mixiユーザー(id:15312249)

2011年06月14日17:28

13 view

八大龍王伝説 【148 第一龍王難陀(四) 〜四つの菱形〜】


 いつもお読みいただいている皆さま、ありがとうございました。
 グラフ将軍の活躍により、軍の崩壊を免れたハクビは次なる手を打ってきます。
 それでは、八大龍王伝説をはじめます。


【148 第一龍王難陀(四) 〜四つの菱形〜】


〔本編〕
 遡ること四日前の龍王暦一〇五一年七月二一日、ドプトル率いる四千のバルナート帝國朱雀騎士団南方軍の前に立ち塞がる軍がいた。
 総勢一万のグラフ将軍の率いるソルトルムンク聖王国軍であった。
 攻撃の際には他国の兵の三人分の力を発揮するといわれている帝國の兵。しかし、防御に回るとその脆(もろ)さを途端に露呈した。
 攻撃では少数でも多数を圧倒できるが、防御では絶対的に数の多い方が有利である。従って三時間に及ぶ戦闘の結果、バルナート帝國南方軍は死傷者二百名を出し、残りが四散したことにより全滅した。
 『小ナンダ』の異名をとる指揮官ドプトルも、聖王国地利将軍グラフとの戦闘で敗れ死亡した。
「さすがはグラフ将軍! 快勝でしたな……」大隊長で副官の代理を務めている六十代の老兵が話しかけた。
 グラフ将軍の副官はスルモンとコリードであるが、スルモンは王城マルシャース・グールに残り、コリードはマルシャース・グールより南方の地域にいるバルナート帝國白虎騎士団を牽制するため、共和の四主の一人、通称『山の導師』という人物と接触しているため、今、グラフ将軍の元にはいなかった。
「しかし、わしは王城が気がかりじゃ! 将軍! すぐに引き返しましょうぞ!」
「翁(おきな)よ! 今から戻っても敵の北方軍には間に合いませんな! しかしご安心を……策は施してありますから……むしろ慌てて戻らず、ここから北方にあるスキンムル城に向かうように移動した方が、策はうまく行くでしょう」
「そうなのですか! わしには難しいことは分からないので……」副官代理の老兵は頭をかいた。
「ところで将軍! 何故南方軍を攻められたのですか? 主力はナンダ軍団長が率いる東方軍ですが、次の二番手は朱雀騎士団の副官バーフェムが率いている北方軍なのに、その次の三番手の南方軍をターゲットになされた。確かに『小ナンダ』の首も価値はありますが、副官バーフェムの首の方が格は上なのでは……」
「はっはっはっ! 敵も翁と同じ事を考えるでしょうな……それでいいのです。この策戦は、知者であるバーフェムには有効に働きますが、知者でないドプトルには全く無効でしょう」
「……?」副官代理の老兵にはさっぱり理解できなかった。
「知者には有効で、知者でない者には無効な策? そんなものがあるのですかな!」
「まあ……今夜はここで夜を明かしますので、共に酒でも酌み交わしましょうぞ。翁!」赤ら顔のグラフ将軍が笑いながら老兵の肩をたたいた。
 翁(おきな)とは、この頃の老人に対する尊称(そんしょう)である。

「まさに、神の炎(ゴッドフラメ)の名の通り、恐ろしい戦法です! ナンダの一撃離脱の攻撃は……」
「シェーレでも恐怖を感じることがあるのか?」
「あります! 将軍もお戯れを……」
 ここはスキンムル城から東に五百メートルの地点。ソルトルムンク聖王国ハクビ将軍の本陣である。
 龍王暦一〇五一年七月二五日の夜、その本陣には数名の者がいた。
 この日の朝十時から始まった戦闘は、一時間足らずで、ナンダの撤退によって終息した。
 理由が分からず本陣へ引き返してきたハクビ将軍や副官達は皆、疲労困憊であった。皆のその顔は敗戦を物語っている顔であった。
 ようやく本陣に戻って、グラフ将軍からの使者の報告で、朱雀騎士団の南方軍が敗れたと知り、ナンダ撤退の合点がいったのである。
「ようやく将軍も冗談が言えるくらい余裕が出てきたようですな! 本陣に戻られた直後は、口もきけないくらいお疲れでしたので……少し心配しました」副官の一人ドンクがハクビに話しかけた。
「少し休んだら元気が出てきた。しかし、今日の戦いはグラフ将軍によって救われた」
「それは、我々も一緒です」ハクビの言葉に、副官のシェーレが言った。
 ここでいう『我々』とは副官のシェーレ、ドンクを含めた今日の戦に参加した全員が含まれるであろう。
「後、一撃……後方からゴッドフラメを受けたら、我が軍は四等分され、一万の烏合の衆が誕生したでしょう」とシェーレ。
「今さらながら老将ムーズ殿の偉大さを思い知らされた。ムーズ殿は、バクラの戦いであのゴッドフラメを三回受け止めたのだから……」
「そうなのですか将軍? 到底信じられません」ハクビの言葉にシェーレはびっくりした。
「そうか、シェーレはバクラでの戦いの顛末を知らなかったな」ハクビの言葉に、
「はい! 将軍! 私はバクラの戦いでは玄武兵団から青龍兵団に派遣され、帝都のドメルス・ラグーンの留守兵でしたので……」とシェーレが答えた。
「それで将軍! 東方軍にはどう対処されますか?」ドンクがハクビに聞いた。
「そうだな! 軍を三つに分けようと思う」
「軍を三つ?」とドンク。
「厳密に言うと四つかな」ハクビが言い直すと、
「四つ? そうすると指揮官が四人必要になるということですか?」とシェーレが尋ねた。
「そうだ!」ハクビが頷き、続けた。
「四人目の指揮官はソヤ殿にお願いしたい」
「私ですか?」龍人(ドラゴノイド)のソヤには寝耳に水であった。
「私にはとても……」「そこを曲げて了承いただきたい! どうしても僕以外に三人指揮官が必要なのです……顔は今までのように頭巾を被っていただければ、他の者にドラゴノイドとは悟られないと思います。家臣達にはグラフ将軍から派遣された大隊長の一人と紹介するつもりです」
「――ハクビ殿がそこまでおっしゃられるのであれば、是非もありません。それでどのような陣形にするのですか?」
「東西南北の四方に四つの菱形の陣形を配置する魚鱗の陣の変形です」
「四方に四つの菱形ですか?」ソヤが尋ねた。
「そうです。ドンク! シェーレ! 中隊長以上を本陣に集めてくれ。明日の決戦は避けられないだろう」
「「はっ!」」ドンクとシェーレはそう言うと、中隊長以上の兵を招集するため、本陣を離れた。
 時間は日付が変わって二六日の午前一時であった。



〔参考一 用語集〕
(人名)
 グラフ(ソルトルムンク聖王国の地利将軍)
 コリード(グラフ将軍の副官)
 シェーレ(ハクビ将軍の副官)
 スルモン(グラフ将軍の副官)
 ソヤ(沙伽羅龍王に仕えていた龍人)
 ドプトル(朱雀騎士団の大隊長の一人。『小ナンダ』の異名を持つ)
 ドンク(ハクビ将軍の副官)
 ナンダ(バルナート帝國四神兵団の一つ朱雀騎士団の軍団長)
 バーフェム(ナンダ軍団長の副官)
 ハクビ(眉と髪が真っ白な記憶喪失の青年。ソルトルムンク聖王国の人和将軍)
 ムーズ(ソルトルムンク聖王国の前人和将軍。故人)
 山の導師(共和の四主の一人)

(国名)
 ソルトルムンク聖王国(大陸中央部から南西に広がる超大国。第八龍王優鉢羅(ウバツラ)の建国した國)
 バルナート帝國(北の強国。第七龍王摩那斯(マナシ)の建国した國。金の産地)

(地名)
 スキンムル城(ソルトルムンク聖王国の東部地域の城)
 ドメルス・ラグーン(バルナート帝國の帝都であり王城)
 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)

(竜名)
 ドラゴノイド(十六竜の一種。竜と人との混血で、竜の血が多く混じっている種類。『竜人』とも言う)

(その他)
 共和の四主(クルックス共和国を影で操っている四人の総称。風の旅人、林の麗姫(れいき)、炎の童子、山の導師の四人)
 玄武兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ ヴォウガーが軍団長)
 朱雀騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ナンダが軍団長)
 青龍兵団(バルナート帝國四神兵団の一つ。バツナンダが軍団長)
 バクラの戦い(龍王暦一〇五〇年三月のバルナート帝國連合とソルトルムンク聖王国連合の戦い。帝國側が勝利)
 白虎騎士団(バルナート帝國四神兵団の一つ。ライアスが軍団長)


〔参考二 大陸全図〕
フォト



〔参考三 あらすじ〕
 龍王暦〇〇〇一年 八大龍王によって八つの國(くに)が建国される。

 龍王暦一〇四九年八月 ソルトルムンク聖王国にあるクルス山でハクビが発見される。ハクビは記憶喪失。

 龍王暦一〇五〇年二月一五日 ソルトルムンク聖王国のコリムーニ老聖王とバルナート帝國のロードハルト帝王がバクラにて会談。その席上コリムーニ老聖王が急死する。
 同年三月一〜三日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國が国境の町バクラで交戦、ソルトルムンク聖王国側大敗(バクラの戦い)。
 同年同月一〇日 ソルトルムンク聖王国の王城陥落。聖王国滅亡。ジュルリフォン聖王子は大陸最南端のツイン城に逃げ込む。
 同年五月三日 コムクリ村にバルナート帝國軍が襲撃、ハクビが白虎騎士団のバルゴー隊長を倒す。以後、グラフ将軍に助けられ、残党軍の拠点であるアユルヌ渓谷に到着する。
 同年八月初頭 バルナート帝國とミケルクスド國連合軍がジュリス王国を滅ぼす。
 同年九月四〜五日 聖王国軍と帝國軍がツイン盆地で激突(ツイン城の戦い)。帝國軍ツイン盆地より撤退。
 同年一〇月一〇日 マルシャース・グール奪回の戦いにおいて、聖王国軍が勝利する。
 同年同月一五日 バルナート帝國とカルガス國連合軍がクルックス共和国を滅ぼす。
 同年同月二六日 バルナート帝國がゴンク帝國を滅ぼす。
 同年同月三〇日 ジュルリフォン第四十九代聖王誕生。ソルトルムンク聖王国の復活。
 同年一一月一一日 ハクビとバルナート帝國朱雀騎士団の軍団長ナンダが戦い、ハクビが敗北する。
 同年一二月一〇日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の間で半年間の休戦条約が締結される。

 龍王暦一〇五一年一月一日 聖王国と帝國が休戦期間に入る(同年六月三〇日まで)。
 同年二月十五日 ハクビが『第八の山』でカリウスと会う。
 同年三月 ソルトルムンク聖王国のマクスール軍とミケルクスド國が戦う。ミケルクスド國が勝利する。
 同年同月二〇日 ソルトルムンク聖王国が敗戦処分を行う。マークは反逆罪になる。
 同年同月二四日 マークがミケルクスド國の首都イーゲル・ファンタムに到着。ラムシェル王に謁見する。ホルム、スリサの両親と再会する。
 同年五月二五日 ハクビがスキンムル城に到着。
 同年七月一日 ソルトルムンク聖王国とバルナート帝國の休戦協定の期限が切れる。
 同年同月一日〜 バルナート帝國朱雀騎士団がマルシャース・グールに向けて進軍を始める。 
2 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する