが最良であると考えた。いずれにせよ戦法は“どこに『神の炎(ゴッドフラメ)』を打ち込むか”という、場所を確定するだけなのだが……
「ゴッドフラメの交代の準備は整っているか?」
「はっ! 一波の人数は百人で、十波分の準備が整っております。むろん昨日、ゴッドフラメに参加した部隊は今日の人数には含まれておりません」
 ナンダの問いに傍(かたわ)らに控えていた兵が答えた。
「よし! 昨日、ゴッドフラメに参加した者は疲れも残っておろう! しかし、十波は大げさだなぁ〜! それだけあれば、聖王国どころか大陸全土を制覇できるぞ!」
 そう言うとナンダは大声で笑った。ナンダの笑い声に朱雀騎士団の者達が皆、つられて笑った。
 どのような状況においても、陽気なナンダを指揮官に戴く朱雀騎士団には落ち込むということがなかった。つまり、負けるという気持ちには、どのような時でもならなかったのである。
 実際に朱雀騎士団は負けなかった。今度の戦いも三千対一万。三倍以上の戦力差があるにもかかわらず悲観している帝國兵は皆無であった。
 さて、この時ハクビは聖王国軍の中核に待機していた。ナンダの軍が仮に動いた場合は、中核の二百が対応するつもりでいた。そのため中核は他の軍勢が配置換えをしている中、全く動いておらず、敵軍(帝國軍)の動きをじっと凝視していた。
「やはりナンダは(中核軍に)気づいていたか! それはそうと朱雀騎士団の明るさは、我が軍にとっては厄介なことだな! やはりナンダを攻略するしか手はないな。逆に言えばナンダさえ何とかできれば、朱雀騎士団を撃破することも可能だ! カリウス! 今日こそ失敗できないな!」
 ハクビは騎乗している白い小型龍(ヴァイスドラゴネット)のカリウスに話しかけた。
「そうだな! ところでハクビ! 攻略法はあるのか?」
「ない!」「何?!」
「いや、昨日一晩考えたが何も思い浮かばない。ナンダの出方次第で臨機応変に動くしかないな!」
「フッ! なんと頼りになる指揮官だ! 兵士達が聞いたらびっくりだぞ!」
 そうこうするうち二時間かけて聖王国軍の配列が整った。菱形の陣が四つ。東西南北に頂点を向けた菱形。その菱形がやはり東西南北に配置されている。
 東から時計回りで配置を説明すると、東に四百人程度の小さな菱形の陣――指揮官はハクビ将軍である。続いて南に三千二百人程度の巨大な菱形の陣――指揮官はドンク。同じく西に三千二百人程度の陣――指揮官は顔を頭巾で覆っている龍人(ドラゴノイド)のソヤ。最後に北にやはり三千二百人程度の陣――指揮官はシェーレである。
 ここで便宜上、ハクビの陣を『第一陣』、ドンクの陣を『第二陣』、ソヤの陣を『第三陣』、そしてシェーレの陣を『第四陣』と呼ぶことにする。
「よし、敵の配置換えが終わったようだな! 全軍に指示を送れ! 二十分後に進撃を開始する」ナンダのこの言葉に、朱雀騎士団の兵は活気づいた。
 龍王暦一〇五一年七月二六日の午後〇時を三分程度過ぎた夏の昼。例年より少し涼しい夏。ここで歴史に残る壮絶な戦いが繰りひろげられるのである。

 龍王暦一〇五一年七月二六日午後〇時二十三分。バルナート帝國朱雀騎士団東方軍が徐々に動き出し、それに応えるかのようにソルトルムンク聖王国人和将軍ハクビの軍が動き出した。
 これは前日と全く同じ流れであった。両軍の距離が四百メートルになったとき、帝國東方軍からナンダを先頭に後ろに二列の陣形を組み、最大全速で聖王国の陣へ向かってきた。
 ゴットフラメ――神の炎である。これも前日と全く同じであった。
 それに対し、一番帝國軍の陣に近いハクビ率いる第一陣が、ハクビ将軍を先頭にナンダに向かって、やはり最大全速で動き出した。これも前日を同じ動きであった。
 しかし、一点違うところがあった。それは前日のハクビの軍は、ナンダと同じ二列で進撃したが、今日はハクビを中心にした、後に『鶴翼の陣』と呼ばれる陣の形態に変化した。
 中心から左右に鶴が翼を広げたような形なので後世そう呼ばれていたが、この時代には鶴は存在していないので、名づけるとしたら鷲(わし)の翼――鷲翼(しゅうよく)の陣とでもするのであろうか。
 それを見たナンダのすぐ後ろの右側の兵が嘲るように笑った。
「馬鹿か! 陣形をいくら縦長にしようとも、このゴッドフラメを止めない限り、あんな薄っぺらな陣、簡単に突破されるのに……」
「カイ! 無駄口はたたくな! 我がゴッドフラメ隊はどんな時でも油断をしてはいけない。我らは朱雀騎士団の中でも選ばれた者――紅い兵(ロートゾルダート)だ! その認識を忘れるな!」
「はいはい! 相変わらずキーグは真面目だなあ。そんなことは分かっている! 心配するな」カイは、左隣のキーグと呼んだ兵に言った。
「カイ! 我々の役割は、ナンダ様の左右と背後をお守りし、かつ後続の兵を先導する重要な役だ。それは忘れてはいけないぞ!」カイのすぐ後ろの兵が言った。
「だから分かっている! キーグだけでなくクボルソードもくそ真面目だな〜。俺たちはゴッドフラメ戦法のため、多くの兵の中から選ばれた五十人しかいないロートゾルダートだ。その気概は忘れていないぞ!」
「大丈夫だ! カイは……ナンダ様がゴッドフラメの第二波(第一波は昨日)の右前に選んだ男だ。若いが故に言動が軽く見られるが、戦況を読む冷静さは、戦いが佳境に入るほど鋭くなっていく。キーグもクボルソードもそんなに心配することはないぞ!」
 キーグの後ろ、クボルソードの左隣の兵が言った。
「さすがケズリ! 分かっているじゃないか……おお〜無駄口どころではない。間もなく聖王国軍と接触するぞ!」
 ナンダのすぐ後ろの紅い兵所属のカイ、キーグ、クボルソード、ケズリの四人は真っ直ぐ前を向き、常勝の戦歴を刻むべく、ナンダに付き従った。



〔参考一 用語集〕
(人名)
 カイ(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 カリウス(沙伽羅龍王に仕えていた白い小型龍。『ヴァイスドラゴネット』とも『白き小型龍』ともいう)
 キーグ(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 クボルソード(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 ケズリ(バルナート帝國朱雀騎士団の兵)
 シェーレ(ハクビ将軍の副官)
 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)
 ドンク(ハクビ将軍の副官)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 スキンムル城(ソルトルムンク聖王国の東部地域の城)

(竜名)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

(その他)
 紅い兵(朱雀騎士団ナンダの戦法、ゴッドフラメを実現するために選ばれた朱雀騎士団の中でも精鋭中の精鋭。『ロートゾルダート』とも言う)
 神の炎(朱雀騎士団ナンダの一撃離脱の戦法。常勝の戦法で、『ゴッドフラメ』ともいう)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
 龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される。

 龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される。ハクビは記憶喪失。

 龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談。その席上コリムーニ老聖王が急死する。
 同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)。
 同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落。聖王国滅亡。ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む。
 同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す。以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する。
 同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす。
 同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い)。帝國軍ツイン盆地より撤退。
 同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する。
 同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす。
 同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす。
 同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生。ソルトルムンク聖王国の復活。
 同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する。
 同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される。

 龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)。
 同年二月十五日 ハクビが『第八の山』でカリウスと会う。
 同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う。ミケルクスド國が勝利する。
 同年同月二〇日 ソルトルムンク聖王国が敗戦処分を行う。マークは反逆罪になる。
 同年同月二四日 マークがミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着。ラムシェル王に謁見する。ホルム、スリサの両親と再会する。
 同年五月二五日 ハクビがスキンムル城に到着。
 同年七月一日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の期限が切れる。
 同年同月一日〜 バルナート帝國朱雀騎士団がマルシャース・グールに向けて進軍を始める。
1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する